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1章 平民の意地
第8話
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「でだ、突っ込んできたライトホースの角を仲間が魔法でへし折ってくれたおかげで九死に一生を得たわけだ」
「ライトホースの角って確かこの世で上位に位置するほど固いって話じゃありませんでしたか?」
「そうなんだよな。俺でも魔法で武器の切れ味と筋力を上げなくちゃ傷一つつけられないはずなのにな、あのアホは俺が冗談を言うたびに全力で魔法打ち込んでくるから生きた心地がしねえよ」
「あら?少しの間に随分と仲が良くなったのね」
シロハの話を色々と聞いているうちにヘイヤルさんが書庫から戻ってきていた。
その手には古ぼけた手帳のような物を持っている。
きっとあれがしゃべる翼竜の情報が載っている本だろう。
「あ、ヘイヤル殿。わざわざすみません。んじゃロゴシュ、話の続きはまた今度会ったときな」
「別にもう少し話しててもいいのよ」
「そういうわけにもいきませんよ。それで、ヘイヤル殿が今手に持っているのが・・・」
「ええ、あなたが求めている物よ」
シロハは割れ物を扱うような手つきで手帳を手に取ると恐る恐るページをめくった。そして目を飛び出さんばかりに見開く。
「へ、ヘイヤル殿?これって・・・」
「ごめんなさいね。それぐらいしか翼竜に関して詳しく乗っている資料が無いのよ。他にあればよかったんだけど」
「いえ、むしろこれでお願いします。へへ、千年も前の英雄の手記・・・」
「判ったわ。それじゃあお会計が白金貨三枚になるわ」
値段を告げられた瞬間にシロハは彫像のごとく動きを止めてしまう。
それよりもシロハはあれを英雄の手記って言った?
英雄と呼ばれる人間は歴史の中でも結構な数いるが、千年前と言うと僕は一人しか知らない。
なるほど、あの英雄直筆の手記であれば白金貨三枚だと安すぎるレベル。僕にお金があったら間違いなく購入を決定しているだろう。
「白金貨三枚・・・だめだ、手持ちじゃ足りない。しかも貯蓄額を含めても僅かに足らない。ヘイヤル殿なにとぞ慈悲を!」
「じゃあ本来の値段にする?」
「・・・お金を工面してきますので少し待っててください!」
「早くしないと他の人が買っていっちゃうぞ♪」
お金を工面してくると告げたシロハにヘイヤルさんが笑顔で追い討ちをかけていく。
書店の扉を開いたシロハの顔に水滴のようなものが光に反射していたのは気のせいだと信じたい。信じさせてください。
「さて、今日はもう少しだけ時間を取れるけどロゴ主君は講義を受けたい?」
「はい、できることなら受けたいです」
「よろしい。魔法を扱うものは魔力を使えるようになるまで知識を蓄えておくものだから、ロゴシュ君はかなりいい生徒ということになるわ。私としても教えがいがあるわね」
ふふふ、と楽しそうに微笑むヘイヤルさんに思わ見とれてしまう。
あまりに顔を見すぎた所為だろう。何か不満でもあるのかと不思議そうな顔で尋ねられてしまった。
「いや、不満があるとかじゃないんです。あの、その」
しどろもどろになる僕を小首を傾げながら見つめてくるヘイヤルさん。
「まあいいわ。それよりも、何を話そうかしら」
「魔法の詠唱について教えてください。たしかヘイヤルさんは詠唱しないで魔法を使っていましたよね?」
「あら?よく見てるのね。じゃあロゴシュ君の要望に応えて詠唱に関しての話をしましょう」
黒板に大きな文字で『詠唱ってなあに』と書くと満足げな顔になる。
「それじゃあロゴシュ君は詠唱がどういうものか習ったかしら?」
「はい、たしか魔法にはイメージが大切なので、それを確固たるものにするために詠唱をすると習いました」
「・・・そう、今はそう教えているのね」
僕の回答に誤りがあったのか、据わった眼をしたヘイヤルさんの口から、カルディリオ学園の学園長に対する呪詛が漏れ出てきているため、 今すぐこの場から逃げ出したいと思えるほどには恐怖を感じている。
「後で学院長は締め上げるとしておいて、話を元に戻すわね。ロゴシュ君の言ったことは合っているけど、それは一部でしかないわ」
「一部ですか?」
「そう。ロゴシュ君。基本的に行われる詠唱って言える?」
「確か、『○○の精霊に我が意を伝える』に形状などを唱える感じだったと思います」
「大体その認識で合っているわ。今ロゴシュ君が言ってくれた通り、詠唱の一文には精霊に自分の意思を伝えることが大事なの。その際イメージをハッキリさせないと成功しないし、成功しても魔力を無駄に持ってかれた割には威力が低いなんてことになるわ。逆に言えばイメージさえしっかり伝えられるなら詠唱をする必要なんてないのよ。こんな風に」
突如目の前に小さなつむじ風が発生し、少しすると消えた。
なるほど、精霊にイメージを伝えるのが大事なのか・・・精霊ってなに?
