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「ニコニコ商店街」
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「ニコニコ商店街」
10月4日時点で夏子、陽菜、舩阪に稀世、直のニコニコ商店街のメンバーがウクライナの地で義勇兵に混ざって戦闘に参加している理由は9月20日に遡る。
大阪府の中東部に位置する人口11万7千人強の中堅都市で、市の北部を東西に走る京阪電車の門真市駅の東に位置する「門真市駅東商店街」、通称「ニコニコ商店街」の端に位置する「向日葵寿司」の女将長井稀世は、ニコニコ商店街内にあるインディーズプロレス団体の「大阪ニコニコプロレス」のエースレスラーで「門真の女神」、「不死身の嫁」等の二つ名、三つ名で呼ばれる、「やたらとトラブルに巻き込まれる体質」のGカップ女子レスラー、29歳で一女の母である。
4年前、ニコニコプロレスの門真市営体育館での交流戦がきっかけで、それまで稀世の大ファンだった向日葵寿司三代目の長井三朗と結婚し、ニコニコ商店街に限らず、いろんな場所でトラブルに巻き込まれるも、やや「天然」が入った持ち前の明るさと類稀に見る身体能力で、銀行強盗犯、やくざ、テロリスト、児童誘拐組織、他国の特殊部隊、IT犯罪者等と戦ってきた。相棒の三朗は、喧嘩や格闘はからきしだが、常に稀世の傍にいて陰になり日向になり稀世を支え続けてきている。
そんな二人の最大の理解者で応援者がニコニコ商店街会長で74歳にして居合術の達人で「元気溌剌」で「女黄門様」の異名を持つ菅野直で、向日葵寿司の常連である。4年前の9月3日に医師の誤診により「余命半年」の告知を受けた稀世と三朗の婚姻を半ば強引に進め、稀世をニコニコ商店街のメンバーに引き込んだ張本人である。今日もランチタイムに向日葵寿司のカウンターでビールを飲みながら寿司をつまんでいる。
「稀世姉さん、三朗兄さんちょりーす!今日もランチ二つねー!」
「お邪魔しまーす。粋華姉さんもう来てはりますかー?」
ニコニコプロレスの稀世の後輩レスラーの坂川夏子と仲田陽菜が引き戸を開けて入ってきた。
「あー、粋華は今、まりあさんとこに行ってるわ。いろいろと大会出場の契約関係の書類があるって言ってたから、もうちょっとしたら来るんとちゃうかな?」
稀世が冷たい緑茶を二つカウンターに置くと、夏子は一気飲みした。
「今回のWWEはロサンゼルス大会やろ。サンタモニカビーチでイケメンにナンパされるか、ユニバーサルスタジオではっちゃけるか、ラスベガスで爆稼ぎするか悩んでしまうよなー!ちなみに今日の大スポの星占いで「このひと月の間に人生を変える運命的な出会いがある。ラッキーナンバーは「18」。ちなみにアンラッキーナンバーは「20」」ってでてたんやで!」
「うーん、なっちゃんの「大スポの星占い」好きはわかるけど、過去にまともに当たった試しあれへんやん。申し訳ないけど「ユニバではっちゃける」以外は望み薄やから期待せんほうがええんとちゃうか…」
二人の会話に直が突っ込んだ。
「ベガスで爆稼ぎは可能性としては0.001%くらいはあるかもしれへんけど、夏子がサンタモニカビーチでイケメンにナンパされる可能性は「ナッシング」や!「永遠のゼロ」やろ!寝言は寝てる時に言え!カラカラカラ。」
夏子は不機嫌に「三朗兄さん、私もビールだして!」と言うと、雑にグラスに注ぎ泡だらけのビールを一気にあおった。
「おーい、稀世、久しぶりー!お土産よおさん持って来たったぞー!」
と元ニコニコプロレスで「パイヒール粋華」のリングネームで稀世と戦い、現在は世界最大のプロレス団体のWWEの人気ディーバ「サイキッカーSUIKA」としてレギュラーレスラーで参戦している「Hカップ」の武藤粋華が岩井まりあと一緒に入ってきた。
