この世界で 生きていく

坂津眞矢子

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第33話 ~デートを飛び越え生き付く場所は、二人の其処~

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『姫とメイド長のご帰還だぞー』
『おらー!! ぞうひょうどもがーどきやがれー!!』

 とかどうでしょう? とか、お姫様抱っこでみんなを煽りながら戻るとかどうかしら? とか、軍人姿の京子に追われるように逃げてくる二人とか……等々、二人でひたすら変な姫とメイドの組み合わせネタを考えながら歩を進めているうちに離に到着して、

「あ、お二人とも戻ってきた!」

 離れ入り口にいた城咲さんに簡単に発見される。ネタも何もなかった。流石持ってない二人である。

「ふふっ」
「ふふふっ」

 お互い笑いあって、日常へ。コスプレしたまま日常へ、というのも斜め上だなぁなどと思いながら、まだまだ騒々しくぱたぱたと、どこか皆浮ついてる離を歩いて行く。
 離でも華道部や書道部なんかがあるわけで、そこらにもあちらにからも、文化祭の余韻がぽろりぽろりと転がっている。普段見慣れない花飾りや、色紙で作られた小物なんかも。それらをひょいひょいと片付けていく生徒達。お片付けは大変ながら、なんだかもったいない余韻が味わえるので結構好き。見るのも味わうのも。終わるのは当然ながら、この独特の空気は、もう少しじっくり味わいたいなぁ。

「あら、月餅」
「秋らしいわね」

 ふと、窓辺に置かれたままの和風なお菓子が目に留まる。和風なお菓子。包装紙が和紙のそれらは、結構お高いしっかりしたもののようで。日本文化部団体の場所らしい落とし物。この手のものなら一見二見しただけならば、最有力は茶道部のお茶請けで。うちの誰かの落とし物、かもしれないけれど、ここからだと部室はかなり距離がある。位置的には華道部か書道部か、はたまた落語が正解だろう。一つ二つ落ちているそれらを拾い、共用スペースに置きにいく。

「私が持ち主探してきましょうか?」
「いいのよ、落ちてた場所だけ書いておけば」
「そうなんですか」

 ほえ、と感心したような納得したような、そんな顔でうなずく城咲さん。うんうん、相変わらずかわいい。ほえー程でも、ふうん程でもない、丁度あどけなさと大人の、中間のような可愛さを持ってるのが特徴的な文学少女。大人びさがやや多めな気もするのは、彼女の環境が変わった影響もあるのかもしれない。

「落とし物一つから始まる出会いもあるでしょうし」

 美沙が少し楽しそうに呟くと、わたしも城ちゃんも、同じく嬉しそうに頷いた。

「えへへ、そうですね」
「落とし物、確かにですね」
「こんな日だから、尚更ね」

 少しのぼせた三人で、廊下を進む。高揚した気分で思い描くは、その先にある人達の事で。

「で、恵はこのあと十ちゃんと?」
「ええ、色々教え込む意味でも」
「え、えろいですっ!」
「えろくないですよっ! そーゆー城ちゃんはどうなのですか?」
「ええっ!? そっそそっ それはぁ……」
「ふふふ、ふたりとも程々にね」

 城ちゃんもお付き合いしている方がいるという。その先に見え隠れするのは……恵玲奈の想い人だったりするのが中々複雑ではあったりなかったり。恵玲奈を考えればううんそうなのかぁと、ある方向になってしまうし、城ちゃんを考えればなんとかそのまま幸せになって欲しい、ない方向、なのだ。同居人と後輩に挟まれてる張本人、というわけではないのだけれど、普通の第三者よりもちょっとづつ引っかかった立ち位置で。そこは、わたしと美沙と京に関する人たちの中にも、同じような悩みを抱えている人は生まれているのかもしれない。

「程々っていうかまだわたしは……」
「恵のへたれー」
「しほー先輩にしては遅めですよね?」
「いや……一日でゴールしたらそれはそれでおかしくないですか?」
「確かに、それは解るわね」
「あれ……? そのくらいしかまだお時間経ってなかったのです?」
「郊外の時から一週間以上経ってからが、本格的なお付き合いですから」

