金サン!

桃青

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24.進化

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 第一回のファンミーティングは成功しました。が、金サンのファンによって作られたラインのグループは、それから独自な組織へと、次第に進化していきました。私はメインの存在ではないけれど、ラインで軽く、ファンの人達の相談に答えたりすることもあり、それがきっかけで、その後本格的な占いをするために、私の占い部屋を訪れてくれるという、有難いパターンが増えたりもしました。
 さらに、みんなで相談を共有することで、新たな相談が生まれたり、またはファンの人達で支え合って、新たな解決策を導き出すと言ったことも、頻繁に起こるようになっていき―。私達のネットワークは、より強化されていったのです。

 一方、はじめさんともメールでやり取りするようになり、私は彼について、あくまで文章上だけれども、少しずつ知っていくことになりました。たまに電話が掛かってくることもあって、そんなとき、彼の声を聞くとホッとしてしまう―。その話を金サンにすると、彼は流し目で私をじいっと見るのです。いかにも、僕はちゃんと分かっているんだからね、と言いたそうでした。

 そんなある日の夜、私と金サンがみすぼらしいテーブルについて、質素な遅い夕食をとっている所へ、電話が掛かってきました。
「はい」
「サエさんか? 三条はじめだが―」
「あ、はい。どうされましたか?」
「どうかしないと、電話を掛けちゃいかんのか」
「そんなことはありません」
「今度、あなたと、デートをしたい」
「はあ」
「……。イヤか?」
「いえ、そんなことは。ただ唐突だなあ、と思って。少し驚いています」
「そうか。ではどこへ行きたい?」
「私が、決めるんですか? じゃあ、そうだな、自然があるところがいいな」
「山登りとか?」
「そんな大げさなものでなくって、例えば緑の多い公園へ行くとか」
「そんなことでいいのか」
「ええ。公園でピクニックをするとか、楽しそうだと思いますが」
「では○月△日に、××駅に、午後1時に……。この日程だと、サエさんの都合はどうだ? 」
「その日は午後の仕事はお休みにします。自営業なので、休もうと思えばいつでも休めますから」
「そこは私も似たようなものだ。ではこれでよいな?」
「ええ」
「また会おう!」
 そこで電話はブツッと切れました。まん丸の目で私を見ていた金サンは、私に問い質してきました。
「三条はじめから?」
「そう」
「なんて言っているの?」
「そうね、デートのお誘いみたい。あんまりロマンティックな感じではなかったけれど」
「ロマンティックって何なの」
「甘い夢みたいなものよ」
「そんなものより、はじめさんとがっちり結びつくことが、サエにとっては大事なんだよ」
「人と人との繋がりを―」
「そうそう、それが大事」
「……。私もそうだけれど、この、はじめさんも、何か孤独そうな人よね。そんな気がする」
「ネコもベースは独り者なんだ。そうできている」
「ネコはそれで生きていけるから、特に問題はないのよ。とりあえず行ってくるわ」
「そうして」
 私の胸の中では、様々な思いが去来していきました。私は占いで、多くの恋愛相談に乗ってきたはずなのに、自分の恋愛のこととなると、案外何も分からないものだな、と実感しました。きっと理解するためには、体験するしかないのです。はじめさんとの関係が、恋の夢から現実へ、移行し始めました。

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