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「二つの指輪」
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「二つの指輪」
横にいたはずの夏子が突然消え陽菜は驚いた。「どないしたん!今の、なっちゃんの悲鳴やろ?」と50メートル先を家族三人で散歩していた稀世が大きな声で叫び走ってきた。その後ろを三朗とひまわりもついてくる。散歩道とホテルを分ける垣根の向こうからは、「今の悲鳴ってなっちゃんの声ですよね。何があったんですか?大丈夫ですか?」とMKの声がする。
「痛たたた…。なんでこんなとこにこんなにでかい穴があんねん。」
芝生に開いた長さ2メートル、幅80センチ、深さ1メートルの穴の底で夏子が仰向けにひっくり返っていた。真っ先に駆けつけた稀世が穴の淵まで来ると
「あー、なっちゃん、前見て歩いてへんかったんやろ。イノシシの掘った穴にはまってしもたんやな。ケラケラケラ。」
と泥まみれになっている夏子を見て笑った。
「なっちゃん、大丈夫ですか?」
とMKもカメラを持って駆けつけた。続いて三朗とひまわりも到着した。MKが穴の底の夏子に右手を差し出すが、「MK君、助けたらあかん!」と稀世がそれを止めた。
「MK君、ちょっと待って。お風呂に入ってる直さんとまりあさん達に写真を送らなあかんやろ!」
と言い、悪戯っ子のような顔をしてスマホを取り出し、穴の底の夏子の写真を撮り、ニコニコメンバーのグループラインに転送した。
「もういいですか?」とMKが稀世に確認して夏子を引き上げると、ハンカチを出して夏子のズボンやポロシャツについた土や芝カスをはたいた。(きゃー、手で払ってくれてもええのに、ハンカチではたくところが「紳士」やなぁ…。やることなすこと「キュンキュン」きてしまうわ…。)と夏子は夢心地でMKに身体をゆだねた。一通り、土や芝をはたき終えるとMKが穴を覗き込んで言った。
「あー、これはイノシシですねぇ。最近、淡路島では里に下りてくるので注意しましょうって出てましたもんね。おそらく「ユリ根」を掘ってたんでしょうね。なっちゃん、体の方は大丈夫ですか?ぶつけたり捻ったりしてませんか?」
夏子は体を左右に捻って「うん、大丈夫やと思う。ちょっとわきはぶつけた感じがあるけど…。」と言った瞬間に、稀世が夏子のポロシャツを脇までめくった。MKの前で夏子の真っ赤なブラジャーが晒される。「きゃっ!」っと夏子が叫ぶが気にせず稀世は夏子のわきから背中を確認する。
「うん、青たんもできてないし赤くもなってへんから大丈夫やろ。それにしても相変わらず派手な下着つけてんなぁ。」
と笑いながらポロシャツの裾を下ろす稀世に
「稀世姉さん、MKの前でめちゃくちゃせんとってくださいよ。私はまだ「乙女」やねんからねー。」
と文句を言った。
稀世ははたと「勘」が働き、「ごめんごめん。「運命の人」の前やったね。」と謝った。「運命の人って何ですか?」とMKが稀世に尋ねると
「わー、稀世姉さん、それ無し!絶対に無し!」
と夏子は強引に会話を遮った。
イノシシの掘った穴を覗き込んでいたひまわりがひとりで穴の中に降りて行った。
「ひまちゃん、どうしたん?なんかあるの?」
と三朗が声をかけると、底まで下りたひまわりは小さな手で土を浅く掘り返している。皆が注目する中、土にまみれた二つの小さな物体を掘り出した。その瞬間、ひまわりの髪が逆立ち、小さく「エイエ・エシェル・エイエ…。」と呟いたがその言葉は皆の耳には言葉としては届かなかった。「ひまちゃん、今、何か言った?」と稀世が尋ねたが「えっ、何も言ってないよ。」とひまわりは答えた。
ひまわりは拾い上げた小さな物体についた土を小さな手で払うと形が見えてきた。丸と四角の石にリング状のものがついている。どうやら2センチほどの大きめの石のついた指輪のようだった。半透明の白い石に何か模様が彫りこんであるように見える。
「お母さん、指輪だよ。」
