エスメルダ王国婚姻解析課~おひとりさま令嬢の婚活事変~

月食ぱんな

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022 やっぱりツガイシステムは偉大だった

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 現在私は、王城内の職員用食堂で昼食をとっているところだ。

「結局のところツガイシステムは恋する二人の背中を押す。そういう側面があるのだとクリスティナは主張してるの。それに書庫しょこにある「ツガイシステムによる、恋愛感情の喪失」という論文にも、恋愛感情とシステムの関連性について、しっかり記載されていたの。ねぇ、どう思う?」

 私は向かい側に座る、同僚のキースに意見を求める。

「あながち間違っていないかもな。俺を含めて未だ結婚願望の薄い奴って、ツガイシステムに引っ掛からない率が高いし」
「だよね。私もオリヴァー殿下に恋心を抱くまで、システムに引っ掛からなかったわけだし」

 私は左手の薬指にはまる、ブルーダイヤモンドがついた指輪をうっとりと眺める。

 ひときわ輝く指輪は、オリヴァー殿下が私に婚約指輪としてプレゼントしてくれたもの。つまり「行き遅れ」でない事を周囲に存分に示す事の出来る、いやらしさたっぷりな幸せのアイテムだ。

(ふふふ、ひひひ、へへへ)

 指輪を眺め、思わず頬がだらしなくゆがむ。

「幸せそうで何より。あのさ、今だから言うけど」

 向かい側に座るキースが勿体もったいぶった口調で話し始める。

「ん、 なに?」
「実は今年のデビュタントのお披露目の後、ツガイシステムに君と殿下の名が示されたんだ」
「え」
「つまり、最初に見抜いたのはシステムのほうが先ってことだと思うんだけど」
「えええええええ」

 思わず食堂中に響き渡る勢いで、叫び声をあげてしまった。
 周囲から冷たい視線を向けられた私は、改めてキースに向き直る。

「いいか?時系列的にはこうだ」

 キースは得意げに杖で空中に白い文字を描き始める。

「そもそも、君と殿下には同盟締結ていけつ百七年を記念して、政略結婚の話が上がっていた。そして殿下と君は偶然エリオット殿下の執務室の下で会う。その結果ツガイシステムが二人を示す。その後君を手にしたいと殿下がツガイシステムの穴をつき、自分に好意を寄せそうな子に思わせぶりな態度を取った。そんな感じだ」
「それって」

(最初に出会った瞬間、すでにツガイシステムが反応していたってことよね?)

 オリヴァー殿下は、私に対し特別な感情を抱いたと言ってくれている。

(でも私はスパイだと思っていたし)

 決して恋心のようなものや、運命なんて感じなかった。だとすると、やはりツガイシステムは間違いない。偉大なシステムだってことになる。

 最近の私は第六感を信じる人を「非論理的」だと馬鹿にする事はなくなった。とは言え、婚姻解析課の職員としてシステムを信じる気持ちも捨ててはいない。

 そもそも我が国の人間の多くが魔法が扱えること。
 それがどうしてなのかも解明されていないのだ。

(まぁ、世の中には説明のつかない事も多いけど)

 私がほこりを持ってたずさわる仕事は、やはり偉大であり絶対なのだと密かに確信する。

 ところで。

「キースは何で教えてくれなかったの?」

 私はキースに恨めしい視線を送る。

おおやけにしちゃ駄目だって、課長命令で口止めされてたから」
「あ、もしかしてキースがずっと私に何か隠している感じだったのって」
「まぁ、うん。可哀想だとは思ったけど。なんせ殿下と君の結婚は同盟締結百七年を記念してだって言うし、何より上司命令だから言えなかったってわけ」

 悪びれた素振そぶりなく言い切るキース。

(まぁ、上司命令ならば仕方がないか)

 私は素直に納得した。一般職員たるもの、上司の命令は絶対だからだ。

「つまり、殿下のした事って、意味がなかったってこと?」

 オリヴァー殿下は他国の人間である自分をシステムに認識させようと、自分に好意を寄せるよう、沢山の女性にダリアを贈ったと証言していた。しかしそんな事をしなくとも、ツガイシステムは殿下と私を示していたというわけで。

(そこまでして私を想ってくれていたってのは、嬉しいけれど)

 システムを混乱させたわりに、意味がなかったとも言える。

「そうとも言えない。ツガイシステムが人の手によって干渉かんしょうされる可能性があると判明したしね。正直、あんなに多数の人間が相手として示されたのは、我が国に対応するツガイシステムが処理しきれなかっただけだと思うし。ただ今回の事でシステム自体もかしこくなった。だからまるっきり無駄って事はなかったんじゃないか」

 確かに一夫多妻制に対応していないツガイシステムは、オリヴァー殿下の「花束攻撃」という介入かいにゅうにより、バグってしまいあのような結果を弾き出してしまった。

 今となっては、そういう認識で魔法省も一致している。そしてツガイシステムは今回のようなケースを経験し勝手に進化していくと、お偉い学者様が口にしていた。

(だからもう一夫多妻なんておかしな結果は導き出さないだろうけど。全くオリヴァー殿下ったら)

 本当に厄介だけれど面白い、魅力ある人だ。

「口元緩んでるし」
「し、失礼しました」

 私は両頬をキュッと両手であげたのであった。


 ***


 ついに私は結婚式当日を迎える事となった。
 三番目とは言え、私の旦那様になる人はローゼンシュタール帝国の皇子おうじ様。

 そして帝国と言えば、我が王国とは比べものにならない程、国力のある大きな国というわけで。

「うぅ、緊張してきた」

 私は鏡の前で、純白のドレスに身を包む自分の姿を見つめる。

 自分で言うのも何だが、いつもよりずっと綺麗に見える。けれど、オリヴァー殿下の隣に並べるレベルかと問われたら、微妙な気がしてたまらない。

(こんな日くらい、無条件で幸せな気持ちに包まれて、他の事なんて考えられなくなると思っていたのに)

