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1話

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「彼氏とは最近どうなの?結婚は?」
「仕事は順調?」
そんな事を周りから言われるのがストレスで、彼氏から今年も帰郷出来そうもないとの知らせに落胆する。
何もかもが上手くいかないと思えて仕方ない。
そんな私の趣味は、読書。
現実なんて見たくない。字を追ったら周りの世界から遮断された、一人の世界が出来上がる。最高に楽しくてワクワクする時間だ。
今やスマホさえあれば本はいつでも何処でも読める。歩く時間も大切な読書の時間。
それが今思えば、間違いだったのかもしれない。
私、五百蔵 冴は28歳で人生に幕を閉じた。
信号無視して突っ込んできた車に、本を夢中で読んでた私は気が付けなかった。
周りに人が集まって来て何か言ってるが、認識出来ない。救急車らしき音が聞こえる。

あっけない終わりだ。
どうしようもなく上手くいかない人生だったけど、やりたいこととか、やり残した事いっぱいあったなと、意識から遠ざかる中考えた。
せめてこの本を最後まで読みたかったとか、10年も片思いしてる本命のあの人に、ついに告白できなかったとか。

来世があるなら、そうだな充実した楽しい人生を送りたい。普通過ぎるのではなくて、そう、本の中の物語りのような…とか…
 私の色も音もついに途絶えた。


トクン トクン


心地いい音。再び音を取り戻した私はふわふわと眠る眠る。まだその時ではないと。

しかしその心地いい眠りを妨げたのは強烈な痛みと苦しみだった。
痛い。痛い。痛い。

「おぎゃーー。おぎゃーー。」

痛い。と叫んだはずの口からでてきたのは赤ん坊のような…いや赤ん坊の声だった。
ああ、私は転生したらしい。上手く動かせない身体にボヤける視界。私を抱き上げた人は何か言ってるが言葉が理解出来ない。
私は新たな生を受けたんだと、ただそれだけを思った。
痛みから解放されて疲れたな。寝よう。



転生してから早3年。目がはっきり見える用になり、言葉も理解出来るようになってびっくりした。
まず、お母さんやお父さんの髪の色!!
水色と赤…びっくりするよね?
それから、魔法があるみたい!
杖とか振る訳じゃなくて呪文を唱えると魔法が発動する。私、地球じゃない世界に転生したみたいだ。

「ライナ様、ご飯の時間ですよ。」
「はーい。」

私の新しい名前はライナ。ライナ・カストナール。
私を呼びに来たのはお手伝いさんのシャルナーさん。
お手伝いさんがいるからってお金持ちとか貴族だとかそんな感じではないらしい。
家は石作りの中世ヨーロッパ風で魔法で部屋を広くしてるらしい。
らしいしか言えないのは仕方ないよね。だって3歳だから、家からは出たことはほとんどないし知識の元になるものがない。

「ライナ、何を考えているのかな?ご飯食べないと大きくなれないぞ」
「ライバード…ライナはまだ眠いのよ」

赤髪のほっそりした系イケメンのライバードはお父さん。水色の髪ののんびりした空気をかもし出す、お母さんのアーシャ。
どちらも私には勿体無い両親だ。

「私は眠くないよ!今日はなにしようかと考えてたの。書斎の本が読みたい!ダメ??」

甘えて上目遣い…これ鉄則!こっちに来てから子供らしく振る舞う事になんの抵抗もない。
甘えれる時に甘える事は大事だと思うし…いつぞや読んだ本みたいに主人公になりたい訳ではないから。

「ライナ、この前絵本を買ってあげただろ?もう読んだのかい?書斎には難しくて貴重な本が沢山あるんだ。まだライナには早いかな」

お父さんと二日に一度はやるやり取りである。
書庫には入らせてもらえない。お父さんやシャルナーさんの目を盗んで忍び込もうと思っても鍵がかかっていて入れないのだ。

「絵本はもう読んだよ。難しい本も読んでみたい。お母さん…ダメ??」

お母さんは手を頬にあて首を軽く傾げる。優雅で何処のお姫様かと思う仕草だ。

「そうね。今日の仕事は資料整理をしようと思ってたから、研究所じゃなくてここの書斎でしようかしら。ライナは静かに本読めるかしら??」

おっとりしたお母さんは実は研究者なのだ。魔法薬?の研究者で研究所と時々家の書斎で仕事をしている。いつもはただ微笑んでいるだけに見えるのに、以外だ。
それはさておき、遂に、遂に書斎に入れる!!やっと絵本以外の本が読める!
読書が趣味だった私には、字を覚えたのに読むことを許されるのが絵本のみとは辛かった。涙が出そうだ。

「やったー!お母さん大好き。静かに本読むね!けど…分からない文字出てきたら聞いてもいい??」

そうなのだ。絵本に出てくる単語は読めても、まだ読めない単語や言い回し、文法は沢山あると思う。
お母さんの仕事を邪魔するのは流石に悪い。

「ライナ様。私が隣で一緒に読みますよ。奥様の邪魔はしたくないですよね?」
「はい!!よろしくお願いします。」

ここでシャルナーさんの助太刀は嬉しい。
今日の予定は決まった。1日読書だ。

「ライナったら、そんなに本が読めるのが嬉しいの?これからは家に仕事を持ち帰るようにしようかしら」

食事中にも関わらず跳び跳ねそうなほど喜んでる私にクスクスと笑いながら暖かい眼差しを向けてくる。
うぅ…恥ずかしい。

「私もこれからは家で出来る仕事は家でしよう。どうだ?ライナ?お父さんも大好きか?」

「お母さんもお父さんもだーい好き!!」


あぁ、これからは毎日が読書三昧だ!
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