始まりから詰んでいる鬼ごっこ

もちごめ

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 ある日、急に魔力が使えるようになったのである。
 もともと我がソルシエ侯爵家は魔術師一家で名を上げていて、一族の中で何人も高名な魔術師を輩出している。
 現に、父でもあるソルシエ当主は、宮廷魔術師長として国王の補佐を務めている。なのでその子供である自分も、いずれ魔術が使えるようになるだろうと思ってはいたが、兄たちと違って、俺は物心ついてもすぐに魔術が使えなかった。
 身体の奥底に魔力が眠っていて、外に出てくるまでは使うことが出来なく、おかげで、くすぶる魔力のせいで時々体調を壊すこともあったが、それがある日、突然一気に放出された。
 この国で五本の指に入るほどの魔力持ちとして。

 どうやら、毎日ミアの事を考えすぎて考えすぎて爆発しそうで、おかしくなり始めたのがいい起爆剤となったらしい。





 ようやく魔法が使えるようになった俺は、それはもう猛勉強した。
 あらゆる魔術書を読み漁り、父や執事からも指導を仰ぎ、血を吐くほどに修行をした。

 3か月もすれば俺の魔術の腕は兄たちを超えた。
 弟にあっさりと超されたということで、長男は文官の道へ、次男は騎士への道へと進むこととなった。

 そして、努力が実り、とうとうある術を習得した俺は、ミアが昼寝をしている隙にこっそりと術を掛けることにした。

”探索、追跡魔法を”



 初めて人に術を掛けることにドキドキとした。
 失敗は許されないし、本人に気づかれてもいけない。
 ドキドキと煩く鳴る胸の音を聞かれないようにいつも通りを装って、ミアとお互いに好きな本を読んで過ごした。
 そうしてししばらくしたら、静かな寝息を立て始めた。

 寝たか……。

 さっき飲んだお茶に軽く睡眠剤を混ぜておいた効果が現れたのだろう。
 本を読んだまま眠ってしまったミアを、起こさないようにそっとソファーに寝かせ、その顔を覗き込む。
 先日九歳になったばかりの可愛らしい少女は、これからどんどんと花を開かせて香しく咲き誇っていくだろう。



 外の世界を映すその目に自分以外を映さないでほしい。
 その耳に自分以外の声を聴かないでほしい。
 この手に他のだれかの体温を感じないでほしい。


 自分よりも小さな手を優しく握り懇願する。


『俺の全てはミアで染まっているんだ。だから、ミアも俺で染まって。お願いだから俺から逃げていかないで』


 薄く開いたままの唇に自分のそれをそっと重ねる。
 そのまま目を閉じて、魔力を練るのに集中する。そしてそれを少しずつ確実にミアへと流し込んだ。
 すべてを流し込んでゆっくりと離れる。


 すやすやと眠る顔を覗き込んで魔力の流れに乱れがないかを確認する。どうやら成功したようだ。
 ほっとして一気に身体の力が抜けた。

 

 やった!! 成功した!!


 術の成功の嬉しさと、ミアに対する支配欲が体中を巡る。

 多少荒くなった呼吸を整え、何も知らずに眠るミアの唇をそっと指でなぞる。


「ミア……。ミア、君はどこにも逃げられない……」

 
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