男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第四章 やはり美少年との日常は甘くて危険らしい

第四十一話 美少年との日常に病魔は潜む

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 平穏な日常とはやはり偶発的なものに破られる運命さだめにある。例えば人間、病気と無縁でいることは困難だ。今日の朝日も例外でない。就寝前、少し体調がおかしいなと違和感を感じたが、そのまま眠りについたその早朝の出来事。

 強い倦怠感を覚えて朝日は目を覚ます。意識が覚醒するにつれ、腹痛、何より嘔吐感が強くなって行くのを自覚する。トイレに行くために、リモコンを手に取り部屋の電気をつけベッドから起き上がる。するとやけに身体が重たい。風邪だろうか? それとも何か食べたものが当たったのだろうか? 疑問に思いながら、よろよろと部屋を出てトイレへと向う。

「うえっ!!」

 どうやら自分が思った以上に体調が悪いらしい。下痢はそうでもないが、とにかく嘔吐感がひどい。それも過去に経験したことが無いひどさだ。一旦、吐き切ったと思い便座から離れようと立ち上がるが、そこで襲ってくる眩暈めまい

「あ、あれ? 僕……どうしたんだろ……これって? うぷっ!」

 ひたすた嘔吐が続く、もう胃の中には何も残っていないのに強烈な嘔吐感が残り続けるのだ。胃液すら吐き続け、体力を奪われた朝日はついに便座にもたれるように倒れこんだ。

『急性ウィルス性胃腸炎』
 有名どころだと『ノロ』とか『ロタ』と呼ばれるウイルス感染によって発症する胃、小腸の炎症である。十二~七十二時間程度の早い潜伏期間で発症し、概ね嘔吐、下痢による脱水症状と急激な体力消耗による衰弱が見られる。もちろん、日本では致死率は限りなくゼロに近い疾患だ。

 しかし、ここは日本ではない。そして、この世界の胃腸炎はそれらと違い症状が酷い。屈強な女性たちには致死率ゼロと言って問題ないが、この世界の男性となると話が変わる。

 男性人口が少ないのは出生率のみが理由では無い。身体が弱く女性より怪我や病気で命を落とす可能性が高いのも一因なのだ。胃腸炎も男性に限定すれば、致死率は約五%に迫る高さである。

 ただし朝日の身体の丈夫さや体力は、どちらかと言えば女性側に近い、実のところ症状はひどいが致死率発生にまでには至らない。

 ただし傍目からすれば、貴重な男性である朝日が致死率のある・・・・・・病気に罹患りかんしてしまったと言う事実のみだ。その重大さは、たった今、異変に気づいて第一発見者となった五月の反応が如実に示している。

「あっ……はっ……そ、そんな……あさ…ひ…さま?」

 彼女らMapsは男性学において、医学知識もある程度納めている。五月はもちろん、深夜子もこの分野は学校でトップクラスの成績であった。それ故、朝日がおかれている状態が正確に把握できてしまう。

「い、いや……いやぁ……いやあああーーーっ!!」

 完全なパニック。本来AランクMapsであろう者とも思えない失態。朝日への愛情がそのまま裏返しとなって、五月の心を削り取ってしまったのだ。

 五月の悲鳴ですぐさま深夜子と梅が駆けつける。だがこれまた梅にとっては、最も苦手な座学分野な上に――。

「なんだよこれ? 朝日……どうした? ……なんで倒れてんだ? おいっ、おいっ、冗談だろ……ひっ、ひぐっ……あさひぃ……おい」

 このような場面にはめっぽう弱く、すでに半泣き状態である。

 残すは深夜子一人であるが……。

「間違いなく急性胃腸炎。朝日君! 意識はある?」
「あ……? み、深夜子さん……う……ん。ちょっと吐き気が……酷いけど……多分、大丈――」
「朝日様! 何を! 何をおっしゃってますの? あっ!? は、はやく、病院? いえ、きゅ、救急車? よ、よよ呼ばなくては!?」

 少しは冷静さを取り戻しているが、慌てふためき対応がままならない五月。そこに恐ろしく冷淡な口調で深夜子が指示を始めた。

五月さっきー馬鹿なこと言わないで! この家は男性福祉完備。まずは医療室に朝日君を運んで! 嘔吐が続くから、対応準備は忘れないで」
「はっ!? あっ……わ、わたしくとしたことが、失礼しましたわ……了解……ですの」
「朝日君。すぐお医者さん呼ぶから五月さっきーの言うとおりにして待ってて」
「う……うん。……僕なら……だいじょ……ぶ、ご……ごめん……ね」
「朝日様! 失礼しますわ」

 五月が朝日を抱え医療室へとつれて行く。男性福祉対応の家は男性の急病対応を僅かでも短縮する為に、ある程度の医療処置ならば、その場で対応できる設備の整えられた部屋がある。救急車で病院まで運ぶので無く、対応可能なら直接医師がやってくる。この世界の男性専用の独特な救急システムである。