カウンター席に座っている夏子と陽菜に一瞥をくれると、その隣に座っている直に気づき「師匠、ご無沙汰しております。相変わらず「大活躍」とのことで!」と丁寧にお辞儀した。「おうおう、粋華も達者でやっとるみたいやのう。ロスの大会のタイトル防衛戦を楽しみにしてるで。」と直が新たなグラスにビールを注ぎ粋華に手渡した。
まりあと共に直の横に座ると、大きなブランド物の紙袋を直と稀世に手渡した。「いつも悪いな。日本に帰ってくるたびに散財させてしもて」と稀世が恐縮すると、
「稀世は客商売やねんから、もうちょっと自分を磨かなあかんで。元は「私の次」にええもん持ってんねんから。HAHAHA。」
とアメリカナイズされた豪快な笑い方をした。
「粋華姉さん、私らにお土産は?」
と夏子がねだると、一着二千ドルは下らないであろう、ブランド物のジャケットのポケットから小さなものを取り出すと、夏子と陽菜に手渡した。
「はい、夏子にはJALのビジネスクラスの「ナッツ」や。陽菜には今、ニューヨークで若い子に流行っている新色のルージュや。」
ふて腐れる夏子が粋華に文句を言った。
「粋華姉さん、酷い「差」やないですか?私も「ルージュ」がいい!」
粋華は、やれやれと言う顔をして「夏子にはええもんやっても、見せる相手が居れへんや無いか。」と言うと、夏子は何も言えなくなった。
「9月23日に出発して25日に大会ですよね。まりあさんと稀世さんはセミファイナルでアグネスとマチルダ戦、セミセミは粋華さんのタイトルマッチですよね。僕は、大会が終わったらすぐに帰国させてもらいますけど、皆さんはゆっくりされるんですよね?稀世さんのことお願いしますね。お二人には「上にぎり」のサービスです。」
と中トロ、うに、いくら、ウナギがのった寿司下駄を提供すると、ビールの栓を抜いた。
「せやねん。CEOが稀世を接待したいってな。まあ、引き抜き交渉する気満々みたいやから、もしかしたら日本に帰ってけえへんかもしれへんで。HYOHYOHYO。」
と粋華が笑った。
「あー、そうそう、今回の大会はLA出身のアグネスとマチルダの凱旋大会でもあるから前座で「アグ・マチ」の出身のLALWEやカリフォルニア州の女子インディーズ団体のバトルロイヤルがあるから、夏子と陽菜も出られるように話したろか?枯れ木も山の賑わいってやつや。一応、全世界配信やから「世界デビュー」にはなるぞ。」
粋華が夏子と陽菜にサプライズ提案をすると、二つ返事で「出る出る!世界デビューする!」と夏子が食いついた。
「ちょっと、粋華、ええの?「恥の輸出」になれへんか?「日本の女子プロレスのレベルがこの子らやって」なったら困るやろ?」
まりあが止めに入ると、粋華が笑いながら言った。
「そこは、私とまりあさんと稀世がええ試合を見せるからオッケーですわ。バトルロイヤルやから誰もあほの夏子と陽菜の事なんか記憶にも記録にも残れへんってな。HYAHYAHYA。」
「それにしても、粋華、あんたの笑い方、完全にアメリカ人になっとんな。」
稀世が突っ込むと「稀世もアメリカに落ち着いたらすぐにこないなるで。本気で私とWWEでタッグ組めへんか!」と真顔で言われ、少し困って三朗と顔を見合わせた。
その後、まりあからWWE参戦中の条件の説明を受け、稀世は書類にサインした。ロスに向かうのは、稀世とまりあの出場コンビに三朗とひまわり、夏子と陽菜と彼氏の舩阪、そして直と現地での通訳兼ガイド代わりの羽藤一志の九人となっている。
三日後の出発まで、粋華は特別用事があるわけではないというので、翌日はみんなで「府民体育祭」に参加することになった。