 まーあんな大勢の前で、ギュッとされて、おねえちゃんといっしょがいい! なんて言われたら、見た人達からしたら、即日で付き合った爆発しろ年下がそんなに良いかと確定されるわけで。やっぱり最初の日からそんな年下相手に延々手を出してないヘタレ二年と思われているわけで。またですか。元凶また十京あなたですか。とりあえずほっぺたムニムニの刑ですね。わたしも元凶だった。しんだ。

「……実際よく知るようになって、まだ本当に数日なのですよ、京さんとは」
「うーん……なかなか難しそうですね?」
「ええ、恋って難しくて……、楽しいです ね?」
「わかります! すごく!!」
「でしょう城ちゃん!!」
「爆発しろー」

 メイドと街人に先を越され、行き遅れてる姫が罵声を浴びせるという謎の図。巨乳ほんわかおもしろ秀才ドジ部長、とか一番モテなくちゃいけない部類だと思うのだけれど、ぺたんこもてないわたしに振られたり先越されたりするあたり、世の中そう上手くは回らないらしい。ぺたんこじゃねーしあるし……巨乳と言えば城ちゃんも大きいし……くそぅおのれ。理系は豊胸手術を必修科目にしませんか? むりですよねはいわかってますよーだ。

「爆発も何も美沙はもう殆ど決まってるんじゃ……?」
「それはそうだけれど、ね?」
「やっぱり、そこは気になっちゃいますか」
「はて?」

 城ちゃんが首をかしげる。そこらあたりを突っついて聞けば、どうも美沙とわたしは付き合ってる疑惑があったらしく、城ちゃん曰く、京にギュッとされた日と、振った日で確定的になり、以後多くの生徒が美沙に攻勢を掛けたそうで。あー……だから、鷹野先輩は任せて下さい!! とかあの娘達言ってたのかぁ、と、少し前の彼女たちにも納得がいった。任せても何も一度も付き合ってないのにそんな言われても……まぁ美沙さんはいい娘っ子ですので頑張るのです。誰と付き合うかわかりませんが。

「鷹野先輩の事ですし、既にお付き合いしてるものかと……」
「そこで、わたしの代価品、みたいな扱いになりはしないか、ここを懸念してるらしいのですよね」
「あ……」

 代価品、という言葉に城ちゃんがやや曇る。それに目を伏せ頷く美沙。恵玲奈を思い浮かべて、わたしも少し、思う箇所がにょこにょこ生まれる。生まれる、というよりも、眠っていた心配性が顔を出す、方が正しいか。
 代価品――……、その人でもなく、自分でもなく、求められても応じるのは自分ではない、奪った相手、本命で。その本命になれない、そんな立ち位置。そんな場所に好きな相手、好きになってくれた相手を置きたくないのだろう。とてもわかる。わたしも同じ立場なら、嫌だ。

「本人同士が良いなら、とも思いはするけどね? それは、周りを見ない自己中でしかないわ」
「ううん、鷹野先輩真面目ですねぇ」
「こういう気遣いは、凄く大事よ城咲さん」

 ……でも、そこに飛び込んでいった突っ込んでいった、今の恵玲奈への想い人は果たしてそんな軟弱だろうか? 代価品で甘んじて萎れてるだけだろうか? そこらあたりの強さこそが、美沙は未だ、持ってはいない部類で美沙な所以なのだろう。そういうタイプとは違う人間ならではの、待つタイプという感じで。とは言え美沙も、癖がある娘。いずれはそういう強さも手に入れるのかもしれない。……そうなるとまさに女君主っぽく成長する。そこらあたりにも、冷泉先輩達が美沙を推した理由かなぁ……

「柔らかくするのは、接するのは、とっても大事」
「包む優しさ、ですね、美沙は」
「……意識してたつもりもないけれど、恵ぃが言うならそうなのかも?」
「包み込む……すごく、わかります」

 城ちゃんが深く頷き、わたしも頷く。当の本人はそんなつもりがない天然というやつで。成る程恋人いない戦線は一人っきりで踏ん張ってボロボロに、なんてコースになったりせずに済んでいる様子なので、此方も胸を撫で下ろせるというものだ。後は、当人たちの速度の問題に。そこは三者三様、わたし達其々の腕の見せ所でもある。

