11 / 25
011 厄介な仕事に取りかかる
しおりを挟む
ある意味オリヴァー殿下を押し付けられたと言える状態ではあるが、仕事と両国の友好のためであるならば、致し方ない。
私はまず最初にこんぶ課の応接室でオリヴァー殿下相手に、ツガイシステムについてクリスタルを前に実践的な説明を実施した。
「なるほど。魔法が必須な、実に神秘的なシステムなんだね」
そんな感想を頂戴した私は場所を移し、現在「案内しろ」と言われて真っ先に思いつく定番となる場所に、オリヴァー殿下と立ち寄ったところだ。
「こちらは、過去のツガイシステムの結果など、重要な記録が保管されている場所です」
私はクリスティナ同様、オリヴァー殿下に資料室をザッと説明する。
「ふむ、興味深いな」
オリヴァー殿下は、観察するといった感じで、室内をぐるりと見渡す。
「ここに残されている資料。これを分析すれば、ツガイシステムが結びつけやすい者同士の傾向などが判明したりしないのだろうか」
「もちろん私達もそちらについての研究を行っております。けれど髪や瞳の色。血液型に生年月日。それから出生時間に場所。その他にも趣味嗜好を分析したりしているのですが、これといった傾向がないので、未だ結びつきの論理については謎のままです」
それらがはっきり解明されれば、システムが相手を示すまで待つ必要がなくなる。しかし現実は、そうそう上手く解析出来そうもないという状況だ。
「なるほど。だから神の領域とも言われているというわけか」
「はい。それに実際、我が国の離婚率は〇・四パーセントを切っております」
「それはすごいな。我が国は確か一・五パーセントはいってたはずだ」
「まぁ、世界で見れば宗教観の違いもありそうですし、離婚が少ないからといって、皆が幸せな家庭を築いているとは限りませんけれど」
「確かにそうだね。各国の王族連中も世間体を気にし、我慢している者がいるだろうからな」
オリヴァー殿下と私は、高く積み上がる書類棚を見上げ真面目な会話を交わす。
「ところで、ここにある本は?」
殿下は、書架から抜き取った本を私に見せた。
「主に国内外で発表された、ツガイシステムに関する論文ですね」
「そうか」
オリヴァー殿下はパラリとページをめくる。
「ツガイシステムが示す未来……ふむ、実に面白い内容だね」
どうやら気に入ったようだ。
「もしお時間がおありでしたら、ご覧になりますか?数日で返していただけるなら、貸出も可能ですけど」
興味深げに読み進めている様子だった為、お勧めしてみる。
「いいのか?では、お言葉に甘えて何冊か貸出をお願いしよう」
殿下は手に持っていた本をパタリと閉じた。
「君は、真摯に職務に取り組んでいるのだな」
突然、オリヴァー殿下が感心したような声を私にかける。
「それと、昨日はすまなかった」
突然謝罪され、私は戸惑う。
「昨日のあれは、お互い様というか。そもそも私が先に突っかかってしまったわけですし、なんと言うかその、お気になさらないで下さい」
私も素直に謝罪する。今思えば、あの時の私はまるで自分の仕事が馬鹿にされたように感じ、冷静さを欠いていたような気がする。
世の中には様々な価値観がある事をすっかり忘れ、自分の考えが正しいと信じ、押し付けてしまったとも思えた。
「仕事内容の説明を受け、君がどれだけ国民の幸せを思い、働いているかを知った。確かに私は未だに、このシステムを手放しで褒めるつもりはない。けれど昨日の私の言い方。あれは気分を害しても当然だと思う。すまなかった」
オリヴァー殿下は真剣な表情のまま、頭を下げた。
「そんな。顔を上げて下さい」
私は慌てて止めに入る。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。私も大人気なかったですし」
「いや、それは仕方ないよ。私が悪かった」
「いいえ、私が悪かったのです」
「…………」
「…………」
堂々巡りになった会話に私たちは同時に気付く。
「ぷっ」
「ぷっ」
思わず二人同時に吹き出した。
「なんだか、二十歳を過ぎた大人がする会話じゃないな」
「ほんとですね。まるで小さい頃、弟と喧嘩をしている時みたいでした」
