男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第五章 特殊保護事例Ⅹ案件~五月雨家へようこそ!

第四十五話 追跡なら深夜子さんにお任せ!

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 ランニング中の朝日たちから離れること約1キロメートル先の公園にて――。

「そりゃまあ、すんごい美少年ですから調査依頼がくるのも理解できますけど……写真撮るのはヤバいですよ。あたし男性警察のご厄介にはなりたくですぅー」
「はぁ!? 何言うてんねん。風景写真や、風景写真っ! そこにたまたま・・・・美少年が写っとるだけや! 花ちゃん人聞き悪いこと言わんといてや? ……はぁ、しっかし今日もまたあのMapsがついてるんか……たまらんでホンマ」

 双眼鏡を覗きながら南が愚痴る。確かに男地だんち内は数少ない男性の一人歩きが可能な区域だ。しかし朝日に関しては、この世界への順応不充分と五月の判断で、特定の建物内以外では必ず最低誰か一人は付き添っている。

「そう言えば……初日にビビりまくってましたけど、そんなヤバいんです? あの美少年についてるMapsたち」
「そら言うたやろ? 普通はありえへんのやけど、ありゃ間違いなく三人ともSかAランクやで! あの子猫ちゃんかて、ウチらが気配を消して近づいても速攻で感知するレベルや。おかげで1キロ近く離れんとアカンわ……写真は取れんわ……かなわんで」
「確かに……行動調査は取れてますけど、写真は……全然ですもんねー」
 そう言いながら、花子は首にぶら下げている一眼レフカメラをなでる。
「そやで! それにな、もう二人おった内のこじらせた悪い目つきしとるねーちゃん。あれも相当にヤバいで――」
「ふーん……で、何を調べてるの?」
「えっ? そりゃあオマンマの種に決まっとるが……な……!?」

 突然、さらりと何者かが会話に加わるも、つい自然な流れで話しに乗ってしまった。途中で気づくと同時に血の気が引いていく。

 とにかくその存在の接近にも――いや、今の今まで、自分たちの間近にいたこと・・・・・・・すらも、一切気づくことができなかった。背中に嫌な汗を感じながら、二人がゆっくりと横を振り向く。

 すると、そこにはたった今、南が相当にヤバいと評した人物。きれいに切れ揃えられたセミロングの黒髪を揺らし、まるで猛禽類かと思える鋭い目つきをした女性――寝待ねまち深夜子みやこが南たちをじっと見つめていた。

 今日は朝日たちにあわせてか、はたまた部屋着のままなのかはわからないが、ジャージ姿に防刃ジャケットと非常にシュールないでたちの深夜子である。

「「ぎゃあああああっ!?」」

 悲鳴を上げると同時に、二人は太めの枝から枝へと飛び移り、ある程度の高さで一気に地面まで飛び降りる。

 ありえない! 自分たちはただ木に登っていたのではない。万全を期して、枝葉の影になるようにしていたハズだ。百歩譲って気づかれただけならまだいい。

 何より恐ろしいのは、一切の気配を感じることなく接近された事実! 軍の斥候部隊時代、敵の接近に気づけないのは同時に死を意味した。その時に培った自分たちの危険察知能力がまったく反応しない異常事態、まさに恐怖である。

 しかし、判断の遅れもまた同様であり、二人にはもう一つの武器『逃げ足』がある。あらかじめ決めておいた合流地点のサインを送り、二手に分かれ、できるだけ道を使わず・・・に全力で逃走を開始した。


 ――十五分後。
 先の公園から2キロほど離れた、緑地として使われている街道沿いの雑木林に南たちが姿を現した。

「ハァッ、ハァッ……どや、そっちは撒けたか?」
「はっ、はい……たっ、多分……逃げ切った……いや、追いかけてくる……ようには見えなかったですけど……」
 とりあえず周りには誰もいない。それを確認して二人は適当な石を見つけ腰をかける。
「どないしよ……いや、どの道いったん引き上げんとしゃあないな……」
「南所長……もう写真は買物とか外出時を狙うのがよくないです?」
「だから花ちゃんアホ言うなって、それじゃ写真の買取価格が全然かわんねんで?」
「う……ですよね……このカメラだけで十万以上投資しちゃいま――」

 カメラを手に持って、そう言いかけた花子の後ろから――スッと二本の腕が、まるで優しく抱き締めるかように伸びてくる。そして、冷たい手がカメラを持った花子の手をそっと包むように添えられた。

 強烈な悪寒が花子を襲うと同時に、頬にサラリとした黒髪が触れる。次の瞬間! 耳元に吐息をふきかけるようにソレ・・ささやいた。

「これカノンのハイパーショットWX80HGだよね。最近出た光学ズームが売りの新製品。あたしも買おうか迷った」
「ぴぎぃっ!?」

 言葉にならない悲鳴! 背中から手を突き刺され心臓を鷲掴みにされたかの如き戦慄。

 隣にいる南は細い目を限界まで見開き、金魚のように口をパクパクとさせて固まる。そう、またしても、またしても一切の気配を感じなかった。接近はおろか、カメラを持った自分の手に触れられるまで――。

