空想トーク

桃青

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8.

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 そうなのです。
 僕と、僕と空想トークを試した女の子の空想世界は、ある意味において共通しています。
 それは想像上の異性に、サンクチュアリを求めている・・・。
 つまり言い方を変えるなら、僕らはそうする事によって、厳しい世間からの避難場所を、どうにか見出しているのです。

 実際には僕達を優しく慰めて、世俗という世間の荒波の攻撃から、守ってくれる異性なんてものは、存在しない。
 でも僕らが作り上げた夢の中では、彼、もしくは彼女は、誰にも理解されない僕らの孤独な心を、唯一分かってくれる存在なのです。

 世間からの孤独に悩む僕からすると、そう言う存在を僕がどれほど求めているのか、言葉では言い尽くす事ができません。
 でも夢の中の異性だったら、何も言わずに僕を認めてくれる。・・・そしてそっと優しく抱き寄せてくれる。

 その温もり。

 心理学者のユングだったら、僕らの空想の中に、元型なるものを見出すのかもしれませんね。そして僕達が心から求めているものを、やや神秘的な手法で探り当てるかもしれませんが・・・。
 まあ、とりあえずその話は、ひとまず置いておき、僕は女の子と自分の空想をためすがめつ考えた時、あることに思い当たりました。

 ―それは、僕達が2人とも、夢の中の異性を本当は・・・。
 愛してなんかいない、という事実です。

 僕達は自分勝手に、自分にとって完全に都合のいい異性という存在を、やや強引なエゴイズムで頭の中に生み出しました。
 そして結局は彼らを、ただの現実からの逃げ道として、利用しているだけなのです。
 だからこれは、決して『愛』と呼ぶことはできないと・・・。
 僕はそう思います。

 きっと僕と彼女の愛のカタチは、様々な理由で歪み、本来あるべき姿を見失ってしまったのではないだろうか?

 素直に愛を受け入れる。

 そうするためにはあまりにも、僕らは人間不信に陥りすぎているのかもしれません。
 
人を信じる。・・・人を信じる。
それはとても大切な事です。

 ではどうしたら僕は捻くれずに、心の底から人を信じる事ができるようになるのでしょうか?
 そう、きっと僕らは今こそ、元ある健全な思考を取り戻さなくてはならないのです。
 … … …
 僕はひとつ深い溜め息を吐くと、自分で思いついて編み出した空想トークについて、思いを馳せました。
(現実を、誰しも変える事はできない。結局変わる事ができるのは、自分自身だけなんだ。
 自分を自分の力で変えた時にだけ、僕らの前に、新しい世界を開く事ができる―。
 
今まで半信半疑だったけれど、頭の中で繰り広げられる空想を、他のものに置き換える事で、僕らの思考すら変えていく事ができる・・・、という僕の考えは、もしかすると正しいのかもしれないぞ。

 例えば、あの女の子の場合だったら、冷たい男性像を、人間的に温かい男性像に置き換えれば、人を恐れなくても済むようになるかもしれない。
 そうする事で、人間とは冷たくて捻くれたものではなく、温かくて正直なものだと思いを新たにし、心の底から信頼出来るようになれたら、きっと・・・。
 あの子の問題は解決する。

 そう、そしてそれはきっと僕の場合にだって、当て嵌まるのじゃないだろうか・・・?)
 僕はしばらく冷静に、そんな僕の思考を反芻していましたが、僕はたぶん間違っていない、と最終的に結論づける事にしました。
 そして次の女の子との面談で、実際にこの方法を試してみようという決意を、僕はみっしりと固めていったのです。
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