エスメルダ王国婚姻解析課~おひとりさま令嬢の婚活事変~

月食ぱんな

文字の大きさ
16 / 25

016 バグ発生!?

しおりを挟む
 カラン、コロン。
 カラン、コロン。

 今日も私は元気に『エスメルダ王国婚姻解析課』こと、こんぶ課にて勤務中。

(愛することは、自由)

 心が開放される合言葉を胸に、今日もクリスタルと真摯に向き合い世のため人のため、婚姻座標こんいんざひょうに示される古代文字を解析していた。

「アリシア、何か今日クリスタルの調子がおかしくないか?」
「そう?私は快調だけど」
「……俺の気のせいか」
「そうね。気のせいよ」

 午前中はキースの気づきを軽く流していたのだがお昼休みを終え、午後の就業しゅうぎょうが始まってから一時間後。

 私たちこんぶ課は前代未聞ぜんだいみもんの緊急事態に直面していた。

「すみません、僕の方にも、メアリー・ホロックスと名が」
「俺のところにもレベッカ・フランクリンと現れました」
「きたきた、こっちにも。ええと、ジュヌヴィエーヴ・メレディス……って確か彼女はすでに他界していたような」
「あ、それ。同姓同名で確か今年デビューした娘がいたはずだ。回覧板かいらんばんで注意するようにって、知らせが来てただろ?」
「あー、そうだったな」

 突然みんなのクリスタルに異変が起きた。

「アリシア、お前のクリスタルはどうだ?」

 課長に問われ、私は肩をビクリとさせる。

「ええと……」

(何で私の名前が殿下と結びついているの?)

 あり得ない事実を前に目をまたたく。しかしいくら目をパチパチしたところで、結果が変わるわけではないのが辛いところ。

「あっ、アリシアは自分の名前が表示されてる!」

 向かいに座るキースが勝手に私のクリスタルに浮き出る文字を解析したようだ。その結果、出来れば誰にも知られたくない分析結果を大声で課長に告げられてしまう。

(余計なことを)

 私はキースをキリリとにらむ。

「でも、オリヴァー殿下の相手はクリスティナ・トンプソンのはずですよね?」

 キースは私の恨みのこもる視線を完全に無視し、課長に告げる。

「そうであったはずだが。ふむ、一体何が起きているんだ」

 みんなのクリスタルを確認し、腕を組み困惑する課長。

 というのも先程からまるで誰かに乗っ取られたかのように、みんなのクリスタルにオリヴァー殿下と婚姻を結ぶべき相手の名前が、次々と映し出されてしまっているからだ。

「も、もしかしてサーバーがハッキングされたとか……」

 同僚の一人が恐る恐るといった感じで呟く。

「それはあり得ないだろう」
「そうだよな。サーバーには外部からの侵入を防ぐために、魔法局の連中が何十にもトラップをしかけてあるっていうし」
「しかもかなり精巧せいこうな魔法でファイアウォールを張っているらしいぞ」
「だよなあ。だから、こんな事態が起きるなんてありえないんだよ」
「じゃあ、このエラーは何なんだ?」

 みんなが困惑した声をあげる。
 もちろん私も絶賛困惑中だ。

「そもそもエラーじゃなかったとしたら」

 キースがぼそりと口をはさむ。

「どういう意味だ?」

 課長が眉根まゆねを寄せ、聞き返す。

「ツガイシステムが間違いを導き出すはずがない。それは我らだけではなく、エスメルダ王国民の常識です。となるとシステムのエラーやバグではなく、示された結果は合っている。そう考えられるのではないかと」

 キースの意見に一同うなずく。

(確かにツガイシステムのバグなんて聞いた事ないかも)

 ざっと思い返してみても、そんな記憶は私の中に残されていない。

「そうか、わかったぞ。帝国の王族は一夫多妻制いっぷたさいせいだ。だからこのように多数の女性がマッチングしてしまったんだ」

 先輩の一人が眼鏡をクイッとあげながら声高らかに考えを述べた。

「ああ、なるほど。それなら納得できる」
「そういうことか」
「一夫多妻制か」

 他の人達が一斉にに落ちたと言った感じで声をあげた。
 そんな中、私は一人青ざめる。

「嘘でしょ……私はオリヴァー殿下の、その他大勢の妻の一人になるってこと?散々待ってこれってちょっとひどくない?」

 思わずクリスタルに向かって声をあげてしまう。
 そして私の不満たっぷりな声は、思いのほか課内に響き渡ってしまった。

「あー」
「まぁ」
「うん」
「アリシア、頑張れ」
「せめて君が多くの妻の一番になれるよう、祈ってる」
「そうだな」
「ファイトだぞ、アリシア!」

 先輩やキースからあわれみのこもる視線を向けられてしまった。

「とりあえず、他の部署で何かバグらしきものが発生していないか調べたほうがいいかも」
「クリスタルに異変がないかどうか、魔法局の古物こぶつ鑑定課に見てもらおう」
「それに、サーバー管理課にも知らせないと」
「とりあえず魔力を流すのだけは、念のためストップしておいたほうがいいかもな」
「ないとは思うけど、ハッキングの可能性もまだ残っているわけですしね」
「過去に一夫多妻の結果があるかどうか、それを資料室で調べるべきかも」

 それぞれが意見を出し合う。

「よし、分担してこの異例な事案に対応しよう」

 課長の指示を仰ぎ、私たちは関係各所に散っていったのであった。

 そして調査の結果。

「クリスタルにも、サーバーにも問題がなかったそうだ」

 課長の言葉でこの特異的とくいてきな案件は解決……しなかったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

処理中です...