「君には弟がいるのか?」
「はい。今年で十六歳になるんです。今年騎士団に入団したんですけど」
「あ、あの生意気なやつかなぁ。君と同じ黄金色の髪色をした青年」
「多分それですね」
オリヴァー殿下と私は、初めて普通に会話を交わすことに成功する。
「殿下、貸し出しを希望される本の題名を教えて頂けますか?」
私がたずねると、オリヴァー殿下は本の表紙を私に見せてくれた。
「ええと、ツガイシステムによる、恋愛感情の喪失……な、なるほど」
「君の抱える問題だよ」
オリヴァー殿下は爽やかな笑顔を私に向ける。
「ええと……」
(まさか自分が当てはまるだなんて、考えた事もなかったけど)
私個人としては、恋愛感情を喪失していないと思っている。なぜなら恋愛小説を読んで、胸がキュンとする気持ちを感じるから。
それに先程、私の代わりに頭を下げてくれた課長に対し、一瞬ではあったが「格好いい、頼もしい、好き」とそんな気持ちになった。
ただ、国民全体で考えた時。私と同じようにリアルな恋愛感情は、ツガイシステムでマッチングした後に経験出来るものだと考えている人が多い事も確かだ。
もちろんその考えは間違ってない。正しい道が示される未来が待っているのに、わざわざ寄り道をする必要はないからだ。
そう思う私は帝国の、オリヴァー殿下から見たらおかしいのだろうか。
「その論文を読んだ感想。それを是非聞かせて下さいね」
「その時はお茶でも飲みながら、ゆっくりと」
オリヴァー殿下は意味ありげな笑顔を私に向ける。
思わずドキリとし、私は慌てて貸出カードに本の題名を記す。
「そろそろ城下に移動しましょうか。えっと、希望の場所はありますか?」
「そうだな……」
オリヴァー殿下は顎に手を当てて考え込む。
「この国の恋愛事情を調べたい。恋人同士が多い場所に行きたいな」
「……恋人同士が多い場所、ですか」
意外な希望が飛び出し、正直私は困り果てる。なぜならツガイシステムに嫌われた私は、誰かと付き合った事がないからだ。
(うーん、よくわからないけど。多分あそこかな……)
私は頭に思い浮かんだ場所へ、オリヴァー殿下を案内する事にしたのであった。
私はまず最初にこんぶ課の応接室でオリヴァー殿下相手に、ツガイシステムについてクリスタルを前に実践的な説明を実施した。
「なるほど。魔法が必須な、実に神秘的なシステムなんだね」
そんな感想を頂戴した私は場所を移し、現在「案内しろ」と言われて真っ先に思いつく定番となる場所に、オリヴァー殿下と立ち寄ったところだ。
「こちらは、過去のツガイシステムの結果など、重要な記録が保管されている場所です」
私はクリスティナ同様、オリヴァー殿下に資料室をザッと説明する。
「ふむ、興味深いな」
オリヴァー殿下は、観察するといった感じで、室内をぐるりと見渡す。
「ここに残されている資料。これを分析すれば、ツガイシステムが結びつけやすい者同士の傾向などが判明したりしないのだろうか」
「もちろん私達もそちらについての研究を行っております。けれど髪や瞳の色。血液型に生年月日。それから出生時間に場所。その他にも趣味嗜好を分析したりしているのですが、これといった傾向がないので、未だ結びつきの論理については謎のままです」
それらがはっきり解明されれば、システムが相手を示すまで待つ必要がなくなる。しかし現実は、そうそう上手く解析出来そうもないという状況だ。
「なるほど。だから神の領域とも言われているというわけか」
「はい。それに実際、我が国の離婚率は〇・四パーセントを切っております」
「それはすごいな。我が国は確か一・五パーセントはいってたはずだ」
「まぁ、世界で見れば宗教観の違いもありそうですし、離婚が少ないからといって、皆が幸せな家庭を築いているとは限りませんけれど」
「確かにそうだね。各国の王族連中も世間体を気にし、我慢している者がいるだろうからな」
オリヴァー殿下と私は、高く積み上がる書類棚を見上げ真面目な会話を交わす。
「ところで、ここにある本は?」
殿下は、書架から抜き取った本を私に見せた。
「主に国内外で発表された、ツガイシステムに関する論文ですね」
「そうか」
オリヴァー殿下はパラリとページをめくる。
