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第六章 おいでよ!男性保護省の巻
第五十八話 梅ちゃんとデートします
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――暦は十一月下旬、五月雨家の訪問を終えてから約二ヶ月が過ぎようとしていた。
五月雨家への滞在で新月が残した影響は大きく、朝日の常識との違いに対する深夜子ら三人の対応もずいぶんと変わった。この二ヶ月で距離感はさらに縮んだと思える。その分、後戻りできないであろう『美少年と理想の甘い生活』っぷりはより加速し、すでにこの警護任務の成否は三人にとって『生か死か』と呼べるものにはなっている。うん、頑張れ。
さて話を進めよう。日本であればそろそろ師走――年末年始へ向けてあわただしくなる季節である。十二月の日本と言えば、クルシミ――クリスマスと呼ばれる地球上で最も趣旨を履き違えてしまった性なるイベントがあるが、この世界には存在しない。
十二月二十四日、二十五日は平日である。大切なことなので二度言うが、ただの平日である。
……それはともかく、それではこの世界における年末年始はどんな物なのかを簡単に説明しよう。この世界には『国納め、国始め』と呼ばれる日本の大晦日、お正月にあたる行事がある。
特に日本よりもさらに新年を祝う傾向が強く、『国納め』十二月中旬から大晦日にあたる国納めの日までは、一年の疲れを癒す意味で学校や会社の大多数が休みに入る。
そして年明けの『国始め』はいわゆる正月三が日を盛大に祝い、国を上げての祭りが三日間続く一大イベントだ。さらにその三が日以降も一月中はあれこれと精力的な行事が連発となっている。
――と、年末年始の違いを話題に現在朝日家は夕食の真っ最中だ。本日のメニューはトンカツにエビフライ、小鉢はキムチとひじきの煮物、それと油あげに豆腐とネギのみそ汁となっている。無論すべて朝日の手作りである。保護男性の警護任務中……のはずだが、傍目には美少年に餌付けされた社会人女性が三人いるだけにしか見えない。
そんな中、ふと朝日が何かを思ったらしく話題を変える。
「あっ、そうだ。あの、来週だけど梅ちゃんとお泊まりデートして来まーす!」
「へぶぼはああああああっ!!」
突発的な朝日の宣言に梅の口から咀嚼中のご飯とキムチが豪快に吹き出される。もちろん向かい正面は――。
「いやああああっ! ごは――キ、キムチ!? ちょっ、しみっ――め、目があああああああ!!」
五月である。
「うぇっほ……げっほ……うおおおおい!? 朝日、てめえ突然なんてこと言いやがる!」
「え? だって来週デートの約束したでしょ」
「うっ……あれは、その、あれだ」
何やら身に覚えがあるらしい梅がしどろもどろになっているところに、洗面所で顔を洗い終えた五月が凄まじい勢いで戻ってくる。
「おおおおおおお泊まりデート!? ちょーーーっと大和さん!? 聞き捨てなりませんわよ。いったいどういうことですの? ハッ、まさか……まさか貴女、朝日様に何か!?」
「ちっ、違えよ。そうじゃ無くてだな――」
「あはは、ごめんなさい五月さん冗談ですよ。ちゃんと理由が――あれ? 深夜子さん?」
無反応かと思えば箸と茶碗を手に持ったまま、その猛禽類のような目を大きく見開いて深夜子が固まっている。そして、その目は恐ろしく虚ろで焦点があっていない。さらに口元からは聞き取れないくらいの小声で何か呟きが漏れている。
「…………君」
「えっ? 深夜子さ――ひっ!?」
突然、座っていたダイニングテーブルから瞬間移動したかのようなスピードで朝日の前へと駆け寄りハラハラと涙を流し始めた。これは怖い。
「くっ……可哀想な朝日君。梅ちゃんに人に言えないような弱みを握られたんだね? そしてお泊りの時にあーんなことや、こーんなことをさせる約束……しちゃったんだね。おのれ羨ましい、いや恨めしい」
「は? え? 深夜子さん何を――」
「梅ちゃん……ゆ゛る゛せ゛ん゛!!」
「アホかぁ! どんな想像力してやがんだてめえっ!?」
そう言うや空中で深夜子と梅の飛び蹴りが激突! そのまま交差してから着地する。お互いが向かいあった瞬間に深夜子はジャージ、梅は綿パンの蹴り足側がちぎれ飛ぶ。