9月21日、朝から秋晴れの天気の中、ニコニコ商店街のメンバーと粋華は長居陸上競技場にいた。大阪府民の健康と交流を目的とした「府民体育祭」では「筋力測定」や「記録会」が開かれていた。
夏子と陽菜はまりあからの「実質命令」で3000メートル走に出場させられ、半分も走れずにギブアップし、体力の無さを露呈した。両足はぷるぷると痙攣し、筋肉痛が発生した。午後から受けた「踏み台昇降」と「反復横跳び」、「垂直飛び」では「筋年齢80代」の診断を受け、直とまりあに相当いじられた。74歳の直、還暦の羽藤は「30代」の記録を連発し、「現役」の強みを見せた。
そんな中、異例の結果を見せたのは稀世だった。最初に面白半分でチャレンジしたスピードガンコンテストでは参加女子過去最高の時速135キロを記録した。「目指せ110キロプロジェクト」を公言する野球女子として有名なタレントの最速が104キロ。日本の女子野球投手の平均が110キロ、日本最速女子投手が126キロの公式記録を持っているがいとも簡単にその記録を抜いてしまった。
計測員がネットで調べたところ女子の世界記録はメジャーリーガーの父を持つ女子高校生投手のサラ・ハデク選手の137キロとわかり、会場は大いに盛り上がった。
連続して135キロを記録することから計測間違いでないことが証明された。ややコントロールに難があったが、元甲子園ベスト4という大阪の強豪高校出身で控え投手だったという30代の投手経験者がアドバイスするとコントロールもみるみるうちに向上し、ストラックアウトでは8枚抜きを繰り返し、パーフェクトまであと一歩だった。
バッティングマシーンでは「私は過去に「バッティングマシーン大谷君」で「160マイル(※「160キロ」ではない。約257キロ)」を打ったことがあるからなぁ!」と自信満々に「160キロ」の速球を楽々と打ち返していたが、80キロの変化球は全く当たらないのは春先と変わらなかった。
その後、基礎体力測定ブースに向かうと「垂直飛び」は「私、中学の時はバスケ部やったし、今も「飛び技」は得意やからな!」と言いながら、女子トップアスリートどころか、男子アスリート並みの記録をいともたやすく出した。
圧倒的だったのは、「背筋力」だった。レスリングもそうだが、二年前にアグネス・マチルダとの対戦が決まり、その対処法として取り入れた柔道は畳の上に「亀」の状態になった選手を持ち上げ、ひっくり返す必要があるので背筋力を強化する。あまりウエイトトレーニングには興味を示さない稀世だったか、大阪府警の坂井警部の指導受け始めてから一気にその筋力は倍増した。
背筋力測定の列に並んでいると聞こえてくるのは女子平均の85キロ前後の記録ばかりだった。まりあが成人男子平均の140キロを記録すると周りから歓声が上がった。続いて測定に入った夏子と陽菜はともに70キロ半ばだったが「スターダムの白川選手かて79キロしかないってネットに出てるやん。」と夏子はスマホ片手に強がった。
「「脚力」も「握力」も「女子力」すらない夏子が言うことか!」と110キロを記録した直におちょくられていた。
満を持して稀世がチャレンジした。直の後でチェーンの長さ調節をしないまま不完全な状態であったにも関わらず、その計測結果に記録員が驚いた。
「がおっ!お姉さん、凄いっす!221キロって言うと、男子ラグビー選手やスポーツクライマー並みですよ!「霊長類最強女子」って言われたレジェンド金メダリストでも197キロですから。」
そういわれた稀世はスマホでググると、
「そんなん言うても、初代タイガーマスクは300キロあったって書いてあるし…、せめて「222」のぞろ目やったら嬉しかってんけど…。」
とよくわからない理屈を呟きながら会場を後にした。
