おとぎの世界で

桃青

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別れ

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「ごめんなさい、怖がらせて。ここに私がいちゃいけないんだね。やっぱり私、帰ろう……」
「逃げるの? あなた、また母さんから逃げようとしているの? そうやって責任逃れをする。苦しんでいる私達に、稼いだお金でも渡したらどうなの。ほんっとに、何の役にも立たない役立たずね」
「―どうしてそんなに、私が嫌いなの」
「そんなことも分からないの」
「うん」
「それはね、あなたが、私と父さんを、否定した、からでしょ? 拒絶したのは私達ではなく、あなたで、あなたの方が悪いの。ねぇ、父さん」
「ああ」
「お母さんと、お父さんが、私を否定したのではなく? 」
「逆よ。あなたが認めなかったから、私はボロボロになった。父さんもそうよね? 」
「ああ」
「―父さんと母さんに言いたいのは、あなたたちに間違いはないの? 」
「苦しみを生み出し、私たちに与えたあなたの方が悪で、間違っているに決まっているじゃない。
 全て。―全てが、あなたの作り出した産物よ! 恐ろしいわ」
「もう、……私にできることはないの」
「私が正しかったはずなの。でも、あなたが否定したとき、何かが壊れてしまった。もう元には戻れない。泣いても、あがいても、この苦しい気持ちから逃れる術はない」
「元に戻れないという現実を受け入れて、そこから再出発したら、新しい何かが始まるかもしれないよ」
「なぜ? なぜ私がそんなことをしなければならないの? 罪深いあなたが、この世でのうのうと生きて、何もしていない私が苦しむなんて。そこが一番おかしな所よ」
「父さんも母さんも、変われば、幸せになれるかも」
「分かっていないのね。変われないの。分かり切ったことを言わないで頂戴」
「変わらないと」
「ああ、しつこいわね。変わりたくないのよ! 何もかも、遅すぎたの! 」
「私、父さんと母さんの力になりたいと思っている。 それは忘れないで」
「あなたの力が、私達にとって一番恐ろしいものよ。ねえ、父さん」
「ああ」
「……あと、もし良かったら、この黄色い葉っぱを口に含んでみて。いいことが起こるかもしれない」
「あなたが起こすことは毒。何もかもが、毒」
「なら、私は帰るね。お父さんは元気? 」
「父さんは、もう元気な時なんてないよ」
「分かった。さよなら」
 私はそう言って椅子から立ち上がると、父と母の顔を見ないようにしながら、両親の家から出ていきました。
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