「ふっ……庭へ行こう。久しぶりに……きれてしまった」
「へっ、ちょうどいいじゃねえか……養成学校時代の決着――つけてやんぜ!!」
「ちょっと!? 深夜子さん! 梅ちゃん!」
そう言って庭へと出て行く二人を心配して焦る朝日の肩に五月が手を添える。
「はいはい朝日様。お二人は放っておいて理由をお話しいただけますか?」
「えええ? さ、五月さん? 二人を止めないと!」
「大丈夫ですわ。食事も途中ですから、お腹が減ったら戻ってきますわよ」
「そうなんだ……」
五月に促されダイニングテーブルへ戻るも、庭からは深夜子と梅の口喧嘩の声と激しい激突音が響いてくる。しかし、五月の言った通りしばらくすると何事も無かったかのように戻ってきて、もくもくと食事を再開するお互いボロボロの深夜子と梅であった――。
「「社会見学ぅ!?」」
食事の後、リビングにて朝日の説明が終わったところで深夜子と五月が口を揃える。
「うん。深夜子さんたちってさ、月に一回本部に行ってるでしょ? 僕、一度ついて行って見たかったんだよね」
「朝日君。なんで梅ちゃんと?」
「それにわざわざMaps本部を見学されるなんて……」
「僕さ、朝のジョギング以外で梅ちゃんと二人で出かけたことって無いでしょ。だからちょうどいいと思って」
実は深夜子と五月は以前のデート以降も何回かは非番の時に誘ったり、誘われたりで朝日と二人のお出かけを目ざとくゲットしていた。
しかし梅は奥手な性格が災いして、恥ずかしさから朝日を誘うことができなかった。さらに朝日からの誘いも変な強がりで断ってしまい、ことごとくチャンスを潰している。そもそも毎朝の二人でジョギングと言う圧倒的アドバンテージを活かせていない時点でお察しである。
ただ梅も内心は朝日とデートしたく無いはずがない。むしろしたい。そんなわけで最近になって、ある日のジョギング中にやっと話を切り出したのだ。
『あのよ、朝日』
『どしたの?』
『いや、その、今度暇だったらよ。たまには深夜子ら抜きつーか、あいつらも最近はたまに非番の時につーかよ……その……』
『んー、えっと……梅ちゃん。もしかしてデートに行きたいんだね?』
『ばっ!? そ、そそそそんなんじゃねえよ。俺はよ……そ、その、お前が良ければ、いっしょに遊びに行ってやっても……なんだけどよ――』
本人なりには精一杯のアピールなのだが、とにかく遠回しな上に変な強がりが入るので話が進まない。最終的には空気を読んだ朝日が、自分から梅をデートに誘う流れにした。その結果が『社会見学デート』である。
「「なるほど」」
深夜子と五月のジトッとした目線が梅に送られる。
「おいちょっと待て! なんだその目は!?」
それは最後のセリフが『ま、まあ朝日がそうしたいんならしょうがねえな! い、いいぜ。どっか行きたいとこあんなら連れてってやんぜ』ですからね。
「それで……経緯はわかりましたが大和さん。貴女、本部の許可は取れてるんですの?」
「あん? 別に朝日を連れてくだけじゃねぇか」
「なわけありませんわよね!? 定例業務の調整! 事前申請に同行理由! 男性の宿泊手続きと提出書類! 普通に大変ですわっ!!」
「そうかよ。じゃ、頼むわ五月」
ザ・マルナゲドン。
「はぁ……やれやれ仕方ありませんわね。もう大和さんったら――とでも言うと思いましたかーーっ!!」
当然怒り狂って梅に掴みかかる五月だが、ふと服の裾が引っ張られそちらへ振り返る。するとそこには上目遣いで五月を見つめる朝日の姿があった。
「ご……ごめんなさい五月さん……僕、手伝いますから」
「ふあああぁっ!? 朝日様っ!? そそそそそんな必要ありませんわ。朝日様は何もっ、何もする必要はありませんのよ!!」
「でも、大変なんでしょ?」
ここでちょっと目を潤ませるのがポイントである。あざとい。
「ああああ……あっ! そ、そうですわ。この脳筋さんに手続きなど任せては大変と言う意味ですの」
「だれが脳筋だ!? だれ――がふっ」
間髪入れずに梅の頭に五月の肘鉄が決まる。
「朝日様ご安心を、私にとっては『HBの鉛筆をぺきっと二つに折る程度』の簡単なことですわ。すぐに完了させてきますの」