その後、グラウンドに入って稀世の目に留まったのは「ハンマー投げ」だった。ゲストに来ていた2004年アテネオリンピックの金メダリストの息子と日本人女子で唯一出場した娘を持つ元祖「アジアの鉄人」と呼ばれた伝説のアスリートの模範演技を見て「私もやってみたい!」と手を挙げたのだった。77歳になる「アジアの鉄人」は、Tシャツ姿の稀世の背を縦に撫でると、脇腹に手を沿わした。「きゃー、痴漢!おじいちゃん何すんねん!」と無意識に出た稀世の得意技の逆水平の「なんでやねんチョップ」が「アジアの鉄人」の胸に炸裂し、三朗は「がおっ、稀世さん、おじいちゃんに何しはりますの!」と老人が吹っ飛ぶところを想像し目を閉じたが、「アジアの鉄人」は微動だにしなかった。
「お姉ちゃん、凄い僧帽筋に広背筋に脊柱起立筋やな。重量挙げかスポーツクライマーか、柔道の重量級か?」
と真顔で問う老人に稀世は真っ赤になって返事をした。
「もう、何失礼なこと言うんよ!まず、私、体重50キロ台やから重量級とちゃうし、重量挙げの選手なんかとちゃうで!女子レスラーや!」
「ほぉ、そうか…。女子レスラーか。体重は見たところ59.8キロというところかな。ちょっと失礼。」
と断りを入れて、膝の裏から太ももを経てお尻から腰へ両手で撫でた。「きゃっ!また!」と条件反射で左後ろ回し蹴りを入れたが、左腕一本で止められた。右足一本で軸がぶれることなく止まっている稀世に
「ほう、反射速度も体幹も一流だ。うちの娘以上かもしれん。投げ方を教えてあげるから一度、ハンマーを投げてみるか?」
とほほ笑むと稀世は、おしりを触られた恥ずかしさよりも興味が先に立ち、「うん、投げてみたい。」と蹴りだした脚を下ろし、ぴょこんとお辞儀をした。
10月4日時点で夏子、陽菜、舩阪に稀世、直のニコニコ商店街のメンバーがウクライナの地で義勇兵に混ざって戦闘に参加している理由は9月20日に遡る。
大阪府の中東部に位置する人口11万7千人強の中堅都市で、市の北部を東西に走る京阪電車の門真市駅の東に位置する「門真市駅東商店街」、通称「ニコニコ商店街」の端に位置する「向日葵寿司」の女将長井稀世は、ニコニコ商店街内にあるインディーズプロレス団体の「大阪ニコニコプロレス」のエースレスラーで「門真の女神」、「不死身の嫁」等の二つ名、三つ名で呼ばれる、「やたらとトラブルに巻き込まれる体質」のGカップ女子レスラー、29歳で一女の母である。
4年前、ニコニコプロレスの門真市営体育館での交流戦がきっかけで、それまで稀世の大ファンだった向日葵寿司三代目の長井三朗と結婚し、ニコニコ商店街に限らず、いろんな場所でトラブルに巻き込まれるも、やや「天然」が入った持ち前の明るさと類稀に見る身体能力で、銀行強盗犯、やくざ、テロリスト、児童誘拐組織、他国の特殊部隊、IT犯罪者等と戦ってきた。相棒の三朗は、喧嘩や格闘はからきしだが、常に稀世の傍にいて陰になり日向になり稀世を支え続けてきている。
そんな二人の最大の理解者で応援者がニコニコ商店街会長で74歳にして居合術の達人で「元気溌剌」で「女黄門様」の異名を持つ菅野直で、向日葵寿司の常連である。4年前の9月3日に医師の誤診により「余命半年」の告知を受けた稀世と三朗の婚姻を半ば強引に進め、稀世をニコニコ商店街のメンバーに引き込んだ張本人である。今日もランチタイムに向日葵寿司のカウンターでビールを飲みながら寿司をつまんでいる。
「稀世姉さん、三朗兄さんちょりーす!今日もランチ二つねー!」
「お邪魔しまーす。粋華姉さんもう来てはりますかー?」
ニコニコプロレスの稀世の後輩レスラーの坂川夏子と仲田陽菜が引き戸を開けて入ってきた。
