異世界書店の日常

ラカンス

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1章 平民の意地

第4話

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 僕が首を振った直後、ヘイヤルさんはニコニコと笑いながらアベルに接近していく。
 笑いながら近づいてくるヘイヤルさんを見て笑みを深め、触れられる距離まで来たヘイヤルさんの腰に手を回した。
 しかし、次の瞬間アベルは間抜けな面を晒しながら上空に吹き飛んでいった。
 それを呆然とした顔で見上げる取り巻きとクロイツ様。
 数秒してグシャッという音と共にアベルが石畳に叩きつけられる。
 ピクピクと痙攣しているのを見ていると、不思議なほど気持ちがスッキリするのと同時にこの痙攣しているのをどうしようか悩む。
 下手したら上空に飛んでいったアベルを誰かが目撃していて、憲兵を呼ばれてしまうかもしれない。
 僕がそんなことを思っているとは露知らずにヘイヤルさんはアベルの頭を踏みつけ、取り巻き達に宣言する。

「そこのホンを粗末にするゴミクズに言っておきなさい。次本を傷つけるようなことをしたら、その本と同じようにして殺すって」
「ひ、ひいいぃぃぃぃぃ!!」

 取り巻き達は情けない悲鳴を上げると蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
 ヘイヤルさんに足蹴にされ、顔が地面にめり込んでいるアベルを取り残して。

「ふー、少しスッキリしたわ。さてロゴシュ君。中に入りなさい。早速始めるわよああ。ついでにそっちの女の子も来なさい」
「ちょっと待てやコラ」

 書店の扉を開けて僕を中へ促すヘイヤルさんへ怒りの篭った声がかけられる。
 いつの間に復活したのか、顔に砂や石を貼り付けたアベルが魔法の補助具である杖をヘイヤルさんに突きつけていた。

「平民ごときがこの僕を足蹴にするとは、万死に値する!【火の精霊に我が意を伝える。槍よ、敵を貫け】今すぐ頭を地に擦り付けて命乞いをすれば助けてやろう」

 魔法の詠唱を終え、自分が有利であることを信じて疑っていないのか、ヘイヤルさんを見る目が再び欲望に濁っていく。
 そんなアベルを見かねたのか、クロイツ様も魔法の詠唱を始めた。
 しかし、すぐさま杖の先を向けられてしまい、詠唱を止めざるを得ない状況に陥る。
 呆れた顔をしたヘイヤルさんが掌を前に差し出すと、アベルが急に吹き飛んで壁に叩きつけられた。

「補助具を使わなきゃ魔法を使えない初心者以下の魔法使いが大きな口を叩くじゃない。あなた程度の実力だったら一週間後にはロゴシュ君の方が強くなってるわね」
「ゲホッ、誰が誰よゲホッゲホッ強くなるって?おい」

 壁に叩きつけられてグッタリとしていたアベルは、ヘイヤルさんの最後の言葉に反応して咳き込みながらも立ち上がる。
 目に憎悪の光を宿しながら。

「あら、意外と根性あったのね。何度でも言ってあげるわ。あなたは一週間後にはバカにしているロゴシュ君に勝てなくなる」
「ふざけんな。そんな魔力を全く扱えない雑魚に俺が負けるわけないだろうが!」
「・・・私は実現不可能なことは言わないことにしているの」
「じゃあ一週間後この平民に俺が勝ったらどうするよ」
「何でもしてあげるわ。這いつくばって靴を舐めろと言われたら丁寧に舐めてあげるわ」
「奴隷になれと言ったら」
「素直に首輪を付けてあげる」
「・・・その言葉忘れないからな。平民、一週間後に俺と戦う権利をくれてやる」

 そう言うとふら付きながらも一人でこの場から立ち去っていく。
 何で僕は巻き込まれているのだろうか。
 一週間であのアベルに勝つ?性格はともかく、成績は上から数えたほうが早いあいつに?
 僕がアベルに勝つ光景が全く浮かばない。

「さあさあロゴシュ君。ウジウジ悩んだりする時間は無くなったわよ。これは意地でも勝たないといけないわね」
「あ、ハイ。じゃなくて、何で僕を巻き込んだんですか!たった一週間であいつに勝てるようになるわけがないじゃないですか!」

 僕とアベルが勝負する流れを作ったヘイヤルさんのことを、怒りを込めた目で睨みつける。
 ヘイヤルさんは浮かべていた笑みを消すと、真剣な顔で話し始めた。

「ねえ、確かに私は嘘は吐く、結構いい加減なことも言う。けどね、さっきも言ったけど実現が不可能なことは決して言わない。これを破ったら私を構成している支柱を全部へし折る。私が私でいられなくなるということなのよ」
「そんなのヘイヤルさんの中での話しでしょ!落ちこぼれの僕が成績優秀者に勝てるわけが無いって言ってるんです」
「ロゴシュ君。あなたはそれでいいの?」

 僕の目とヘイヤルさんの目があう。付き合いがほとんどない僕でもなんとなく判ってしまった。
 そこには何も、何の感情もこもっていなかった。
 きっと答えを求めても答えて貰えないだろう。
 僕は・・・どうするべきなんだ。

「何を迷っているんですの?あなたは。たとえ勝てなくても自分の力を伸ばせるいい機会を投げ捨てるというのかしら」

 ・・・悔しい。ただ言われるがままになっていたのが。それを許容していた自分にも腹が立つ。
 今すぐが無理でも、一週間後が無理でも、あいつアベルの鼻をへし折ってやる。

「ヘイヤルさん。僕に魔術を、あいつアベルに勝てるだけの力を身につけるために協力してください!」

 思いっきり頭を下げる。
 下げた頭に軽く手を乗せられ、

「いいわよ。では改めましてロゴシュ君。ようこそ私の店に。私はあなたを歓迎するわ」
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