そう言って梅を引きずり自室へと風のように駆けて行く五月であった。
「うーん五月、見事なチョロさ……ところで朝日君」
「え? うん。どうしたの」
「五月ママでしょ?」
「あー、やっぱわかる?」
イタズラっぽい笑みを浮かべる朝日。だが、すぐに真面目な表情に切り替えて深夜子を見つめ返す。
「でも深夜子さん……確かに五月さんのお母さんに勧められたのもあるけれど、僕なりに考えて梅ちゃんには頼んだんだ。あのね、この世界のこと……みんなの仕事とかもだけど、本当に色々知りたいと思ってるんだ……」
そう真剣に語る朝日は、五月雨家を訪れてから新月とちょこちょこ連絡を取っていた。
他愛もないメールのやり取りがほとんどだが、梅とのデートの件を話題にしたときに新月から提案があった。買い物や遊びばかりでなく、社会を見るのも良いのでは――そう勧められた。確かに安全面に関してもほぼ完璧な上に、朝日にとっては新鮮味ある社会見学となる。
「朝日君……」
そんな朝日の思いを感じとり、深夜子も納得したかのように軽く笑みを見せる。
「それに仕事の場所だけじゃなくて……(Mapsとしての)深夜子さんのことも、もっと知りたいと思ってるよ」
「ふへええっ!? あ、あたしのこと???」
そんな朝日の思いを感じとれず、すぐさま深夜子の脳内に妄想が展開される。少し言葉が足りませんでしたね。
『ふふ、朝日君。君はあたしの何が知りたいのかな?』
『そんな……僕の口から言わせないでよ……(ぽっ)』
『仕方ないなあ……じゃあ、ベッドの中でじっくりあたしの個人情報を開示しちゃおうかな♪』
『本当? じゃ、じゃあ、ここから(もそもそ)』
『やん! もう朝日君ったら……だ、い、た、ん』
『み、深夜子さん! 好きッ!!』
『あん! ダメだよ朝日君。最初はゆ、び、で、指紋認証から――』
ちょうどそこへ五月と梅が戻ってくる。
「むへっ、むへへ、むへへへへ……」
「朝日様。お待たせしましたわ――って、深夜子さん?」
「うおっ? なんか完全に妄想にひたってやがるな……」
梅が深夜子の目の前で手を振るも反応無し、どうやら素敵なお花畑に旅立っている模様だ。とりあえずは放っておいて五月がMaps本部――正式には男性保護省特務部への訪問について説明を始めた。
五月雨家への滞在で新月が残した影響は大きく、朝日の常識との違いに対する深夜子ら三人の対応もずいぶんと変わった。この二ヶ月で距離感はさらに縮んだと思える。その分、後戻りできないであろう『美少年と理想の甘い生活』っぷりはより加速し、すでにこの警護任務の成否は三人にとって『生か死か』と呼べるものにはなっている。うん、頑張れ。
さて話を進めよう。日本であればそろそろ師走――年末年始へ向けてあわただしくなる季節である。十二月の日本と言えば、クルシミ――クリスマスと呼ばれる地球上で最も趣旨を履き違えてしまった性なるイベントがあるが、この世界には存在しない。
十二月二十四日、二十五日は平日である。大切なことなので二度言うが、ただの平日である。
……それはともかく、それではこの世界における年末年始はどんな物なのかを簡単に説明しよう。この世界には『国納め、国始め』と呼ばれる日本の大晦日、お正月にあたる行事がある。
特に日本よりもさらに新年を祝う傾向が強く、『国納め』十二月中旬から大晦日にあたる国納めの日までは、一年の疲れを癒す意味で学校や会社の大多数が休みに入る。
そして年明けの『国始め』はいわゆる正月三が日を盛大に祝い、国を上げての祭りが三日間続く一大イベントだ。さらにその三が日以降も一月中はあれこれと精力的な行事が連発となっている。
――と、年末年始の違いを話題に現在朝日家は夕食の真っ最中だ。本日のメニューはトンカツにエビフライ、小鉢はキムチとひじきの煮物、それと油あげに豆腐とネギのみそ汁となっている。無論すべて朝日の手作りである。保護男性の警護任務中……のはずだが、傍目には美少年に餌付けされた社会人女性が三人いるだけにしか見えない。
そんな中、ふと朝日が何かを思ったらしく話題を変える。
「あっ、そうだ。あの、来週だけど梅ちゃんとお泊まりデートして来まーす!」
「へぶぼはああああああっ!!」