とひまわりが稀世に手渡す。稀世は腰にぶら下げたミネラルウォーターで指輪の表面に固着した土を洗い流した。
一つの指輪の石には「馬」か「鹿」のような動物らしきものと、通常の5つの頂点がある星ではなく三角形が二つ反転して重なる「六芒星」が彫りこまれていた。もう一つの指輪には「帆掛け船」らしき模様と、動物らしき柄の指輪と同様に「六芒星」が描かれている。指輪の裏面にはミミズがはったような文字らしいものが彫りこまれている。
稀世の手のひらの指輪にその場にいた全員が注目した。ふと夏子の頭の中に、行きのバスの中で読み上げた「大スポ」の星占いが頭をよぎった。(今日のラッキーアイテムは「指輪」!まさにこのことを予言してたんとちゃうの?)夏子は、稀世の手のひらから指輪をさっと奪うと空に向け呟いた。
「これは天啓や!」
穴の底から三朗に手を引かれ上がってきたひまわりに
「この指輪は、お姉ちゃんが穴にはまったから見つかったみたいなもんやんなぁ。ひまちゃんにはちょっとサイズも大きすぎるから、飴ちゃんあげるからこの指輪はお姉ちゃんにちょうだいな。」
と言い、ポシェットから飴玉を三つ取り出すと泥のついたままのひまわりの手に握らせた。「ひまちゃん、嫌やったらなっちゃんに渡さんでもええねんで。」と稀世が言ったが、
「いいよ。なっちゃんにあげる。私が持ってるよりなっちゃんが持ってる方がいいかもね…。」
とあっさりと指輪の所有権を放棄した。陽菜は「なっちゃん、飴三つってそれはちょっとひどいんとちゃうの?」と夏子を咎めたが「ラッキーアイテム」ゲットの余韻に浸った夏子の耳には陽菜の言葉は届かなかった。指輪を天にかざして目を細めてみている夏子に、
「なっちゃん、よかったらその指輪を僕に見せてくれませんか?」
とMKが話しかけた。
「うん、もちろんええよ。」
と夏子はMKに指輪を手渡した。夏子の指先がMKの手に触れた瞬間、夏子の身体に電気が流れたような感覚が襲った。(きゃー、今、めっちゃ「ビビッ」っと来たで。これはもう「大スポ」様のいう事に間違いはないわ!)と夏子は確信をした。
MKは真剣に指輪を見つめている。(えらい見入ってるけどこんな悪戯描きみたいな絵の入った指輪にそんな価値があんの?まあ、指輪そのものより、私の手が触れた指輪をMKがしっかりと見つめてるシチュエーションに萌えるよな…。あぁ、この真剣な眼差しを私に向けてほしい…。)と思っていると、稀世のスマホが鳴った。「おーい、稀世ちゃん。散歩中か?6時から晩御飯食べられるみたいやからちょっと早いけど始めようや。夏子と陽菜とMK君も部屋にはおれへんみたいやから見かけたら声掛けといてくれな。」と直は電話で一方的に話すと「まりあちゃんと先にビール飲んでるわな。」と言い残し電話を切った。
「直さんからやってんけど、宴会場の準備ができたみたいやわ。6時から食べられるみたいやから戻っておいでって。お風呂は宴会の後やな。MK君も準備したら宴会場で集合な。」
と稀世は言うと、三朗と一緒にひまわりの手をつないで先にホテルに戻っていった。
「MK、6時から宴会やって。それまでに指輪は部屋で歯ブラシできれいに磨いて持って行くわ。その指輪について何かあるんやったら話聞かせてもらえる?」
と可愛ぶった夏子が言うと、MKは指輪を夏子に渡し笑顔で返答した。
「じゃあ、なっちゃんのおとなりの席に座らせてもらっていいですか?ゆっくりとお話ししましょう。」
夏子は「ルンルン」で陽菜と一緒に部屋に帰った。真っ先に洗面所に飛び込み歯ブラシで指輪を洗い始めた。細かい模様や溝に入った土を掻き出しながら弾んだ声で陽菜に尋ねた。
「陽菜ちゃん、ミニスカートと浴衣とどっちがええと思う?」
陽菜は一瞬考えて、
「そりゃここは「浴衣」やろ。ただ、なっちゃん飲み過ぎたら行儀悪くなってしまうから、今日は「日本酒」は控えや。MK君の前で「浴衣」はだけさせて、真っ赤なTバックのショーツ見せたら引かれてしまうと思うから注意しいや。大和撫子を演じなあかんで。」
