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016 バグ発生!?
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カラン、コロン。
カラン、コロン。
今日も私は元気に『エスメルダ王国婚姻解析課』こと、こんぶ課にて勤務中。
(愛することは、自由)
心が開放される合言葉を胸に、今日もクリスタルと真摯に向き合い世のため人のため、婚姻座標に示される古代文字を解析していた。
「アリシア、何か今日クリスタルの調子がおかしくないか?」
「そう?私は快調だけど」
「……俺の気のせいか」
「そうね。気のせいよ」
午前中はキースの気づきを軽く流していたのだがお昼休みを終え、午後の就業が始まってから一時間後。
私たちこんぶ課は前代未聞の緊急事態に直面していた。
「すみません、僕の方にも、メアリー・ホロックスと名が」
「俺のところにもレベッカ・フランクリンと現れました」
「きたきた、こっちにも。ええと、ジュヌヴィエーヴ・メレディス……って確か彼女はすでに他界していたような」
「あ、それ。同姓同名で確か今年デビューした娘がいたはずだ。回覧板で注意するようにって、知らせが来てただろ?」
「あー、そうだったな」
突然みんなのクリスタルに異変が起きた。
「アリシア、お前のクリスタルはどうだ?」
課長に問われ、私は肩をビクリとさせる。
「ええと……」
(何で私の名前が殿下と結びついているの?)
あり得ない事実を前に目を瞬く。しかしいくら目をパチパチしたところで、結果が変わるわけではないのが辛いところ。
「あっ、アリシアは自分の名前が表示されてる!」
向かいに座るキースが勝手に私のクリスタルに浮き出る文字を解析したようだ。その結果、出来れば誰にも知られたくない分析結果を大声で課長に告げられてしまう。
(余計なことを)
私はキースをキリリと睨む。
「でも、オリヴァー殿下の相手はクリスティナ・トンプソンのはずですよね?」
キースは私の恨みのこもる視線を完全に無視し、課長に告げる。
「そうであったはずだが。ふむ、一体何が起きているんだ」
みんなのクリスタルを確認し、腕を組み困惑する課長。
というのも先程からまるで誰かに乗っ取られたかのように、みんなのクリスタルにオリヴァー殿下と婚姻を結ぶべき相手の名前が、次々と映し出されてしまっているからだ。
「も、もしかしてサーバーがハッキングされたとか……」
同僚の一人が恐る恐るといった感じで呟く。
「それはあり得ないだろう」
「そうだよな。サーバーには外部からの侵入を防ぐために、魔法局の連中が何十にもトラップをしかけてあるっていうし」
「しかもかなり精巧な魔法でファイアウォールを張っているらしいぞ」
「だよなあ。だから、こんな事態が起きるなんてありえないんだよ」
「じゃあ、このエラーは何なんだ?」
みんなが困惑した声をあげる。
もちろん私も絶賛困惑中だ。
「そもそもエラーじゃなかったとしたら」
キースがぼそりと口を挟む。
「どういう意味だ?」
課長が眉根を寄せ、聞き返す。
「ツガイシステムが間違いを導き出すはずがない。それは我らだけではなく、エスメルダ王国民の常識です。となるとシステムのエラーやバグではなく、示された結果は合っている。そう考えられるのではないかと」
キースの意見に一同頷く。
(確かにツガイシステムのバグなんて聞いた事ないかも)
ざっと思い返してみても、そんな記憶は私の中に残されていない。
「そうか、わかったぞ。帝国の王族は一夫多妻制だ。だからこのように多数の女性がマッチングしてしまったんだ」
先輩の一人が眼鏡をクイッとあげながら声高らかに考えを述べた。
「ああ、なるほど。それなら納得できる」
「そういうことか」
「一夫多妻制か」
他の人達が一斉に腑に落ちたと言った感じで声をあげた。
そんな中、私は一人青ざめる。
「嘘でしょ……私はオリヴァー殿下の、その他大勢の妻の一人になるってこと?散々待ってこれってちょっとひどくない?」
思わずクリスタルに向かって声をあげてしまう。
そして私の不満たっぷりな声は、思いのほか課内に響き渡ってしまった。
「あー」
「まぁ」
「うん」
「アリシア、頑張れ」
「せめて君が多くの妻の一番になれるよう、祈ってる」
「そうだな」
「ファイトだぞ、アリシア!」
先輩やキースから憐れみのこもる視線を向けられてしまった。
「とりあえず、他の部署で何かバグらしきものが発生していないか調べたほうがいいかも」
「クリスタルに異変がないかどうか、魔法局の古物鑑定課に見てもらおう」
「それに、サーバー管理課にも知らせないと」
「とりあえず魔力を流すのだけは、念のためストップしておいたほうがいいかもな」
「ないとは思うけど、ハッキングの可能性もまだ残っているわけですしね」
「過去に一夫多妻の結果があるかどうか、それを資料室で調べるべきかも」
それぞれが意見を出し合う。
「よし、分担してこの異例な事案に対応しよう」
課長の指示を仰ぎ、私たちは関係各所に散っていったのであった。
そして調査の結果。
「クリスタルにも、サーバーにも問題がなかったそうだ」
課長の言葉でこの特異的な案件は解決……しなかったのであった。
カラン、コロン。
今日も私は元気に『エスメルダ王国婚姻解析課』こと、こんぶ課にて勤務中。
(愛することは、自由)
心が開放される合言葉を胸に、今日もクリスタルと真摯に向き合い世のため人のため、婚姻座標に示される古代文字を解析していた。
「アリシア、何か今日クリスタルの調子がおかしくないか?」
「そう?私は快調だけど」
「……俺の気のせいか」
「そうね。気のせいよ」
午前中はキースの気づきを軽く流していたのだがお昼休みを終え、午後の就業が始まってから一時間後。
私たちこんぶ課は前代未聞の緊急事態に直面していた。
「すみません、僕の方にも、メアリー・ホロックスと名が」
「俺のところにもレベッカ・フランクリンと現れました」
「きたきた、こっちにも。ええと、ジュヌヴィエーヴ・メレディス……って確か彼女はすでに他界していたような」
「あ、それ。同姓同名で確か今年デビューした娘がいたはずだ。回覧板で注意するようにって、知らせが来てただろ?」
「あー、そうだったな」
突然みんなのクリスタルに異変が起きた。
「アリシア、お前のクリスタルはどうだ?」
課長に問われ、私は肩をビクリとさせる。
「ええと……」
(何で私の名前が殿下と結びついているの?)