「あー、粋華は今、まりあさんとこに行ってるわ。いろいろと大会出場の契約関係の書類があるって言ってたから、もうちょっとしたら来るんとちゃうかな?」
稀世が冷たい緑茶を二つカウンターに置くと、夏子は一気飲みした。
「今回のWWEはロサンゼルス大会やろ。サンタモニカビーチでイケメンにナンパされるか、ユニバーサルスタジオではっちゃけるか、ラスベガスで爆稼ぎするか悩んでしまうよなー!ちなみに今日の大スポの星占いで「このひと月の間に人生を変える運命的な出会いがある。ラッキーナンバーは「18」。ちなみにアンラッキーナンバーは「20」」ってでてたんやで!」
「うーん、なっちゃんの「大スポの星占い」好きはわかるけど、過去にまともに当たった試しあれへんやん。申し訳ないけど「ユニバではっちゃける」以外は望み薄やから期待せんほうがええんとちゃうか…」
二人の会話に直が突っ込んだ。
「ベガスで爆稼ぎは可能性としては0.001%くらいはあるかもしれへんけど、夏子がサンタモニカビーチでイケメンにナンパされる可能性は「ナッシング」や!「永遠のゼロ」やろ!寝言は寝てる時に言え!カラカラカラ。」
夏子は不機嫌に「三朗兄さん、私もビールだして!」と言うと、雑にグラスに注ぎ泡だらけのビールを一気にあおった。
「おーい、稀世、久しぶりー!お土産よおさん持って来たったぞー!」
と元ニコニコプロレスで「パイヒール粋華」のリングネームで稀世と戦い、現在は世界最大のプロレス団体のWWEの人気ディーバ「サイキッカーSUIKA」としてレギュラーレスラーで参戦している「Hカップ」の武藤粋華が岩井まりあと一緒に入ってきた。
カウンター席に座っている夏子と陽菜に一瞥をくれると、その隣に座っている直に気づき「師匠、ご無沙汰しております。相変わらず「大活躍」とのことで!」と丁寧にお辞儀した。「おうおう、粋華も達者でやっとるみたいやのう。ロスの大会のタイトル防衛戦を楽しみにしてるで。」と直が新たなグラスにビールを注ぎ粋華に手渡した。
まりあと共に直の横に座ると、大きなブランド物の紙袋を直と稀世に手渡した。「いつも悪いな。日本に帰ってくるたびに散財させてしもて」と稀世が恐縮すると、
「稀世は客商売やねんから、もうちょっと自分を磨かなあかんで。元は「私の次」にええもん持ってんねんから。HAHAHA。」
とアメリカナイズされた豪快な笑い方をした。
「粋華姉さん、私らにお土産は?」
と夏子がねだると、一着二千ドルは下らないであろう、ブランド物のジャケットのポケットから小さなものを取り出すと、夏子と陽菜に手渡した。
「はい、夏子にはJALのビジネスクラスの「ナッツ」や。陽菜には今、ニューヨークで若い子に流行っている新色のルージュや。」
ふて腐れる夏子が粋華に文句を言った。
「粋華姉さん、酷い「差」やないですか?私も「ルージュ」がいい!」
粋華は、やれやれと言う顔をして「夏子にはええもんやっても、見せる相手が居れへんや無いか。」と言うと、夏子は何も言えなくなった。
「9月23日に出発して25日に大会ですよね。まりあさんと稀世さんはセミファイナルでアグネスとマチルダ戦、セミセミは粋華さんのタイトルマッチですよね。僕は、大会が終わったらすぐに帰国させてもらいますけど、皆さんはゆっくりされるんですよね?稀世さんのことお願いしますね。お二人には「上にぎり」のサービスです。」
と中トロ、うに、いくら、ウナギがのった寿司下駄を提供すると、ビールの栓を抜いた。
「せやねん。CEOが稀世を接待したいってな。まあ、引き抜き交渉する気満々みたいやから、もしかしたら日本に帰ってけえへんかもしれへんで。HYOHYOHYO。」
と粋華が笑った。