「ツガイシステムが示す未来……ふむ、実に面白い内容だね」
どうやら気に入ったようだ。
「もしお時間がおありでしたら、ご覧になりますか?数日で返していただけるなら、貸出も可能ですけど」
興味深げに読み進めている様子だった為、お勧めしてみる。
「いいのか?では、お言葉に甘えて何冊か貸出をお願いしよう」
殿下は手に持っていた本をパタリと閉じた。
「君は、真摯に職務に取り組んでいるのだな」
突然、オリヴァー殿下が感心したような声を私にかける。
「それと、昨日はすまなかった」
突然謝罪され、私は戸惑う。
「昨日のあれは、お互い様というか。そもそも私が先に突っかかってしまったわけですし、なんと言うかその、お気になさらないで下さい」
私も素直に謝罪する。今思えば、あの時の私はまるで自分の仕事が馬鹿にされたように感じ、冷静さを欠いていたような気がする。
世の中には様々な価値観がある事をすっかり忘れ、自分の考えが正しいと信じ、押し付けてしまったとも思えた。
「仕事内容の説明を受け、君がどれだけ国民の幸せを思い、働いているかを知った。確かに私は未だに、このシステムを手放しで褒めるつもりはない。けれど昨日の私の言い方。あれは気分を害しても当然だと思う。すまなかった」
オリヴァー殿下は真剣な表情のまま、頭を下げた。
「そんな。顔を上げて下さい」
私は慌てて止めに入る。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。私も大人気なかったですし」
「いや、それは仕方ないよ。私が悪かった」
「いいえ、私が悪かったのです」
「…………」
「…………」
堂々巡りになった会話に私たちは同時に気付く。
「ぷっ」
「ぷっ」
思わず二人同時に吹き出した。
「なんだか、二十歳を過ぎた大人がする会話じゃないな」
「ほんとですね。まるで小さい頃、弟と喧嘩をしている時みたいでした」
「君には弟がいるのか?」
「はい。今年で十六歳になるんです。今年騎士団に入団したんですけど」
「あ、あの生意気なやつかなぁ。君と同じ黄金色の髪色をした青年」
「多分それですね」
オリヴァー殿下と私は、初めて普通に会話を交わすことに成功する。
「殿下、貸し出しを希望される本の題名を教えて頂けますか?」
私がたずねると、オリヴァー殿下は本の表紙を私に見せてくれた。
「ええと、ツガイシステムによる、恋愛感情の喪失……な、なるほど」
「君の抱える問題だよ」
オリヴァー殿下は爽やかな笑顔を私に向ける。
「ええと……」
(まさか自分が当てはまるだなんて、考えた事もなかったけど)
私個人としては、恋愛感情を喪失していないと思っている。なぜなら恋愛小説を読んで、胸がキュンとする気持ちを感じるから。
それに先程、私の代わりに頭を下げてくれた課長に対し、一瞬ではあったが「格好いい、頼もしい、好き」とそんな気持ちになった。
ただ、国民全体で考えた時。私と同じようにリアルな恋愛感情は、ツガイシステムでマッチングした後に経験出来るものだと考えている人が多い事も確かだ。
もちろんその考えは間違ってない。正しい道が示される未来が待っているのに、わざわざ寄り道をする必要はないからだ。
そう思う私は帝国の、オリヴァー殿下から見たらおかしいのだろうか。
「その論文を読んだ感想。それを是非聞かせて下さいね」
「その時はお茶でも飲みながら、ゆっくりと」
オリヴァー殿下は意味ありげな笑顔を私に向ける。
思わずドキリとし、私は慌てて貸出カードに本の題名を記す。
「そろそろ城下に移動しましょうか。えっと、希望の場所はありますか?」
「そうだな……」
オリヴァー殿下は顎に手を当てて考え込む。
「この国の恋愛事情を調べたい。恋人同士が多い場所に行きたいな」
「……恋人同士が多い場所、ですか」
意外な希望が飛び出し、正直私は困り果てる。なぜならツガイシステムに嫌われた私は、誰かと付き合った事がないからだ。
(うーん、よくわからないけど。多分あそこかな……)
私は頭に思い浮かんだ場所へ、オリヴァー殿下を案内する事にしたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる