りぷれい

桃青

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27.

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「でもなんだか懐かしい。お母さんの子供のころはね、こんな感じで、姉妹三人でお風呂に入っていたの」
「ふーん」
「それを思い出すわ」
「お母さんは多分、子供のころ幸せだったんだね」
「道子はそうじゃなかったの?」
「幸せだったよ。でも……。子供から大人になろうとしたとき、その思い出に苦しめられたな」
「幸せだったのに?」
「本当の幸いを知らずに育ったからね。大人になろうとしたときに、本当の幸せの見つけ方が、全く分からずにいた」
「……。お母さんの、せいなの?」
「多少はね。でも、お母さんにはどうすることもできなかったと思うよ。これは、自分自身で考えて、理解するしかなかった」
「大変だった?」
「かなり、ね。もしかしたら一生答えが出せないかもしれないと、絶望的になったりもして」
「今は答えを見つけたの?」
「う……ん。見つけたというよりも、慣れた」
「お母さん、意味が分からないんだけど」
「そのままが、ありのままの自分でいることが、幸せなんだと分かったとき、そのことを理屈で理解しても、脳や体が納得してくれないんだ。それじゃあ、幸せな気持ちにはなれない。あとはじんわりと、自分が新たに気付いた思考に慣れるのを、待つしかなくて。心や体に染み込んで、これが幸せかもなって思えるようになったのは、つい最近のことだよ。
 結局十年以上の歳月を費やしたことになる」
「そう。苦しんだのね、道子は」
「……うん」
「お母さんはね、あなたには普通の人生を歩んでもらいたかったの」
「普通って何」
「それは、結婚したり、子供を持ったり、新しい家庭を持ったり、そういう平凡な自立をしてもらいたかったの。でもあなたって、そういうことに逆らうことばかりして」
「自分の自立に必死だったから、結婚とか子供とか、他人を受け入れる余裕なんてなかったと思う。逆らったんじゃなくて、無理だったの」
「何でこうなっちゃったのかしらって、どれほど悔やんだか」
「お母さんも苦しんでいたってこと?」
「苦しいっていうか、道子に嫌われたのね、って思っていたわ」
「……?」
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