「なんだか美沙さんはもう問題なさ……そう……」
「ええ、そう凹んでもいられないもの。申し訳なくなっちゃうわよ」
「うーん、前向きですっ」

 とすっと、ふいに固まるわたしの言葉に美沙が続けて、城ちゃんが受けて、ふたりで話している間に。

(……はぁっ、……ったく)

 この展開を、数日前に全部読んでいた沙姫を思い浮かべて、わたしは一人苦笑。あの親友は、つくづく天才秀才奇才を地で行く存在なのだなぁと、思い知る。


『美沙さんまーだですか?』
『うん。あれは吹っ切れてはいない、わね』
『心配してなさそう』
『必要ないしね』


 確かに未だ吹っ切れてはいない、けれど既にわたしの後腐れなどで心配する、所謂友人知人の助けがいる段階ではない。そこまで読んでの、【必要ない】。一歩二歩進みながらもその実不安定さが大きく勝る、わたしを支える方を【必要】と選んだ、【心配】だと言い切った。こういう先の先を、いろんな箇所で動けるから、あいつは、沙姫は、天才なのだ。……沙姫の様になりたいなぁ。そうすれば、もっと要領良く立ち回れると思うし……

「沙姫さんには敵わないですね」
「ん? 急にどうしたのー?」
「どうかしましたか?」
「ふふっ、なんでもないですよ」

 ニコニコ微笑みながら応えるわたしを、顔を見合わせてよくわからないと首を傾げつつも

「沙姫だもんね」
「源先輩ですからね」

 二人もなんとなく納得したようで、三人ともほわほわ微笑み部室へ帰還。と同時に

「おねえさまーっ!」
「わっわわーーーっ!?」

 入るなり誰かにギューーっと抱きつかれ。

「てい」
「あだっ!?」
「いたい!?」

 二人して美沙にチョップを食らう。完全に巻き添えなんですけど!!

「ほら、それは後で後で」
「いやわたしも!?」
「当たり前でしょー?」
「不可抗力ですぅー!!」
「あうう……ごめんなさい~」

 謝りながらも、離れない京さん。真っ赤になって照れていながらなんでこんなことするのか……いやわたしも赤いですけど!!

「京さん……もうちょっと抑えましょう? ねっ?」
「で、でもぉ……」

 ちらりと視線を動かす抱きつき京さん。視線を追えば、テヘ♪ バレちゃった―♪ 顔なエロスーツに行き当たる。やっぱ前言撤回です。憧れねーのです。何吹き込んだあのエロ女。

「沙姫さん後で腹パン」
「めぐがこわい!!」
「京さんを騙した罰ですよ」
「えー騙してないもーん。沙姫ちゃんはかわいいかわいい後輩とめぐにゃんの為を思って部員全員が見てる眼の前で既成事じ「そーれーが駄目って言ってるでしょーーー!?」

 既成事実言うな。既にやった疑惑あるんですから上乗せとか洒落にならねーのですよ!! とりあえず元凶をタコ殴りして宇田さんに放り投げ預けてから、改めて全員集合合図を掛ける。くすくす微笑まれながら応援されてる京さんは、真っ赤になりながらも激しく頷いたり此方をチラチラ見てはそらし見てはそらし、私色々頑張ります!! と呟いたり……色々頑張らなくていいです。程々にしてくださいね? 沙姫の方はたんこぶだらけなのに、めぐみからのあいのむち!! いたきもちいい!! とかほざいてるので、エロスーツは何処までいっても強いなぁとつくづく思う。……そんな沙姫が書記で大丈夫かな……適正ある良子は同じく適正のある会計から外せないし……京子は過去のこともあるしその存在を活かしての平部員、でもあるから動かせはしないのですけどね? 無茶を言えば良子が三人くらいに分裂して色々担当して欲しいものですが、無い袖は振れないのです。人間ですしね、良子。まぁこうやって考えてみれば、美沙やわたしに限らず、全員どこかしら不安はあるわけで、みんなで上手く乗り切っていきたいところですね。