突発的な朝日の宣言に梅の口から咀嚼中のご飯とキムチが豪快に吹き出される。もちろん向かい正面は――。
「いやああああっ! ごは――キ、キムチ!? ちょっ、しみっ――め、目があああああああ!!」
五月である。
「うぇっほ……げっほ……うおおおおい!? 朝日、てめえ突然なんてこと言いやがる!」
「え? だって来週デートの約束したでしょ」
「うっ……あれは、その、あれだ」
何やら身に覚えがあるらしい梅がしどろもどろになっているところに、洗面所で顔を洗い終えた五月が凄まじい勢いで戻ってくる。
「おおおおおおお泊まりデート!? ちょーーーっと大和さん!? 聞き捨てなりませんわよ。いったいどういうことですの? ハッ、まさか……まさか貴女、朝日様に何か!?」
「ちっ、違えよ。そうじゃ無くてだな――」
「あはは、ごめんなさい五月さん冗談ですよ。ちゃんと理由が――あれ? 深夜子さん?」
無反応かと思えば箸と茶碗を手に持ったまま、その猛禽類のような目を大きく見開いて深夜子が固まっている。そして、その目は恐ろしく虚ろで焦点があっていない。さらに口元からは聞き取れないくらいの小声で何か呟きが漏れている。
「…………君」
「えっ? 深夜子さ――ひっ!?」
突然、座っていたダイニングテーブルから瞬間移動したかのようなスピードで朝日の前へと駆け寄りハラハラと涙を流し始めた。これは怖い。
「くっ……可哀想な朝日君。梅ちゃんに人に言えないような弱みを握られたんだね? そしてお泊りの時にあーんなことや、こーんなことをさせる約束……しちゃったんだね。おのれ羨ましい、いや恨めしい」
「は? え? 深夜子さん何を――」
「梅ちゃん……ゆ゛る゛せ゛ん゛!!」
「アホかぁ! どんな想像力してやがんだてめえっ!?」
そう言うや空中で深夜子と梅の飛び蹴りが激突! そのまま交差してから着地する。お互いが向かいあった瞬間に深夜子はジャージ、梅は綿パンの蹴り足側がちぎれ飛ぶ。
「ふっ……庭へ行こう。久しぶりに……きれてしまった」
「へっ、ちょうどいいじゃねえか……養成学校時代の決着――つけてやんぜ!!」
「ちょっと!? 深夜子さん! 梅ちゃん!」
そう言って庭へと出て行く二人を心配して焦る朝日の肩に五月が手を添える。
「はいはい朝日様。お二人は放っておいて理由をお話しいただけますか?」
「えええ? さ、五月さん? 二人を止めないと!」
「大丈夫ですわ。食事も途中ですから、お腹が減ったら戻ってきますわよ」
「そうなんだ……」
五月に促されダイニングテーブルへ戻るも、庭からは深夜子と梅の口喧嘩の声と激しい激突音が響いてくる。しかし、五月の言った通りしばらくすると何事も無かったかのように戻ってきて、もくもくと食事を再開するお互いボロボロの深夜子と梅であった――。
「「社会見学ぅ!?」」
食事の後、リビングにて朝日の説明が終わったところで深夜子と五月が口を揃える。
「うん。深夜子さんたちってさ、月に一回本部に行ってるでしょ? 僕、一度ついて行って見たかったんだよね」
「朝日君。なんで梅ちゃんと?」
「それにわざわざMaps本部を見学されるなんて……」
「僕さ、朝のジョギング以外で梅ちゃんと二人で出かけたことって無いでしょ。だからちょうどいいと思って」
実は深夜子と五月は以前のデート以降も何回かは非番の時に誘ったり、誘われたりで朝日と二人のお出かけを目ざとくゲットしていた。
しかし梅は奥手な性格が災いして、恥ずかしさから朝日を誘うことができなかった。さらに朝日からの誘いも変な強がりで断ってしまい、ことごとくチャンスを潰している。そもそも毎朝の二人でジョギングと言う圧倒的アドバンテージを活かせていない時点でお察しである。
ただ梅も内心は朝日とデートしたく無いはずがない。むしろしたい。そんなわけで最近になって、ある日のジョギング中にやっと話を切り出したのだ。
『あのよ、朝日』
『どしたの?』
『いや、その、今度暇だったらよ。たまには深夜子ら抜きつーか、あいつらも最近はたまに非番の時につーかよ……その……』
『んー、えっと……梅ちゃん。もしかしてデートに行きたいんだね?』
『ばっ!? そ、そそそそんなんじゃねえよ。俺はよ……そ、その、お前が良ければ、いっしょに遊びに行ってやっても……なんだけどよ――』