「「うぎゃああああっ!?!?」」

 腰を抜かす南と、涙を流し顔面蒼白で失神寸前の花子。もはや逃げるどころではない精神状況である。

「そっ、そそそそんなアホな? ……一度ならず二度まで……ウチらに気取られずに近寄れるとかありえへんやろ……」
「えーと。なんで逃げたの?」
 深夜子はとりあえず会話になりそうな南に、視線と質問を投げかける。左腕のMaps腕章を見せ、事情聴取であることも表明する。
「そっ、そりゃあ、あないに突然話しかけれたら、だっ、誰だってビビりまっせ? ウチら二人とも小心者やさかいに……なっ、なっ、花ちゃん!」
「……え……あ……はっ、はいっ!! はいそうです。もうっ、それはもうびっくりしちゃって身体が勝手に!」
「ふーん。で、何してたの?」

 逃げるのは無理と判断して、南たちは誤魔化してやり過ごす方針に変更する。探偵業では必要なスキルであり、起業に伴いそれなりには勉強はしたのだ。

「いやー、そりゃもうせっかくのええ景色ですやん? 風景写真の撮影をさせてもろうとったんですわ、ハハ、ハハハ……」
「そう! そうですよ。ちょっと公園の掃除をしてたら、あまりに天気がよくて、みっ、見晴らしのよさについ。あはっ、アハハー」
 勉強した割には、かなりお粗末な二人の演技力。
「そうなんだ」

 納得しちゃった!! 残念ながら対話、交渉は深夜子の最も苦手とする分野であった。これはある意味名勝負である。

 しかし、じーっと、さらにじーっと、深夜子はただ黙って南と花子を見つめる。こんな時に限っては、日頃はマイナスにしかならない目つきと口調が大いに役立つ。まったく思考が読めない上、とにかくプレッシャーが尋常ではないのだ。当然、深夜子は何も考えていないッ!!

 それを知るよしもない南たちは、蛇ににらまれた蛙の如く顔中に油汗を滴らせている。続けてどう言い訳するかを考えるのだが、あまりの恐怖についつい小声で本音も漏れてしまう。

(アカン……これはアカンで……確実に三桁は人を殺しとる目や……てか、なんで警護担当がこないなバケモン揃いになっとんねん?)
(死んだ。わたし死んだかと思いましたよ。やっぱこの仕事おりましょう! まだ死にたくありませんよー)

 だが現在、たとえMapsと言えど自分たちを拘束できるほど、ボロは出してはいないハズだ。そして相手がMapsだからこそ、警護対象からあまり遠くに離れるのは難しいだろう。ならば南の取るべき選択肢は一つ。街からの離脱、これしかない。

 すぐ近くには移動用の自動車が止めてある。このバケモノは腕はともかく、頭は多少弱めに見える。とにかく車に乗り込み、一気に脱出すれば追っては来れない。花子とアイコンタクトで一芝居いれる算段をする。

「あっ! ちょっと事務所から電話ですね。……はいもしもし、えっ? 早く次の清掃場所に移動しろ? そ、そうですよね、もう時間ですよねー」
「ちゅ、ちゅうわけでウチら、別のとこで清掃の仕事がありますんで、ほなこれで!」
「ご、ごきげんようー」
「ちょっと、あたしの話しまだ――」

 とにかく強引に会話を切り上げ、これまた逃げるように雑木林を抜け出て行く。道路近くに止めてある車へ二人は我先にと乗り込み、エンジンをかけ一息に発進する。これで逃げれる! それから、帰ったらもうこの仕事……やめよう。口には出さないが同じことを考えている二人であった。

「はぁ、とんでもないもんに出会でおうてもうたなぁ……花ちゃん、帰ったらとりあえずこの仕事はキャンセルやな……なんか別の……花ちゃん? 花ちゃん!?」

 運転しながら花子の反応が無いことに気づく、ふと助手席を見ると白目をむいて口から泡を吹いているではないか! 猛烈な悪寒に襲われながら、恐る恐る視線をバックミラーに移した。

「まだ話終わってないよ」
「ほげぎゃああああああああっ!?!?」

 しっかりと後部座席に乗り込んでおり、タクシーの運転手からよく聞く怪談をリアルで再現する深夜子であった。正直、貴女がすると死ぬほど怖いので勘弁して欲しい。

 無論パニックになった南は運転どころではなくなる。車は歩道に乗り上げ減速しながら、斜面へと激突して止まる。しかしさすがに元軍隊の二人で、さほどの怪我もせずに車から這い出てきた。

 ――そして。

「かっ、堪忍や! もう堪忍してーやっ! お、おかーちゃーん!」
「ちょっ、南所長!? あたしを置いてかないでー!!」

 ほうほうのていで逃げて行く二人を、深夜子はあえて追わずに見送る。その手には南たちから抜き取った・・・・・らしいスマホや手帳などが数点。どうやら論破して拘束するが面倒なので、これが狙いだったようである。

 さらに何やら車からゴソゴソとある物を取りだし、満足そうな笑みを浮かべた。
「ふひっ、カノンのハイパーショットWX80HG! 欲しかった。ま、悪いことに使われるよりいい……よね?」
 そのカメラ、欲しかったんですね。

 いい訳がましいが、確かに盗撮に使われるのよりは良いのかも知れない。カメラをあれこれと触りつつ、ご機嫌で帰路につく深夜子であった。

「ふへへ。これでいっぱい朝日君、撮ろっ!!」

 使用用途変わらずッ!!
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