と優しく夏子を戒めた。
「ありがとう。さすが、持つべきものは「親友」やな。気をつけるようにするわな。この宴会をきっかけにぐっと距離を縮めたいから援護射撃頼むで!」
と礼を告げると、綺麗になった指輪をネックレスに通し胸元にぶら下げた。
夏子と陽菜が宴会場に着くと、みんな揃っていた。MKの両隣には羽藤と舩阪が座っていた。夏子が浴衣の着付けにとまどっている間に陽菜が舩阪に忖度してMKの横の席をキープしてもらっていたのだった。夏子は舩坂に礼を言い、しとやかにMKの隣の席に着いた。
「じゃあ、「災い転じて福となす」。向日葵寿司に車で飛び込んだ尾崎はんのおかげで今日、こうして憧れのニューホテル淡路で温泉を楽しみ宴会を開くことができました。まずは、三朗と稀世ちゃんに感謝の意を込めて大きな拍手をー!では、皆さん、ビールが手元に準備できましたら…、乾杯―!」
と直の開会宣言で宴が始まった。
夏子はMKに「ちょっと待っててな。日本には「年配者を敬うしきたり」があるんでな。」と断りを入れ、瓶ビールを持って、直、羽藤、まりあ、三朗、稀世の順で酌をして回った。
「MKは26歳ってことやったやんなぁ。私のふたつ上やから、まずは私からお酌させてもらうわな。はい、どうぞ。」
と夏子はMKのグラスにビールを注いだ。MKは一気にグラスを空け「なっちゃんもどうぞ。」と返杯した。向かいの席で陽菜がアイサインを送ってきた。一瞬考えて、夏子も美味しそうにグラス半分飲んだ。(あっ、やべぇ…。いつもの調子で一気飲みして「ぷはーっ」ってするところやった。陽菜ちゃん、ナイスフォロー!ありがとうね!)
会食が始まって30分。カラオケタイムに入り、直が「十八番」を披露し始めた。夏子は、ネックレスを外し二つの指輪を手に持った。
「歯ブラシで磨いたから結構綺麗になったやろ。ちなみに指輪の石の表は変な「絵」やけど、指輪のベースの裏はなんか文字みたいなもんが書かれてるよな。英語でも日本語でもあれへんみたいやねんけど…」
指輪の裏を指し示し、夏子は意識的にMKに身体を寄せた。肩が触れ合う距離でMKの御膳の上に二つの指輪を並べた。MKは帆掛け船と六芒星が描かれた指輪を手に取り裏面を見た。
「うーん、これは古代ヘブライ文字みたいですねぇ。そうだとするならば、旧約聖書が作られた時代から新約聖書ができたくらいまでに書かれたと推測できますから、二千年から三千年前のものである可能性がありますね。「ガル・ゴデッシュ」と読めますね。」
「えっ、MKってそんな昔の文字も読めるん?めっちゃ凄いねんけど…。ちなみにどういう意味なん?」
「まあ、古代のイスラエルの財宝やアーク探しの趣味が高じて、覚えたものですから誉めてもらうようなことじゃないですよ。意味は、いくつかありますけど、「聖なる波」または「聖なる立石」と訳すのが一般的ですね。余談ですけど、この建物の敷地に古代ユダヤの遺跡らしいものが見つかったことがあるって話はバスの中でしたと思うんですけど、指輪表の「帆掛け船」、ここではあえて「帆船」と言います。「船」を主体として考えて文字が彫られているとするならば「聖なる波」でしょうし、この場に埋もれていたとされる古代遺跡に捧げられた装飾品だとするならば「聖なる立石となるでしょうね。」
と説明したが夏子には何を言っているのか理解できない。
そこに一曲歌い終わった直がやってきて指輪を見て言った。
「おっ、これがひまちゃんから騙し取った指輪っていうやつやな。まだ3歳のひまちゃんに対して飴玉三つで相変わらず悪どいことしよんなぁ。その騙し取った指輪ちょっと見せてみいや。」
「もう、「騙し取った」とか「悪どい」とか言わんとってや。それに「相変わらず」ってなによ。私の印象悪くなるようなことばっかり言わんとって!」
と夏子が憤慨するが、直は気にせず「帆船」と「鹿」の描かれた指輪を両手でつかみ、全体を覗き見る。隣の席の羽藤を呼び、「一志、この裏の文字読めるか?」と帆船の指輪を渡した。