「あー、そうそう、今回の大会はLA出身のアグネスとマチルダの凱旋大会でもあるから前座で「アグ・マチ」の出身のLALWEやカリフォルニア州の女子インディーズ団体のバトルロイヤルがあるから、夏子と陽菜も出られるように話したろか?枯れ木も山の賑わいってやつや。一応、全世界配信やから「世界デビュー」にはなるぞ。」
粋華が夏子と陽菜にサプライズ提案をすると、二つ返事で「出る出る!世界デビューする!」と夏子が食いついた。
「ちょっと、粋華、ええの?「恥の輸出」になれへんか?「日本の女子プロレスのレベルがこの子らやって」なったら困るやろ?」
まりあが止めに入ると、粋華が笑いながら言った。
「そこは、私とまりあさんと稀世がええ試合を見せるからオッケーですわ。バトルロイヤルやから誰もあほの夏子と陽菜の事なんか記憶にも記録にも残れへんってな。HYAHYAHYA。」
「それにしても、粋華、あんたの笑い方、完全にアメリカ人になっとんな。」
稀世が突っ込むと「稀世もアメリカに落ち着いたらすぐにこないなるで。本気で私とWWEでタッグ組めへんか!」と真顔で言われ、少し困って三朗と顔を見合わせた。
その後、まりあからWWE参戦中の条件の説明を受け、稀世は書類にサインした。ロスに向かうのは、稀世とまりあの出場コンビに三朗とひまわり、夏子と陽菜と彼氏の舩阪、そして直と現地での通訳兼ガイド代わりの羽藤一志の九人となっている。
三日後の出発まで、粋華は特別用事があるわけではないというので、翌日はみんなで「府民体育祭」に参加することになった。
9月21日、朝から秋晴れの天気の中、ニコニコ商店街のメンバーと粋華は長居陸上競技場にいた。大阪府民の健康と交流を目的とした「府民体育祭」では「筋力測定」や「記録会」が開かれていた。
夏子と陽菜はまりあからの「実質命令」で3000メートル走に出場させられ、半分も走れずにギブアップし、体力の無さを露呈した。両足はぷるぷると痙攣し、筋肉痛が発生した。午後から受けた「踏み台昇降」と「反復横跳び」、「垂直飛び」では「筋年齢80代」の診断を受け、直とまりあに相当いじられた。74歳の直、還暦の羽藤は「30代」の記録を連発し、「現役」の強みを見せた。
そんな中、異例の結果を見せたのは稀世だった。最初に面白半分でチャレンジしたスピードガンコンテストでは参加女子過去最高の時速135キロを記録した。「目指せ110キロプロジェクト」を公言する野球女子として有名なタレントの最速が104キロ。日本の女子野球投手の平均が110キロ、日本最速女子投手が126キロの公式記録を持っているがいとも簡単にその記録を抜いてしまった。
計測員がネットで調べたところ女子の世界記録はメジャーリーガーの父を持つ女子高校生投手のサラ・ハデク選手の137キロとわかり、会場は大いに盛り上がった。
連続して135キロを記録することから計測間違いでないことが証明された。ややコントロールに難があったが、元甲子園ベスト4という大阪の強豪高校出身で控え投手だったという30代の投手経験者がアドバイスするとコントロールもみるみるうちに向上し、ストラックアウトでは8枚抜きを繰り返し、パーフェクトまであと一歩だった。
バッティングマシーンでは「私は過去に「バッティングマシーン大谷君」で「160マイル(※「160キロ」ではない。約257キロ)」を打ったことがあるからなぁ!」と自信満々に「160キロ」の速球を楽々と打ち返していたが、80キロの変化球は全く当たらないのは春先と変わらなかった。
その後、基礎体力測定ブースに向かうと「垂直飛び」は「私、中学の時はバスケ部やったし、今も「飛び技」は得意やからな!」と言いながら、女子トップアスリートどころか、男子アスリート並みの記録をいともたやすく出した。