「その顔は精霊が何か気になっている感じかしら?でもその話はとても長くなるからまた今度にしましょう。まあ、詠唱というものは精霊に自分の意思を正確に伝えることが大事よ。もちろんそれに応じた魔力も与えなくてはならないけど」
「伝えることが出来れば魔法は発動できるということですね」
「そうね、ちゃんと伝わればこんなことも出来るわ」
そう言ったヘイヤルさんは、右手を高々と掲げ、左手で左目を覆う奇妙なポーズをとった。
次の瞬間、ヘイヤルさんにスポットライトで照らすかのように様々な光が降り注ぐ。
なんだそれ、凄いカッコいい!
キラキラした目で見ていると、ヘイヤルさんは羞恥と罪悪感をごちゃ混ぜにしたような曖昧な表情を浮かべてしまう。
「ヘイヤル殿!お金集まりまし・・・た・・・?」
果たしてこれはシロハの戻ってくるタイミングが悪かったのか、それとも別の何かが要因だったのかは僕にはわからない。
気がついたときには悲鳴と共にシロハは魔法で強制的に吹き飛ばされ、僕は物理的に書店から追い出されてしまった。
あんなに格好いいのに何が不満だったんだろうか。
・・・あれ?吹き飛ばされて転がっているはずのシロハがいないのは何でだろう。
「ライトホースの角って確かこの世で上位に位置するほど固いって話じゃありませんでしたか?」
「そうなんだよな。俺でも魔法で武器の切れ味と筋力を上げなくちゃ傷一つつけられないはずなのにな、あのアホは俺が冗談を言うたびに全力で魔法打ち込んでくるから生きた心地がしねえよ」
「あら?少しの間に随分と仲が良くなったのね」
シロハの話を色々と聞いているうちにヘイヤルさんが書庫から戻ってきていた。
その手には古ぼけた手帳のような物を持っている。
きっとあれがしゃべる翼竜の情報が載っている本だろう。
「あ、ヘイヤル殿。わざわざすみません。んじゃロゴシュ、話の続きはまた今度会ったときな」
「別にもう少し話しててもいいのよ」
「そういうわけにもいきませんよ。それで、ヘイヤル殿が今手に持っているのが・・・」
「ええ、あなたが求めている物よ」
シロハは割れ物を扱うような手つきで手帳を手に取ると恐る恐るページをめくった。そして目を飛び出さんばかりに見開く。
「へ、ヘイヤル殿?これって・・・」
「ごめんなさいね。それぐらいしか翼竜に関して詳しく乗っている資料が無いのよ。他にあればよかったんだけど」
「いえ、むしろこれでお願いします。へへ、千年も前の英雄の手記・・・」
「判ったわ。それじゃあお会計が白金貨三枚になるわ」
値段を告げられた瞬間にシロハは彫像のごとく動きを止めてしまう。
それよりもシロハはあれを英雄の手記って言った?