「では、私、冷泉今日風と」
「島津美空が率いた部活はここまでで」

 さて、不安が漂う新幹部メンバーが居揃う中、りんと響く部長の声と、広く伝わる副部長の声が場を沈める。聞きなれて久しいその声に促され、

「今日からは、私鷹野美沙と」
「……四方田恵が、受け継ぎます」

 さらりと通す。鷹揚で緩やかな美沙と、少し高い声のわたし。飾らず騒がず、少しだけ緊張をはらんだそれは、部長達のそれとは違って、まだ少し青さが残る。副部長にクスリと微笑まれ、二人ではにかんで応えてみる。

「ええ、任せたわよ美沙」
「はいっ!」
「また、何時でも私の胸は貸すからね?」
「あ、あーー……あはははは……」

 引きつった笑いを起こす姫と、ニヤニヤしてやったり顔な貴族令嬢。うーん、この姿も絵になりますねぇ。あ、やっぱり写真撮影しますよねこれ。舞踏会で皮肉られた嫁ぎ先の姫ですからねこの構図。

「じゃ、副長頑張ってね、しほーだ」
「はい、任せておいて下さいね」

 そして仕えのメイドも貴族令嬢に。部長と違って副部長のスカートはなぜだか短い。ドレスという、半ばロングスカートが定番の服ですらもこんな風にする辺り、なかなか活発な副部長らしいなぁと、ドレス一つとっても、お二人で全然違うタイプなのを改めて感じる。

「うん、そうそれ」
「それですか?」

 それらしい。副部長曰く、それなのでそれなのだろう。よくわからないまま返事を返してしまったけれど、きっと、そういうあたりがわたしらしくて良い、らしい。まぁうん、なんとなくわかります。

「しほーだはそのくらいが、いい」
「そうなんですかー」
「そーそー。何時ものノリで、いいんだよ?」
「ふふっ、ええ。そこは大丈夫ですってば」
「うん、良いお返事だ。いいこいいこ」
「あうーリスか何かじゃねーですよぅ―」

 ほっぺを膨らませてわざとらしく。それを面白がって可愛がって、やはり笑顔で撫で回してくれる。副部長と部長のなでなで、わたしの栄養になっていたのかもしれない。この手の感触。遠慮なく掻き回す、この手が。わたしにとっても栄養になっていた。すごく、落ち着く。

「よっし! しほーだ成分補充完了! 後は任せた!」
「夕方にはなくなるんですか~」
「そーなのよー。しほーだぱわーは鮮度が重要なの」
「じゃあしょうがないですね」

 よくわからない会話を皆にくすくす見守られる。うー。恥ずかしいけど楽しいし、わたしも嬉しいのでしょうがないのです。なので京さん羨ましそうに見るのやめて下さい刺さります。

「じゃ美沙も、後は頼んだわ」
「はいっ!」

 そうしてそのまま冷泉先輩と島津先輩は下がって皆の中へ。わたし達二人が前面に残される。外でのお披露目が終われば次は、内部へのお披露目というわけで。

「では、今年も星花祭、無事に滞りなく終わりました」
「各自思い思いの行動を取りたいことでしょうから、今日はこのまま解散といたしましょう」

 最初の伝達。まずは今日はここまでに。掃除も後片付けもあらかた終わっているのだから、年一度きりのお祭りの余韻を最重視。そこは美沙とも一致した意見で。二人揃って、皆に通告。

「このまま……で、良いのですか?」
「ええ、年に一度。この時は各自大事にしましょう」

 少しざわつく部員たち。

「お祭りに堅苦しい後味は抜き、ってことね?」

 このタイミングで、サポート役の良子がずいっと後押し。こういうあたりが、やはり良子。心強い。

「そうですよ、りょーさん。部室もギリギリまで空けておきますからね」
「各自で羽目をはずしすぎない程度に好きに使うこと。以上!」

 みんな揃って、お疲れ様でした! ささ、後夜祭ではないですが、各自で楽しんで欲しいものですね。


――――――――――――――――――


「では、十さん此方へ」
「は、はいっ!」

 少し雑務を終えてから、美沙との部活コンビが終わり、今度は恋人コンビへ移行。みんなも部活が終わりお祭りが終わり、その余韻に浸るお時間。あちらこちらで二人で寄り添って何処かへ行ったり部室に残ったり、中庭の方へ向かったり。冷泉先輩と島津先輩は、そんな空気をのんびりと窓際で楽しんでいて、傍らには一年同士のカップルもいた。カップルと言えばと、ふと気づけば、既に沙姫は宇田さんと何処かへ消え去ってた。エロスーツ女はやいですねぇ。わたしも遅れじと、彼女を連れ出し部室を後にする。メイド同士で何処かに行くのです。