あり得ない事実を前に目を瞬く。しかしいくら目をパチパチしたところで、結果が変わるわけではないのが辛いところ。
「あっ、アリシアは自分の名前が表示されてる!」
向かいに座るキースが勝手に私のクリスタルに浮き出る文字を解析したようだ。その結果、出来れば誰にも知られたくない分析結果を大声で課長に告げられてしまう。
(余計なことを)
私はキースをキリリと睨む。
「でも、オリヴァー殿下の相手はクリスティナ・トンプソンのはずですよね?」
キースは私の恨みのこもる視線を完全に無視し、課長に告げる。
「そうであったはずだが。ふむ、一体何が起きているんだ」
みんなのクリスタルを確認し、腕を組み困惑する課長。
というのも先程からまるで誰かに乗っ取られたかのように、みんなのクリスタルにオリヴァー殿下と婚姻を結ぶべき相手の名前が、次々と映し出されてしまっているからだ。
「も、もしかしてサーバーがハッキングされたとか……」
同僚の一人が恐る恐るといった感じで呟く。
「それはあり得ないだろう」
「そうだよな。サーバーには外部からの侵入を防ぐために、魔法局の連中が何十にもトラップをしかけてあるっていうし」
「しかもかなり精巧な魔法でファイアウォールを張っているらしいぞ」
「だよなあ。だから、こんな事態が起きるなんてありえないんだよ」
「じゃあ、このエラーは何なんだ?」
みんなが困惑した声をあげる。
もちろん私も絶賛困惑中だ。
「そもそもエラーじゃなかったとしたら」
キースがぼそりと口を挟む。
「どういう意味だ?」
課長が眉根を寄せ、聞き返す。
「ツガイシステムが間違いを導き出すはずがない。それは我らだけではなく、エスメルダ王国民の常識です。となるとシステムのエラーやバグではなく、示された結果は合っている。そう考えられるのではないかと」
キースの意見に一同頷く。
(確かにツガイシステムのバグなんて聞いた事ないかも)
ざっと思い返してみても、そんな記憶は私の中に残されていない。
「そうか、わかったぞ。帝国の王族は一夫多妻制だ。だからこのように多数の女性がマッチングしてしまったんだ」
先輩の一人が眼鏡をクイッとあげながら声高らかに考えを述べた。
「ああ、なるほど。それなら納得できる」
「そういうことか」
「一夫多妻制か」
他の人達が一斉に腑に落ちたと言った感じで声をあげた。
そんな中、私は一人青ざめる。
「嘘でしょ……私はオリヴァー殿下の、その他大勢の妻の一人になるってこと?散々待ってこれってちょっとひどくない?」
思わずクリスタルに向かって声をあげてしまう。
そして私の不満たっぷりな声は、思いのほか課内に響き渡ってしまった。
「あー」
「まぁ」
「うん」
「アリシア、頑張れ」
「せめて君が多くの妻の一番になれるよう、祈ってる」
「そうだな」
「ファイトだぞ、アリシア!」
先輩やキースから憐れみのこもる視線を向けられてしまった。
「とりあえず、他の部署で何かバグらしきものが発生していないか調べたほうがいいかも」
「クリスタルに異変がないかどうか、魔法局の古物鑑定課に見てもらおう」
「それに、サーバー管理課にも知らせないと」
「とりあえず魔力を流すのだけは、念のためストップしておいたほうがいいかもな」
「ないとは思うけど、ハッキングの可能性もまだ残っているわけですしね」
「過去に一夫多妻の結果があるかどうか、それを資料室で調べるべきかも」
それぞれが意見を出し合う。
「よし、分担してこの異例な事案に対応しよう」
課長の指示を仰ぎ、私たちは関係各所に散っていったのであった。
そして調査の結果。
「クリスタルにも、サーバーにも問題がなかったそうだ」
課長の言葉でこの特異的な案件は解決……しなかったのであった。
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