夏子が羽藤に対して「それはMKが「ガルなんとか」って読んでんねん。古代のヘブライ文字やねんて。」と言うと、羽藤は
「ガル・ゴデッシュ」ですね。「聖なる波」って意味だったかな。確か、淡路島で開かれたイスラエル建国69年祭の時に来られたイスラエル大使がこの近くで掘り起こされた「指輪」とヘブライ文字の書かれた「女陰石」を見て、石に書かれていた言葉と同じですね。」
と簡単に語った。
「「にょいんせき」ってなに?羽藤さんもこの文字読めるの?」
と夏子が質問をすると
「うーん、夏子さんの前で言うのは憚られるんですが、「女陰石」と言うのは「女性器」が描かれた石の事で、農産物や畜産物の豊穣を願って奉納される古代ユダヤ教の習わしに沿ったものですね。確か、1996年に井上さんっていう人が発見したその石に「ガル・ゴデッシュ」と刻まれてたと、時の大使が言ってたと思います。」
と答えると、MKがスマホでググり、その画像を取り出した。それを見て夏子はあざとく恥ずかしがった。
「きゃー、ほんまに女の人の「H」な部分が描かれてる!いやーん。」
直がもう一つの動物の描かれた指輪を見て「この動物は角があるから「鹿」か?あと「ダビデの星」やな?裏はちょっと長い文章になっとんな。MK君、これは読めるんか?」と直がMKに尋ねると、MKは裏を見ると一瞬顔色が変わったが、すぐに元の表情に戻り、
「ちょっとこれは読めないですねぇ…。絵柄は直さんが言うように「鹿」だと思います。「帆船」に「鹿」は少しオカルトや都市伝説っぽくなっちゃいますけど、失われたユダヤ12支族の種族の「トーテム」ですね。」
と答えた。夏子が素っ頓狂な顔をして再度質問した。
「「トーテム」って何?「トーテムポール」のトーテム?それに失われたユダヤ12支族って何?」
「まず、「トーテム」はなっちゃんが言うようにトーテムポールの「トーテム」です。簡単に言うと「トーテム」って言うのは部族や血統と宗教的に動植物やモノと結びつけたものですね。ネイティブインディオやアフリカ原住民のトーテムポールは、犬やオオカミや馬などの動物や鷹や鷲と言った鳥類を神として祀り、デザインしたものが多いですね。失われた12支族って言うのは、紀元前の旧イスラエル帝国であったソロモン王朝が紀元前722年に滅ぼされた際に、かつてのエルサレムを追われ国外退避したユダヤ人の部族になります。
その中に「帆船」をトーテムとした「ゼブルン族」と「鹿」をトーテムとした「ナフタリ族」が日本までやってきたという都市伝説的な話もありますので非常に興味深いですね。日本でも関西地方の旧の豪族の「物部氏」のトーテムが「鹿」であることから、「物部氏」は「ユダヤ人」なんて話も存在しますね。
ちなみにユダヤ建国69年祭の時に先ほどの女陰石と一緒に見つかったっていう「ダビデの星」が描かれた指輪と「鹿」らしき絵が描かれた指輪を元駐日大使のエリ・コーヘン氏が確認しています。同じ、淡路島から酷似したデザインの指輪が発見されたことは非常に興味深いですね。」
とやや興奮気味にMKは夏子と直に説明した。「ちょっと、そっちも見せてくれるかな?」と羽藤が「鹿」の指輪も確認した。「どや、一志、読めたか?」と直が聞くと、一拍あけて羽藤は首を横に振った。
横にいたはずの夏子が突然消え陽菜は驚いた。「どないしたん!今の、なっちゃんの悲鳴やろ?」と50メートル先を家族三人で散歩していた稀世が大きな声で叫び走ってきた。その後ろを三朗とひまわりもついてくる。散歩道とホテルを分ける垣根の向こうからは、「今の悲鳴ってなっちゃんの声ですよね。何があったんですか?大丈夫ですか?」とMKの声がする。
「痛たたた…。なんでこんなとこにこんなにでかい穴があんねん。」
芝生に開いた長さ2メートル、幅80センチ、深さ1メートルの穴の底で夏子が仰向けにひっくり返っていた。真っ先に駆けつけた稀世が穴の淵まで来ると
「あー、なっちゃん、前見て歩いてへんかったんやろ。イノシシの掘った穴にはまってしもたんやな。ケラケラケラ。」
と泥まみれになっている夏子を見て笑った。
