始まりから詰んでいる鬼ごっこ

もちごめ

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 重たい瞼を持ち上げると、そこは見知った部屋だった。

 宮廷魔術師長である、彼専用として与えられた部屋。



 はあ、また負けちゃった……。



 彼とは幼馴染ではあるが、婚約者同士ではない。

 お互いに貴族であり家格も釣り合うが、今や彼は王宮一のお抱え魔術師ということもあり、私には手の届かない存在となった。
 幼いころにした子供の口約束を、彼は未だに覚えていたのだろう。
 以前彼から婚約の打診はきたが、それは丁重にお断りをした。

 噂に聞けば、自国の第二王女や、他国の高位令嬢からもたくさんアプローチが来ているらしい。

 そりゃそうだろう。
『黒の賢者』 の異名をもつ幼馴染は、見目もすこぶるいい。

 漆黒のつやのあるさらさらとした髪に、アイスブルーの目はただ立っているだけで妖艶さが漂う。また、スラリとした長身は実はひょろっとしているわけではなく、ローブの下は意外にも鍛えていることがわかる。


 地位も名誉もあり、おまけに見目もよい独身男性を、数多のご令嬢達はほうっておくはずもない。
 いつもぎらついた目で狩りをしようと狙っているのを見かける。

 あんな怖い集団に仲間入りはしたくないと思う。


 それに比べて自分は……。
 確かに貴族ではあるが、しがない伯爵家の次女で見た目も平凡で十人並みだと思う。
 宮廷魔術師として努めてはいるが、たいして仕事をしていないため、皆みたいな立派な功績は収めてはおらず、下っ端もいいとこの下っ端だ。

 というのも、なぜか自分にはあまり仕事が回ってこないのと、外の仕事が回ってきても、何時も出向こうとする頃には、別の同僚が仕事を終わらせてしまっているので、自分のすることと言えば簡単な書類書き位である。
 もっと大きな仕事がしてみたいとも思う。



 そんな平凡な私に、お見合い話が降ってくるわけでもなく、実家のお父様に”いい話はないか” と聞けばいつも渋い顔で首を横に振り、目を合わせないように書斎に籠ってしまうので、もうあきらめた。

 このま魔術師として一生勤めていくのも悪くないと、最近では思い始めている。


 ”さて、そろそろ仕事に戻らねば”と、壁に掛けてあるローブを身に纏った。


 ふと部屋を見渡し、目が覚めた時にはいなかったから、とっくに幼馴染は仕事に戻ったのだろうと考えた。

 自分だけ何時までも仕事に戻らないわけにもいかない。
 すぐさま気持ちを切り替えて、勝手知ったる部屋のごとく、廊下へと続く扉を開こうとドアノブに手をかけた。



 えっ!! 開かない!!


 何度回しても開くことのない扉を不審に思い、一歩後ろに下がってから、ドアに向かって解析魔法をかけてみる。

 そしたら、案の定、ドアが開かないように魔法が掛けられている。
 しかも、ご丁寧に何重にも重ね掛けをして。


 どういうつもりよ!!



 たとえ掛けられている魔法が一つだとしても、最高位の魔術師長が掛けた魔法など私じゃ破ることなどできるはずもなく、
 それが嫌がらせのように何重にも掛けられているということで、最早この部屋から抜け出す手立てなどない。


 当然、この部屋には他に窓も扉もない。
 彼が戻ってくるまではこの部屋で大人しく待つしかなさそうだ。

 はあ、仕方がない……。

 
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