 どうやら不安が幸せを飲み込んでしまっているようだ。

 鏡に映る自分の情けない表情を見つめ、泣きたい気分になってしまう。

「大丈夫よ。あなたは世界一綺麗。だって私の娘だもの」

 母はパシリと背中に一発。気合のもる励ましの一撃を加えてきた。

(いたい……)

 涙目になりつつも、いつも通り。母による慣れた乱暴な激励げきれいのお陰なのか、私の気持ちは少しだけ軽くなる。

「ありがとう……お母様」

 私は振り向いて礼を言う。

「やっぱり他国に嫁ぐのは」

 涙ぐむ父が視界に飛び込んでくる。

「あなた、泣かない!!」
「姉さんにしては綺麗じゃん」
「ジュリアン、「にしては」は余計よ!!」

 母のするどい叱責しっせきが飛び交う中。

「おめでとう」
「なんでも聞いてね」

 いつも穏やかな兄夫婦は、優しい笑顔を私に向ける。

 ここが帝国である事を忘れるくらい、いつも通りな私の家族。

「みんな、今までありがとう」

 私は家族に頭を下げる。

「今までありがとうは嬉しいけれど、これからもよろしくでしょう?結婚したってあなたは私達の家族でもあるのだから」

 母はそう言って、私をギュッと抱きしめた。

「さぁ、そろそろ時間ね。行きましょうか」

 少しだけ涙ぐむ、母の言葉にみんなで頷く。

 そして私は大好きな家族に見守られながら、式場へと向かったのであった。


 ***


 パイプオルガンが神聖な音を響かせる中。
 私は父にエスコートされ式場に入る。するとすでに席についていた沢山の人々が一斉にこちらを向いた。

(さ、さすが友好記念の政略結婚)

 ゆっくりと父と共に歩きながら、私はこっそり参列者を確認する。我がエスメルダ王国の陛下は勿論のこと、オリヴァー殿下の父となる、帝国の皇帝やその家族も揃っている。

 そんな中、エリオット兄様とその家族の姿を見つけ、私は嬉しくなり頬を緩める。

「またエリオットを見てる」

 いつの間にか祭壇の前に到着していたようだ。
 不機嫌そうな声を出すのは、私の夫となるオリヴァー殿下。

(相変わらず、キラキラしい)

 背が高く、顔立ちも整っていて文句なし。青い瞳はいつも通り優しげな印象だ。背景に映るステンドグラスから透ける光を受け、真っ白な式典用の帝国の軍服に身を包むオリヴァー殿下は、いつも以上に輝いて見えた。

 だけどその表情は何処か不機嫌そう。

「君は誰の妻になるのかな?」
「オリヴァー殿下です」

 大真面目な顔で答えると、途端に機嫌良くニコリと微笑むオリヴァー殿下。

「娘をよろしくお願いします」

 父の腕を持つ私の手はオリヴァー殿下に預けられた。

「必ず幸せにします」

 オリヴァー殿下が真面目な面持ちを父に向け、しっかりとした声で告げる。そして私は緊張しつつも、殿下の横に並ぶ。

「緊張してる?」
「そりゃ、まぁ」
「じゃ、おまじない」

 殿下は私の白い手袋をした手に軽く口づける。

「えっ」

 突然の事に固まる私。

「きゃー」
「まぁ、まぁ、まぁ」
「若いっていいわねぇ」
「くっ、アリシア様ったら見せつけるおつもりなのね。最近までこっち側の人間。完全に行き遅れだったくせに」

 黄色い歓声の中、いつも通り一言多いクリスティナの声が聞こえた気がし、思わず苦笑いになる。

 そして出席者全員で、讃美歌を歌い式は滞りなく進み、誓いの儀式を迎える事となった。

「では、誓いの口づけを」

 司祭の声に緊張した面持ちのまま、オリヴァー殿下と向かい合う。そして膝を曲げ、殿下が私の顔を隠すヴェールを上げるのをジッと待つ。

「帝国は一夫多妻制を許す国だ。でも僕は君だけを生涯愛すと誓う」

 オリヴァー殿下が私に告げると、顔の前から白いヴェールが取り払われた。

「絶対、二人で幸せになろう」
「はい」

 オリヴァー殿下は私の返事を聞き終わると同時に、優しいキスを落とした。
 触れ合った箇所から温もりを感じ、そのまま心まで満たされる。

「おめでとう」
「幸せにね」
「末永く」
「アリシア様ったら幸せそう……羨ましい」

 祝福の言葉と拍手に包まれ、私はオリヴァー殿下の手を取り立ち上がる。
 皆に笑顔を向けたあと、二人で一緒に歩き出す。

「おめでとう」
「ご成婚おめでとうございます」
「お似合いだわ」
「おめでとう」
「おめでとう」

 一歩進む毎に、沢山の人々からの祝いの言葉が降り注ぐ。
 その言葉が私の不安をかき消し、幸せで満たしてくれる。

「ありがとう」
「ありがとう」

 私達はお互い顔を見合わせ、笑顔を向け合う。

(私たち二人は、この先もずっと一緒)

 その事を実感し、私は心から笑みを漏らす。

 仕事に精を出し、少し行き遅れた私。
 けれどツガイシステムと、それから第六感に導かれ、世界一幸せな花嫁になったのであった。


 **おしまい**
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