圧倒的だったのは、「背筋力」だった。レスリングもそうだが、二年前にアグネス・マチルダとの対戦が決まり、その対処法として取り入れた柔道は畳の上に「亀」の状態になった選手を持ち上げ、ひっくり返す必要があるので背筋力を強化する。あまりウエイトトレーニングには興味を示さない稀世だったか、大阪府警の坂井警部の指導受け始めてから一気にその筋力は倍増した。
背筋力測定の列に並んでいると聞こえてくるのは女子平均の85キロ前後の記録ばかりだった。まりあが成人男子平均の140キロを記録すると周りから歓声が上がった。続いて測定に入った夏子と陽菜はともに70キロ半ばだったが「スターダムの白川選手かて79キロしかないってネットに出てるやん。」と夏子はスマホ片手に強がった。
「「脚力」も「握力」も「女子力」すらない夏子が言うことか!」と110キロを記録した直におちょくられていた。
満を持して稀世がチャレンジした。直の後でチェーンの長さ調節をしないまま不完全な状態であったにも関わらず、その計測結果に記録員が驚いた。
「がおっ!お姉さん、凄いっす!221キロって言うと、男子ラグビー選手やスポーツクライマー並みですよ!「霊長類最強女子」って言われたレジェンド金メダリストでも197キロですから。」
そういわれた稀世はスマホでググると、
「そんなん言うても、初代タイガーマスクは300キロあったって書いてあるし…、せめて「222」のぞろ目やったら嬉しかってんけど…。」
とよくわからない理屈を呟きながら会場を後にした。
その後、グラウンドに入って稀世の目に留まったのは「ハンマー投げ」だった。ゲストに来ていた2004年アテネオリンピックの金メダリストの息子と日本人女子で唯一出場した娘を持つ元祖「アジアの鉄人」と呼ばれた伝説のアスリートの模範演技を見て「私もやってみたい!」と手を挙げたのだった。77歳になる「アジアの鉄人」は、Tシャツ姿の稀世の背を縦に撫でると、脇腹に手を沿わした。「きゃー、痴漢!おじいちゃん何すんねん!」と無意識に出た稀世の得意技の逆水平の「なんでやねんチョップ」が「アジアの鉄人」の胸に炸裂し、三朗は「がおっ、稀世さん、おじいちゃんに何しはりますの!」と老人が吹っ飛ぶところを想像し目を閉じたが、「アジアの鉄人」は微動だにしなかった。
「お姉ちゃん、凄い僧帽筋に広背筋に脊柱起立筋やな。重量挙げかスポーツクライマーか、柔道の重量級か?」
と真顔で問う老人に稀世は真っ赤になって返事をした。
「もう、何失礼なこと言うんよ!まず、私、体重50キロ台やから重量級とちゃうし、重量挙げの選手なんかとちゃうで!女子レスラーや!」
「ほぉ、そうか…。女子レスラーか。体重は見たところ59.8キロというところかな。ちょっと失礼。」
と断りを入れて、膝の裏から太ももを経てお尻から腰へ両手で撫でた。「きゃっ!また!」と条件反射で左後ろ回し蹴りを入れたが、左腕一本で止められた。右足一本で軸がぶれることなく止まっている稀世に
「ほう、反射速度も体幹も一流だ。うちの娘以上かもしれん。投げ方を教えてあげるから一度、ハンマーを投げてみるか?」
とほほ笑むと稀世は、おしりを触られた恥ずかしさよりも興味が先に立ち、「うん、投げてみたい。」と蹴りだした脚を下ろし、ぴょこんとお辞儀をした。
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
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絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
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