英雄と呼ばれる人間は歴史の中でも結構な数いるが、千年前と言うと僕は一人しか知らない。
なるほど、あの英雄直筆の手記であれば白金貨三枚だと安すぎるレベル。僕にお金があったら間違いなく購入を決定しているだろう。
「白金貨三枚・・・だめだ、手持ちじゃ足りない。しかも貯蓄額を含めても僅かに足らない。ヘイヤル殿なにとぞ慈悲を!」
「じゃあ本来の値段にする?」
「・・・お金を工面してきますので少し待っててください!」
「早くしないと他の人が買っていっちゃうぞ♪」
お金を工面してくると告げたシロハにヘイヤルさんが笑顔で追い討ちをかけていく。
書店の扉を開いたシロハの顔に水滴のようなものが光に反射していたのは気のせいだと信じたい。信じさせてください。
「さて、今日はもう少しだけ時間を取れるけどロゴ主君は講義を受けたい?」
「はい、できることなら受けたいです」
「よろしい。魔法を扱うものは魔力を使えるようになるまで知識を蓄えておくものだから、ロゴシュ君はかなりいい生徒ということになるわ。私としても教えがいがあるわね」
ふふふ、と楽しそうに微笑むヘイヤルさんに思わ見とれてしまう。
あまりに顔を見すぎた所為だろう。何か不満でもあるのかと不思議そうな顔で尋ねられてしまった。
「いや、不満があるとかじゃないんです。あの、その」
しどろもどろになる僕を小首を傾げながら見つめてくるヘイヤルさん。
「まあいいわ。それよりも、何を話そうかしら」
「魔法の詠唱について教えてください。たしかヘイヤルさんは詠唱しないで魔法を使っていましたよね?」
「あら?よく見てるのね。じゃあロゴシュ君の要望に応えて詠唱に関しての話をしましょう」
黒板に大きな文字で『詠唱ってなあに』と書くと満足げな顔になる。
「それじゃあロゴシュ君は詠唱がどういうものか習ったかしら?」
「はい、たしか魔法にはイメージが大切なので、それを確固たるものにするために詠唱をすると習いました」
「・・・そう、今はそう教えているのね」
僕の回答に誤りがあったのか、据わった眼をしたヘイヤルさんの口から、カルディリオ学園の学園長に対する呪詛が漏れ出てきているため、 今すぐこの場から逃げ出したいと思えるほどには恐怖を感じている。
「後で学院長は締め上げるとしておいて、話を元に戻すわね。ロゴシュ君の言ったことは合っているけど、それは一部でしかないわ」
「一部ですか?」
「そう。ロゴシュ君。基本的に行われる詠唱って言える?」
「確か、『○○の精霊に我が意を伝える』に形状などを唱える感じだったと思います」
「大体その認識で合っているわ。今ロゴシュ君が言ってくれた通り、詠唱の一文には精霊に自分の意思を伝えることが大事なの。その際イメージをハッキリさせないと成功しないし、成功しても魔力を無駄に持ってかれた割には威力が低いなんてことになるわ。逆に言えばイメージさえしっかり伝えられるなら詠唱をする必要なんてないのよ。こんな風に」
突如目の前に小さなつむじ風が発生し、少しすると消えた。
なるほど、精霊にイメージを伝えるのが大事なのか・・・精霊ってなに?
「その顔は精霊が何か気になっている感じかしら?でもその話はとても長くなるからまた今度にしましょう。まあ、詠唱というものは精霊に自分の意思を正確に伝えることが大事よ。もちろんそれに応じた魔力も与えなくてはならないけど」
「伝えることが出来れば魔法は発動できるということですね」
「そうね、ちゃんと伝わればこんなことも出来るわ」
そう言ったヘイヤルさんは、右手を高々と掲げ、左手で左目を覆う奇妙なポーズをとった。
次の瞬間、ヘイヤルさんにスポットライトで照らすかのように様々な光が降り注ぐ。
なんだそれ、凄いカッコいい!
キラキラした目で見ていると、ヘイヤルさんは羞恥と罪悪感をごちゃ混ぜにしたような曖昧な表情を浮かべてしまう。
「ヘイヤル殿!お金集まりまし・・・た・・・?」
果たしてこれはシロハの戻ってくるタイミングが悪かったのか、それとも別の何かが要因だったのかは僕にはわからない。
気がついたときには悲鳴と共にシロハは魔法で強制的に吹き飛ばされ、僕は物理的に書店から追い出されてしまった。
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