「なっちゃん、大丈夫ですか?」
とMKもカメラを持って駆けつけた。続いて三朗とひまわりも到着した。MKが穴の底の夏子に右手を差し出すが、「MK君、助けたらあかん!」と稀世がそれを止めた。
「MK君、ちょっと待って。お風呂に入ってる直さんとまりあさん達に写真を送らなあかんやろ!」
と言い、悪戯っ子のような顔をしてスマホを取り出し、穴の底の夏子の写真を撮り、ニコニコメンバーのグループラインに転送した。
「もういいですか?」とMKが稀世に確認して夏子を引き上げると、ハンカチを出して夏子のズボンやポロシャツについた土や芝カスをはたいた。(きゃー、手で払ってくれてもええのに、ハンカチではたくところが「紳士」やなぁ…。やることなすこと「キュンキュン」きてしまうわ…。)と夏子は夢心地でMKに身体をゆだねた。一通り、土や芝をはたき終えるとMKが穴を覗き込んで言った。
「あー、これはイノシシですねぇ。最近、淡路島では里に下りてくるので注意しましょうって出てましたもんね。おそらく「ユリ根」を掘ってたんでしょうね。なっちゃん、体の方は大丈夫ですか?ぶつけたり捻ったりしてませんか?」
夏子は体を左右に捻って「うん、大丈夫やと思う。ちょっとわきはぶつけた感じがあるけど…。」と言った瞬間に、稀世が夏子のポロシャツを脇までめくった。MKの前で夏子の真っ赤なブラジャーが晒される。「きゃっ!」っと夏子が叫ぶが気にせず稀世は夏子のわきから背中を確認する。
「うん、青たんもできてないし赤くもなってへんから大丈夫やろ。それにしても相変わらず派手な下着つけてんなぁ。」
と笑いながらポロシャツの裾を下ろす稀世に
「稀世姉さん、MKの前でめちゃくちゃせんとってくださいよ。私はまだ「乙女」やねんからねー。」
と文句を言った。
稀世ははたと「勘」が働き、「ごめんごめん。「運命の人」の前やったね。」と謝った。「運命の人って何ですか?」とMKが稀世に尋ねると
「わー、稀世姉さん、それ無し!絶対に無し!」
と夏子は強引に会話を遮った。
イノシシの掘った穴を覗き込んでいたひまわりがひとりで穴の中に降りて行った。
「ひまちゃん、どうしたん?なんかあるの?」
と三朗が声をかけると、底まで下りたひまわりは小さな手で土を浅く掘り返している。皆が注目する中、土にまみれた二つの小さな物体を掘り出した。その瞬間、ひまわりの髪が逆立ち、小さく「エイエ・エシェル・エイエ…。」と呟いたがその言葉は皆の耳には言葉としては届かなかった。「ひまちゃん、今、何か言った?」と稀世が尋ねたが「えっ、何も言ってないよ。」とひまわりは答えた。
ひまわりは拾い上げた小さな物体についた土を小さな手で払うと形が見えてきた。丸と四角の石にリング状のものがついている。どうやら2センチほどの大きめの石のついた指輪のようだった。半透明の白い石に何か模様が彫りこんであるように見える。
「お母さん、指輪だよ。」
とひまわりが稀世に手渡す。稀世は腰にぶら下げたミネラルウォーターで指輪の表面に固着した土を洗い流した。
一つの指輪の石には「馬」か「鹿」のような動物らしきものと、通常の5つの頂点がある星ではなく三角形が二つ反転して重なる「六芒星」が彫りこまれていた。もう一つの指輪には「帆掛け船」らしき模様と、動物らしき柄の指輪と同様に「六芒星」が描かれている。指輪の裏面にはミミズがはったような文字らしいものが彫りこまれている。
稀世の手のひらの指輪にその場にいた全員が注目した。ふと夏子の頭の中に、行きのバスの中で読み上げた「大スポ」の星占いが頭をよぎった。(今日のラッキーアイテムは「指輪」!まさにこのことを予言してたんとちゃうの?)夏子は、稀世の手のひらから指輪をさっと奪うと空に向け呟いた。
「これは天啓や!」
穴の底から三朗に手を引かれ上がってきたひまわりに
「この指輪は、お姉ちゃんが穴にはまったから見つかったみたいなもんやんなぁ。ひまちゃんにはちょっとサイズも大きすぎるから、飴ちゃんあげるからこの指輪はお姉ちゃんにちょうだいな。」
