おとぎの世界で

桃青

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パーティ開始

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「私、賢者の皆を呼んでくるわ! トイさんはここにいる者たちの、話し合いの手助けをして! 」
「分かった」
 私とクレアはそう言い合うと、頷き合ってから、行動を開始しました。リビングでは食事を求める者たちの波ができており、私もその波に飲まれて流されていくと、シュリが下僕の者たちと一緒になって、様々な軽食の乗った皿を配っているのが見え、私は手を上げつつ彼女に声を掛けました。
「シュリ! 」
「あら、トイ。どうしましたか」
「どうしたも何も、私にもできること、何かない? 」
 人に押されながら何とかそう言うと、シュリはにっこりと笑って答えました。
「トイもおなかが空いたでしょう。さあ、食べて。そして皆と語り合ってください」
「そんな呑気なことをしていていいの? 」
「呑気ではありませんよ。腹を満たす、皆と交流する、どちらも素晴らしいことです」
「まあ、そうだけれど」
「トイには人を悟らせる力があります。ぜひ、今ここで、その力を発揮してください。シュリが一番望んでいるのは、そのことです」
「分かった。なら、とりあえずお料理を頂く。あと飲み物も」
「どうぞ、好きなものを選んで」
 私は人混みの中から必死に手を伸ばし、手近にあった料理の皿と、飲み物の入ったコップを手に取ると、どうにか人混みを脱出して、落ち着ける場所へ辿り着きました。窓辺へ行って、素敵な料理を口に運びながら、ただただ黒い窓の外を眺め、そっと皆の様子を窺うと、あちらこちらに大なり小なりのグループができていて、皆が熱くなって思いの丈をぶちまけていました。飲み物を飲みつつ、最初はぼんやりとそんな光景を眺めていましたが、どんなことを話しているのか次第に気になってきて、近くにいるグループに、顔を突っ込んでみました。
「私は気分が落ち込むことが多かったの。だからシュリ様に会いに来たのよ」
 パサパサの髪をした、おかっぱ頭の若い女性が、目を見開いてそう言っています。青空のように美しいブルーのドラゴンが、続いて言いました。
「私も少し似ているな。ドラゴンは基本、激しかったり、陽気な質だったりするものなのだが、いつからか、そうなれなくなっている自分に気付いたんだ」
 実に平凡な印象のおじさんが、ぽつりと言います。
「私は単純に、お金に困っていますよ。お金がないっていうのは、心が不安定になる一因さね」
 私はここで、会話に加わりました。
「なら皆さんは、葉っぱを食べたとき、どんな気持ちになりましたか? 」
 三人は揃って私を見ましたが、皆湧き上がる思いを抑えきれず、堰を切ったように話し出しました。
「不思議な力を持つという、あの葉を食べるときは不安だったわ。私が変えられちゃうような気がして。でもね、それが―。
 とっても、とっても、幸せだったの! 」
 女性の後を継いで、ドラゴンも言いました。「幸せ……。確かにあれは幸せだ。本当の幸福だ」
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