始まりから詰んでいる鬼ごっこ

もちごめ

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本当なら息も切れ切れで、もともとあまり大きな声で話すことがないために声量にも自信がない。そんな自分だからこそ近くで話がしたいのだが、同僚とは言えあまり近づいて話すことを「あるお方」から固く禁じられているので数メートル離れたところから精一杯の声量で叫びかける。


「何でこんなところにいるんですか――? 探しましたよ――!」
「えっ、なに? 良く聞こえない――」
「だから――、どうしてこんな場所にいるんですか――!」
「??」


きっと聞こえていないのだろう。表情は見えなくてもシルエットで分かる。今のは首を右へと傾げた姿だ。
くそう。喉がガラガラでこれ以上は声が出ない。おまけに声を張り上げたせいだろう。腹筋が痛い。

近寄ることもできない。しかしこれ以上大きな声を出すこともムリだ。さあ、どうしたらいい、と困っていると、その光景を無表情で見ていた師団長の兄であるアークがボソリとミアに呟いた。


「どうしてここにいるのか、と聞いている」
「あっ、なるほど。……そ、そんなの別にどこにいたっていいでしょ! 私の自由よっ」


彼女の声はこんなに離れていてもよく聞こえる。
どうやらひどくご機嫌斜めのようであった。ぷりぷりとしている様が声音やシルエットからもよくわかる。


「どうしたんですか――? 何かありましたか――?」
「……??」


再度断末魔のような声で必死に声を掛けたのだが反応がない。


「どうしたのか。なにかあったのか、と聞いている」
「ああ、なるほど」


どうして俺の声はそんなにも届かない……。


まあいいや。俺の瀕死の質問にそっぽを向いているらしい彼女には、経験上深く関わると碌ななことにならないのはよくわかっている。
どうせ会話のキャッチボールも困難を極めることだし、ここはさっさと頼まれたものを渡して任務を完遂することを最優先しよう。

……本当ならばできれば機嫌を直してもらって、キース師団長の所に行ってもらいたい。そうすれば師団長も即調子を取り戻されるであろうし。とも考えたのだが、瀕死の俺にそんな無理難題はそれこそ困難を極めるだろうと思い直し、とりあえず手に持っていた一冊の本を頭の上に掲げた。



「これ、キース師団長から渡してくれと頼まれたものです」と最早蚊の鳴く声で絞り出し、プルプルと震える二の腕に力を込めて訴えたのだが、シルエットは今度は左へと傾いただけであった。


「……」


やっぱりな!! 聞こえないし、見えないんだろ!!


キース師団長。俺には任務完遂は無理です……。

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