と言い、ポシェットから飴玉を三つ取り出すと泥のついたままのひまわりの手に握らせた。「ひまちゃん、嫌やったらなっちゃんに渡さんでもええねんで。」と稀世が言ったが、
「いいよ。なっちゃんにあげる。私が持ってるよりなっちゃんが持ってる方がいいかもね…。」
とあっさりと指輪の所有権を放棄した。陽菜は「なっちゃん、飴三つってそれはちょっとひどいんとちゃうの?」と夏子を咎めたが「ラッキーアイテム」ゲットの余韻に浸った夏子の耳には陽菜の言葉は届かなかった。指輪を天にかざして目を細めてみている夏子に、
「なっちゃん、よかったらその指輪を僕に見せてくれませんか?」
とMKが話しかけた。
「うん、もちろんええよ。」
と夏子はMKに指輪を手渡した。夏子の指先がMKの手に触れた瞬間、夏子の身体に電気が流れたような感覚が襲った。(きゃー、今、めっちゃ「ビビッ」っと来たで。これはもう「大スポ」様のいう事に間違いはないわ!)と夏子は確信をした。
MKは真剣に指輪を見つめている。(えらい見入ってるけどこんな悪戯描きみたいな絵の入った指輪にそんな価値があんの?まあ、指輪そのものより、私の手が触れた指輪をMKがしっかりと見つめてるシチュエーションに萌えるよな…。あぁ、この真剣な眼差しを私に向けてほしい…。)と思っていると、稀世のスマホが鳴った。「おーい、稀世ちゃん。散歩中か?6時から晩御飯食べられるみたいやからちょっと早いけど始めようや。夏子と陽菜とMK君も部屋にはおれへんみたいやから見かけたら声掛けといてくれな。」と直は電話で一方的に話すと「まりあちゃんと先にビール飲んでるわな。」と言い残し電話を切った。
「直さんからやってんけど、宴会場の準備ができたみたいやわ。6時から食べられるみたいやから戻っておいでって。お風呂は宴会の後やな。MK君も準備したら宴会場で集合な。」
と稀世は言うと、三朗と一緒にひまわりの手をつないで先にホテルに戻っていった。
「MK、6時から宴会やって。それまでに指輪は部屋で歯ブラシできれいに磨いて持って行くわ。その指輪について何かあるんやったら話聞かせてもらえる?」
と可愛ぶった夏子が言うと、MKは指輪を夏子に渡し笑顔で返答した。
「じゃあ、なっちゃんのおとなりの席に座らせてもらっていいですか?ゆっくりとお話ししましょう。」
夏子は「ルンルン」で陽菜と一緒に部屋に帰った。真っ先に洗面所に飛び込み歯ブラシで指輪を洗い始めた。細かい模様や溝に入った土を掻き出しながら弾んだ声で陽菜に尋ねた。
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と優しく夏子を戒めた。
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と礼を告げると、綺麗になった指輪をネックレスに通し胸元にぶら下げた。
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「じゃあ、「災い転じて福となす」。向日葵寿司に車で飛び込んだ尾崎はんのおかげで今日、こうして憧れのニューホテル淡路で温泉を楽しみ宴会を開くことができました。まずは、三朗と稀世ちゃんに感謝の意を込めて大きな拍手をー!では、皆さん、ビールが手元に準備できましたら…、乾杯―!」
と直の開会宣言で宴が始まった。
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「MKは26歳ってことやったやんなぁ。私のふたつ上やから、まずは私からお酌させてもらうわな。はい、どうぞ。」
と夏子はMKのグラスにビールを注いだ。MKは一気にグラスを空け「なっちゃんもどうぞ。」と返杯した。向かいの席で陽菜がアイサインを送ってきた。一瞬考えて、夏子も美味しそうにグラス半分飲んだ。(あっ、やべぇ…。いつもの調子で一気飲みして「ぷはーっ」ってするところやった。陽菜ちゃん、ナイスフォロー!ありがとうね!)