本人なりには精一杯のアピールなのだが、とにかく遠回しな上に変な強がりが入るので話が進まない。最終的には空気を読んだ朝日が、自分から梅をデートに誘う流れにした。その結果が『社会見学デート』である。
「「なるほど」」
深夜子と五月のジトッとした目線が梅に送られる。
「おいちょっと待て! なんだその目は!?」
それは最後のセリフが『ま、まあ朝日がそうしたいんならしょうがねえな! い、いいぜ。どっか行きたいとこあんなら連れてってやんぜ』ですからね。
「それで……経緯はわかりましたが大和さん。貴女、本部の許可は取れてるんですの?」
「あん? 別に朝日を連れてくだけじゃねぇか」
「なわけありませんわよね!? 定例業務の調整! 事前申請に同行理由! 男性の宿泊手続きと提出書類! 普通に大変ですわっ!!」
「そうかよ。じゃ、頼むわ五月」
ザ・マルナゲドン。
「はぁ……やれやれ仕方ありませんわね。もう大和さんったら――とでも言うと思いましたかーーっ!!」
当然怒り狂って梅に掴みかかる五月だが、ふと服の裾が引っ張られそちらへ振り返る。するとそこには上目遣いで五月を見つめる朝日の姿があった。
「ご……ごめんなさい五月さん……僕、手伝いますから」
「ふあああぁっ!? 朝日様っ!? そそそそそんな必要ありませんわ。朝日様は何もっ、何もする必要はありませんのよ!!」
「でも、大変なんでしょ?」
ここでちょっと目を潤ませるのがポイントである。あざとい。
「ああああ……あっ! そ、そうですわ。この脳筋さんに手続きなど任せては大変と言う意味ですの」
「だれが脳筋だ!? だれ――がふっ」
間髪入れずに梅の頭に五月の肘鉄が決まる。
「朝日様ご安心を、私にとっては『HBの鉛筆をぺきっと二つに折る程度』の簡単なことですわ。すぐに完了させてきますの」
そう言って梅を引きずり自室へと風のように駆けて行く五月であった。
「うーん五月、見事なチョロさ……ところで朝日君」
「え? うん。どうしたの」
「五月ママでしょ?」
「あー、やっぱわかる?」
イタズラっぽい笑みを浮かべる朝日。だが、すぐに真面目な表情に切り替えて深夜子を見つめ返す。
「でも深夜子さん……確かに五月さんのお母さんに勧められたのもあるけれど、僕なりに考えて梅ちゃんには頼んだんだ。あのね、この世界のこと……みんなの仕事とかもだけど、本当に色々知りたいと思ってるんだ……」
そう真剣に語る朝日は、五月雨家を訪れてから新月とちょこちょこ連絡を取っていた。
他愛もないメールのやり取りがほとんどだが、梅とのデートの件を話題にしたときに新月から提案があった。買い物や遊びばかりでなく、社会を見るのも良いのでは――そう勧められた。確かに安全面に関してもほぼ完璧な上に、朝日にとっては新鮮味ある社会見学となる。
「朝日君……」
そんな朝日の思いを感じとり、深夜子も納得したかのように軽く笑みを見せる。
「それに仕事の場所だけじゃなくて……(Mapsとしての)深夜子さんのことも、もっと知りたいと思ってるよ」
「ふへええっ!? あ、あたしのこと???」
そんな朝日の思いを感じとれず、すぐさま深夜子の脳内に妄想が展開される。少し言葉が足りませんでしたね。
『ふふ、朝日君。君はあたしの何が知りたいのかな?』
『そんな……僕の口から言わせないでよ……(ぽっ)』
『仕方ないなあ……じゃあ、ベッドの中でじっくりあたしの個人情報を開示しちゃおうかな♪』
『本当? じゃ、じゃあ、ここから(もそもそ)』
『やん! もう朝日君ったら……だ、い、た、ん』
『み、深夜子さん! 好きッ!!』
『あん! ダメだよ朝日君。最初はゆ、び、で、指紋認証から――』
ちょうどそこへ五月と梅が戻ってくる。
「むへっ、むへへ、むへへへへ……」
「朝日様。お待たせしましたわ――って、深夜子さん?」
「うおっ? なんか完全に妄想にひたってやがるな……」
梅が深夜子の目の前で手を振るも反応無し、どうやら素敵なお花畑に旅立っている模様だ。とりあえずは放っておいて五月がMaps本部――正式には男性保護省特務部への訪問について説明を始めた。
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