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14.テレフォン
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オキヨは大事そうにドーナツを持って、家へ向かった。帰る間、彼女の脳裏に浮かんでいたのは、俊でも、食べ物のことでもなく、何故かナツとマリアの存在だった。あの二人に会いたい。そうすれば、私のカオスの中から何かが誕生する気がする。それが聖剣だか、聖杯だか、知らないけれど、きっと私を導いてくれるはずだわ。心がそう叫んでいる。
オキヨにとって、あの二人と過ごす時間は、本来の自分を取り戻す時間だった。たった今、そのことをひらめき、気付いてしまったのだ。
本当の私は何を求めているのか。今はそのことを知りたい。
マンションに着いて、中へ入り、エレベーターで五階に着くと、一直線に自分の部屋へ向かい、ドアを開けた。我ながらセンスのいい部屋だわ、そう思いつつ、手洗いとうがいを済ませ、楽な格好に着替えると、冷蔵庫に向かい、ノンアルコールのビールを開ける。それからドーナツをきれいにお皿に盛りつけ、テーブルにビールとドーナツを運ぶと、オキヨはふふっと笑ってから、スマホを取りにいった。ソファーにどさっと音を立てて座り、ちょっと考えてから、マリアに電話を掛ける。数秒の間、ときめいた気持ちで待っていると、マリアの声が聞こえた。
「オキヨ? 」
「そう。今ちょっといいかしら」
「いいわよ。今、ホストクラブへ向かっている所なの。だからあんまり長く話せないけれど」
「そうなの。それは残念だわ」
オキヨの落胆した気持ちを察したらしく、マリアはさっとこんな提案をした。
「オキヨ、実は私ね、新しい服を買いたいと思っていた所なの」
「そう。いいわね」
「でね、オキヨの店で買いたいと思っていて」
「ええ、本当? それは感動的に嬉しいことだわ」
「オキヨのセンスで見繕ってほしいの。で。ナツも誘おうと思っているのだけど……。近いうち、ナツの仕事が休みの日に合わせて行くわよ」
「二人で来てくれるのね。しかも近いうちに」
「まだ本決まりじゃないわ。だから、もし良ければ、オキヨからこの話を、ナツに打診してみてくれない? 」
「ええ、分かった。ナツに電話してみるわ」
「今の時間なら家にいると思うわよ。あの子、仕事が終わったら、真っ直ぐ家へ帰ってくるものね」
「なら、また、マリア。楽しんでね、ホストとの時を」
「知っていた? ホスト遊びは幻想との戦いよ。では、また」
そこで電話を切ると、ちょっと考えて、ドーナツを一つ食べてから、今度はナツに電話を掛けた。
「オキヨ? オキヨさんですか? 」
「そうよ、ナツ。ちょっといい? 」
「いいですよ~。どうぞ、何でも言っちゃってください」
「近日中に、マリアが私の店へ、洋服を買いに来てくれるそうなの」
「えっ、いいなあ。私も秋服欲しいです」
「で、マリアがナツを誘いたいと言っていて」
「えっ、本当? 何でそのことを、マリアさんではなく、オキヨさんが私に言うんですか? 」
「それは、彼女が今、ホストと忙しくしていて……、とにかく、ナツは私の店に来る? 」
「行きます、行きます。仕事が休みの日なら、オッケーです。喜んで」
「なら、細かいことは、マリアと決めてくれるかしら」
「分かりました。ええ~、楽しみ! じゃ、お邪魔します」
「待っているわ」
そこでプツッと電話を切ると、オキヨは微笑んで、ドーナツをもう一つ食べた。マリアとナツと過ごす時間は、俊とでは満たされない何かがある。それは自分にとっても、女としても、大切な何かだ。改めてそう思い、さらにドーナツをもう一つ食べた。
オキヨにとって、あの二人と過ごす時間は、本来の自分を取り戻す時間だった。たった今、そのことをひらめき、気付いてしまったのだ。
本当の私は何を求めているのか。今はそのことを知りたい。
マンションに着いて、中へ入り、エレベーターで五階に着くと、一直線に自分の部屋へ向かい、ドアを開けた。我ながらセンスのいい部屋だわ、そう思いつつ、手洗いとうがいを済ませ、楽な格好に着替えると、冷蔵庫に向かい、ノンアルコールのビールを開ける。それからドーナツをきれいにお皿に盛りつけ、テーブルにビールとドーナツを運ぶと、オキヨはふふっと笑ってから、スマホを取りにいった。ソファーにどさっと音を立てて座り、ちょっと考えてから、マリアに電話を掛ける。数秒の間、ときめいた気持ちで待っていると、マリアの声が聞こえた。
「オキヨ? 」
「そう。今ちょっといいかしら」
「いいわよ。今、ホストクラブへ向かっている所なの。だからあんまり長く話せないけれど」
「そうなの。それは残念だわ」
オキヨの落胆した気持ちを察したらしく、マリアはさっとこんな提案をした。
「オキヨ、実は私ね、新しい服を買いたいと思っていた所なの」
「そう。いいわね」
「でね、オキヨの店で買いたいと思っていて」
「ええ、本当? それは感動的に嬉しいことだわ」
「オキヨのセンスで見繕ってほしいの。で。ナツも誘おうと思っているのだけど……。近いうち、ナツの仕事が休みの日に合わせて行くわよ」
「二人で来てくれるのね。しかも近いうちに」
「まだ本決まりじゃないわ。だから、もし良ければ、オキヨからこの話を、ナツに打診してみてくれない? 」
「ええ、分かった。ナツに電話してみるわ」
「今の時間なら家にいると思うわよ。あの子、仕事が終わったら、真っ直ぐ家へ帰ってくるものね」
「なら、また、マリア。楽しんでね、ホストとの時を」
「知っていた? ホスト遊びは幻想との戦いよ。では、また」
そこで電話を切ると、ちょっと考えて、ドーナツを一つ食べてから、今度はナツに電話を掛けた。
「オキヨ? オキヨさんですか? 」
「そうよ、ナツ。ちょっといい? 」
「いいですよ~。どうぞ、何でも言っちゃってください」
「近日中に、マリアが私の店へ、洋服を買いに来てくれるそうなの」
「えっ、いいなあ。私も秋服欲しいです」
「で、マリアがナツを誘いたいと言っていて」
「えっ、本当? 何でそのことを、マリアさんではなく、オキヨさんが私に言うんですか? 」
「それは、彼女が今、ホストと忙しくしていて……、とにかく、ナツは私の店に来る? 」
「行きます、行きます。仕事が休みの日なら、オッケーです。喜んで」
「なら、細かいことは、マリアと決めてくれるかしら」
「分かりました。ええ~、楽しみ! じゃ、お邪魔します」
「待っているわ」
そこでプツッと電話を切ると、オキヨは微笑んで、ドーナツをもう一つ食べた。マリアとナツと過ごす時間は、俊とでは満たされない何かがある。それは自分にとっても、女としても、大切な何かだ。改めてそう思い、さらにドーナツをもう一つ食べた。
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