会食が始まって30分。カラオケタイムに入り、直が「十八番」を披露し始めた。夏子は、ネックレスを外し二つの指輪を手に持った。
「歯ブラシで磨いたから結構綺麗になったやろ。ちなみに指輪の石の表は変な「絵」やけど、指輪のベースの裏はなんか文字みたいなもんが書かれてるよな。英語でも日本語でもあれへんみたいやねんけど…」
指輪の裏を指し示し、夏子は意識的にMKに身体を寄せた。肩が触れ合う距離でMKの御膳の上に二つの指輪を並べた。MKは帆掛け船と六芒星が描かれた指輪を手に取り裏面を見た。
「うーん、これは古代ヘブライ文字みたいですねぇ。そうだとするならば、旧約聖書が作られた時代から新約聖書ができたくらいまでに書かれたと推測できますから、二千年から三千年前のものである可能性がありますね。「ガル・ゴデッシュ」と読めますね。」
「えっ、MKってそんな昔の文字も読めるん?めっちゃ凄いねんけど…。ちなみにどういう意味なん?」
「まあ、古代のイスラエルの財宝やアーク探しの趣味が高じて、覚えたものですから誉めてもらうようなことじゃないですよ。意味は、いくつかありますけど、「聖なる波」または「聖なる立石」と訳すのが一般的ですね。余談ですけど、この建物の敷地に古代ユダヤの遺跡らしいものが見つかったことがあるって話はバスの中でしたと思うんですけど、指輪表の「帆掛け船」、ここではあえて「帆船」と言います。「船」を主体として考えて文字が彫られているとするならば「聖なる波」でしょうし、この場に埋もれていたとされる古代遺跡に捧げられた装飾品だとするならば「聖なる立石となるでしょうね。」
と説明したが夏子には何を言っているのか理解できない。
そこに一曲歌い終わった直がやってきて指輪を見て言った。
「おっ、これがひまちゃんから騙し取った指輪っていうやつやな。まだ3歳のひまちゃんに対して飴玉三つで相変わらず悪どいことしよんなぁ。その騙し取った指輪ちょっと見せてみいや。」
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と簡単に語った。
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と答えると、MKがスマホでググり、その画像を取り出した。それを見て夏子はあざとく恥ずかしがった。
「きゃー、ほんまに女の人の「H」な部分が描かれてる!いやーん。」
直がもう一つの動物の描かれた指輪を見て「この動物は角があるから「鹿」か?あと「ダビデの星」やな?裏はちょっと長い文章になっとんな。MK君、これは読めるんか?」と直がMKに尋ねると、MKは裏を見ると一瞬顔色が変わったが、すぐに元の表情に戻り、
「ちょっとこれは読めないですねぇ…。絵柄は直さんが言うように「鹿」だと思います。「帆船」に「鹿」は少しオカルトや都市伝説っぽくなっちゃいますけど、失われたユダヤ12支族の種族の「トーテム」ですね。」
と答えた。夏子が素っ頓狂な顔をして再度質問した。
「「トーテム」って何?「トーテムポール」のトーテム?それに失われたユダヤ12支族って何?」
「まず、「トーテム」はなっちゃんが言うようにトーテムポールの「トーテム」です。簡単に言うと「トーテム」って言うのは部族や血統と宗教的に動植物やモノと結びつけたものですね。ネイティブインディオやアフリカ原住民のトーテムポールは、犬やオオカミや馬などの動物や鷹や鷲と言った鳥類を神として祀り、デザインしたものが多いですね。失われた12支族って言うのは、紀元前の旧イスラエル帝国であったソロモン王朝が紀元前722年に滅ぼされた際に、かつてのエルサレムを追われ国外退避したユダヤ人の部族になります。
その中に「帆船」をトーテムとした「ゼブルン族」と「鹿」をトーテムとした「ナフタリ族」が日本までやってきたという都市伝説的な話もありますので非常に興味深いですね。日本でも関西地方の旧の豪族の「物部氏」のトーテムが「鹿」であることから、「物部氏」は「ユダヤ人」なんて話も存在しますね。
ちなみにユダヤ建国69年祭の時に先ほどの女陰石と一緒に見つかったっていう「ダビデの星」が描かれた指輪と「鹿」らしき絵が描かれた指輪を元駐日大使のエリ・コーヘン氏が確認しています。同じ、淡路島から酷似したデザインの指輪が発見されたことは非常に興味深いですね。」
とやや興奮気味にMKは夏子と直に説明した。「ちょっと、そっちも見せてくれるかな?」と羽藤が「鹿」の指輪も確認した。「どや、一志、読めたか?」と直が聞くと、一拍あけて羽藤は首を横に振った。
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