「更なる吉報期待してるわ」
「お赤飯炊いとくからな!!」
「たかなくていーです!」
「ふふっ気をつけていってらっしゃい」

 良子京子コンビにからからと見送られ、美沙には微笑まれつつ手をフリフリと見送られ。京さんと二人で赤くなって退出脱出。さっきから皆に赤くさせられっぱなしなのです。主にこの隣の娘が抱きついてきたからなんですけどね! そんな娘が離の廊下で、ぴったり寄り添ってくっついてくる。

「あのあのっ」
「なんですかー?」
「二人、ですねっ」
「ええ、二人、ですねー」

 ようやく訪れた二人だけ。お祭りを見て回ることは出来なかったけれど、わたし達にはそのくらいが、出だしとしては良いのかもしれない。

「ふふっ、嬉しそうですね?」
「えへ……えへ~~」

 てれてれにへにへと頬を染めて笑う彼女は、やっぱり可愛い。

「さて、まだ一週間程度ですが……どうですか?」
「ど、どうって? ど、どうでしょう?」
「飽きたりしません?」
「しないですっ!!」

 むーっ! とちょっと怒ったような顔で抱きついてくる。

「ふふっ良かったですよ」
「飽きるはずないじゃないですか! あんなにボケ倒していたんですから!」
「ごふっ」
「あっあわわわわわっ!?」

 しんだ。まさか恋人から刺されるとは……色々な方向に頑張るとか言ってましたねぇそう言えば…… 

「みーやーこーさーん?」
「いいいいいえっ!? そっそのっ!? そうではなくって……ええっと!!」
「ええっと……?」
「えーとえーーと……へ、変な人!」
「他に言葉ないですか!?」

 言いよどんだ挙句の変人扱い。恋人からのお言葉は結構刺さる。恋人と変人ってそう言えば漢字似てますよね。いや似てるだけでおかしいじゃないですか可愛いとか素敵とかそっち系はないんですか!! ……今日を思い出す限りないな、うん。

「あうーん、でもでもっ! 好きなんですー!!」
「ま、まぁ……しょうがないですね!!」
「えへへ!!」
「あっあっ、もう」

 ごまかすわけではないだろうけれど、直球ならわたしもそう返すわけで。そのまま嬉しそうに、改まってって再度抱きつき。むぎゅりとむにゅりとふにふにと。露出の多いメイド服が功を奏したかはたまた元凶か、地肌の感触、彼女の温もり、京の鼓動が直に伝わる。彼女がわたしに入ってくる。それは彼女も同じで、わたしの音も熱も心も体も、彼女としっかり共有される。熱い厚い熱量が、わたし達を再度包む。

「……」
「……」

 力を時折緩め、ギュッと軽く、抱きしめる

「っ!」
「……っ」

 ビクッと彼女が大きく反応。それを、二度三度、廊下の隅で彼女を揺さぶる。びくんびくんとその都度都度に、吐息混じりの艶やかな可愛い声が漏れ出して。わたしもその都度彼女の味に、身が震えてしまう。それもここはまだまだ離の廊下である。確かに二人なれど二人きりにまでなりきれない辺りでこうなってしまうのも、わたし達らしいなぁと、火照りながらも苦笑い。

「みや…………いや、モモさん」

 この、わたし達らしさが、膨大な熱量に包まれる中でも、一定の冷静さを保てた理由の一つだろう。それを利用して、この機を逃さず、彼女にしっかり語りかける。

「は、ぃぃ……」

 抱きしめられて魘されて、焦らされてのわたしの声に、濃厚な微声で返す彼女、百々。
 かわいい――……紅くなって感情豊かで涙目気味なかわいいかわいいその彼女へ、一つのプレゼントを口にする

「将来わたしと一緒に、暮らしませんか?」
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