「ひぐっ……あ、さひ……うぇ……」

 廊下でへたりこんで泣いている梅に、深夜子がツカツカと近寄ると、バシッと平手打ちが頬を捉える。

「梅ちゃん。泣いてないで五月さっきーの手伝いして! あたしは医師の手配するから。医療室の冷蔵庫にある経口補水液を朝日君に飲ませる。多分すぐ吐くと思うけど、とにかく続けて少しづつでいいから飲ませて、今の朝日君に必要なこと!」
「なんでだよぉ……朝日のやつ、あんな苦しそうで……ひっく……無理矢理飲ますとか――」
「梅ちゃんしっかりして!!」

 日ごろの深夜子からは想像もつかない、絶叫に近い声が廊下に響き渡る。ふと梅が目を向けた深夜子の右手は血がにじまんばかりに握り締められ、かすかに震えていた。

「あっ……ああ、す、すまねぇ……わかったよ」

 こうして医療室で朝日の応急処置を五月と梅が行い。その間に深夜子は矢地へと連絡を取り、状況を説明。すぐさま男性保護省より男性総合医療センターへ緊急依頼が飛ぶ。

『ふむ。時間的にもほぼ完璧な対応だな。念のため一つ緊急性の高いランクで申請しておいたから、それなりの医師が向うだろう。発見タイミングが早かったのは何よりだ。それにしても深夜子、見直したぞ! 普通はこういった場面に初遭遇した場合は――ん、どうした?』
「……やっちー……朝日君……あっ、あぐっ…………あしゃひくん……し、しんじゃったら……ど、どうしよ? ……う、うぇ……ひぃ、ひぃーーーーーん!」

 緊張の糸が切れたのか、スマホを握りしめ、その場に座り込んで号泣をはじめる深夜子であった。泣き声が響く部屋でスマホからは矢地の声が続く。

『はぁ、お前も難儀なやつだな……。大丈夫だろう。健康診断のデータを見るに神崎君なら普通の男性と同じとはなるまい。万全に越したことは無いが、対応も完璧だと言っただろう? ほら、泣くな……』
「うえぇ……あ、あたし……あたし……あしゃひくぅ……ひぃーーーーーん」
「わかった! ほら、わかったから、な! 五月雨と梅だけじゃなくて深夜子。お前もはやく神崎君のそばに行ってやれ、もう十分もかからず、医師も到着するから、な」

 少しの間、深夜子を慰め続ける矢地であった。


 ――武蔵区男性総合医療センター。
 男性救急コール中央伝達室では怒号が飛び交っていた。

「ふざけないでっ!! 対応できる内科担当医がいない? 非番と他の救急が同時……馬鹿言わないで! そんな偶然ありえてたまりますか!? 男性救急なんですよっ? わかってるんで――くそっ!!」

 受話器を投げつけるように置いてから、デスクに拳を叩きつけるのは男性救急対応事務局長『栗源くりもと早奈英《さなえ》』である。同様に焦る部下がおろおろと質問を投げかける。

「局長どうします!? 男性保護省からの緊急、しかもBランク要請……もう対応リミットが五分を切ってます。とにかく最低限でも対応できる医師を派遣するしか……」
「そんなのわかってるわよ! でも下手にランクの低い医師を派遣して……万一、万一にでも患者だんせいに死亡されたら――」

 大事件では済まない。それこそ国の男性医療トップである男性総合医療センターの骨幹をも揺るがしかねない。そんな張り詰めた空気の中。突然、つい先ほどまで寝てましたと言わんばかりの、のんびりとした口調で何者かが口ばしを挟んだ。

「やれやれ騒がしい……宿直室での安眠を妨害しないでくれたまえ」

 無論、栗源は烈火のごとき形相で、伝達室の入り口に立つ影を睨み、怒鳴りつける。

「な……ん……ですてぇっ!? ば、馬鹿にしてるのっ!! この時間になんの宿直担当だか知らないけど、今どれだけ緊急かもわから……ないで……勝手な……」

 しかし、だんだんと語尾は弱まり、中央伝達室の入り口に立つ影――それが何者かを認識し、表情がこわばってゆく。

「あ……何故……貴女がここに……!?」

 医師たちの院内での着衣は清潔感の観点からも白衣・・に統一されている。しかし今、目の前に現れた者の着衣は黒! この男性総合医療センターで、黒衣こくいを纏うことが許される医師はわずかに十三名。そして、その黒衣の肩に銀糸で刺繍されるは”拾壱”の二文字――。

 燃えるような赤髪のマッシュショートに、少し長めの前髪が左目を隠す。だが、それ以上に力溢れるキリッとした右目、すらりとした痩身、その凛とした佇まいからカリスマ性があふれでる美女だ。

「ああ、内科医がいないと耳にしたものでね」

 そう、彼女こそ男性総合医療センターの内科医長にして、看護十三隊十一番隊隊長ひいらぎ明日火《あすか》その人である!!
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