そこは、私の世界でした

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26.魔法使いたちの言い分

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「なんじゃあ、こりゃあ!」
 デージーは叫んだ。無理もない、あの古風な風情の彼女の家に、覆い尽くすほどの人々……、つまり魔法使いたちが押し寄せていて、彼らはデージーが来たことに気付くと、口々に叫んだ。
「ああ、デージー!」
「大切な話がある!」
「今、大変なことが起きている!」
 デージーはためらうことなく、彼、もしくは彼女達の中へずんずん分け入って、とどろくような声で言った。
「どうしたんだ、我が仲間よ!」
 すると誰かが、皆を代表するかのように言った。
「反魔法士協会の連中が、いよいよ行動を起こしたんだ! このままだと魔法が使えなくなりそうだ」
 続いて誰かが叫ぶ。
「ミラクルな力を生み出しているパワースポットをすべて破壊すると宣言した……!」
 デージーは彼らを落ち着かせるように、大きく頷きながら言った。
「反魔法士協会。魔法は悪であると論じて、民衆に叫んでいる連中だね。魔法をこの世界からなくすことを最終目的にし、異常な速さで林波の世界で勢力を伸ばしてきた―。確かに、私達の不思議な力の源こそパワースポットなのだから……、どうしたものか」
「デージー」
 埋め尽くされた人々の中から、やたら背が高く、ほっそりとした、この場に似合わぬ冷静さを備えた中年男性が、進み出てきて声を掛けた。
「アルク。久し振りじゃないか」
 デージーは少し嬉しそうに彼に答えた。アルクと呼ばれた人は静かに頷き、全員が見守る中、語り出した。
「魔法は、林波の世界の大切な構成要素の一つだ。そのことを反魔法士協会の連中は理解しようとしない。魔法が消えた時が、この世界の終わりの時でもある。この世界はいつしか、自滅の道へ進み始めているようだ―」
「そんなの嫌です! 私の世界を終わらせないでください!」
 思わず私は大声で叫んでいた。すると魔法使いたちはきょとんとして、全員が私に注目した。デージーは少し考えて、様子を窺いながら、告白をした。
「彼女が林波さ」
 すると人々は、しばし呆気にとられた後、ざわざわとざわめきだし、首を伸ばして無遠慮に私を見ようとした。アルクは優しげな眼差しで私を眺めてから、囁くように言った。
「あなたが、林波でしたか」
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