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桃青

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42.疑似

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 桜のトンネルでできた道を歩きながら、敵対してきた人の隣を歩くこの妙な状況に、違和感を覚えつつも、決して嫌ではなかった。それは深い部分で何か通じるものがあったからだと思う。白井の表情のベースが無表情であることに、ふと気付いた。感じないのではなく、反応の仕方がよく分からないでいる、そんな感じ。彼は言った。
「僕を好きになってくれる女の子は、それなりにいたんだ」
「そうなの。お金目当てじゃなくて? 」
「お金目当てもあったかもしれないけれど、トータルで僕を好きってことだろ? お金だって、僕の才能の一つだし」
「私は恋愛が苦手だな」
「モテないの? 」
「好きになる人には相手にされないし、好きになってくれる人は、深い関係になっていくと、いつも私から離れていく。恋人じゃないけれど、私と長く付き合えた男の人って、雄大君ぐらいよ。きっと私の何かが、人間として奇妙なんだろうね」
「僕はどんな女性でも、すぐ相手に飽きる」
「体目的だからじゃないの」
「……女の子って、大概つまらないだろ。愚痴るし、弱い所もあって、その上何を言っているか、あまり分からないし。気を遣うし、そこまでして僕にメリットがあるのかというと、そうでもないし」
「気付いているかどうか分からないけれど、かなりクズ男の発言をしているよ。あなたに優しさはないの? 」
「優しさじゃなくて、僕は親切なんだ。お金に困っている人達に、施しだってしてきた」
「そう。信号を渡ったら、商店街だからね」
 私と白井はそんなことを言い合いながら、青になった信号を渡って、商店街の中を歩き始めた。白井は冷めた目で商品を眺めていたが、私を窺うような視線を送ってきたので、私は言った。
「まずズボンを買いましょう。細身のチノパンツなんてどう? 」
「言い忘れていたけれど、僕、あんまりファッションに興味ない」
「じゃ、つまらない女の言い分に、折れて付き合うと思って。そこの洋服屋に入ろうよ」
「うん」
 それからしばらくして、店から出てきた白井は、紙袋を片手に持ち、カーキのチノパンを穿いていた。彼の後に続いた私は、その後ろ姿に満足して言った。
「手始めはこれでよし。少しカジュアルになったでしょう」
「ま、動きやすくて、楽なズボンだね。嫌ではないよ」
「あと……。カーディガンとロンTが必要ね。次の店へ行こう」
 そうやってあちこちの店へ出入りして、私は彼の新しいコーデを完成させた。カーキのチノパンはミリタリー感が出ており、定番の白のロンTではなく、しゃれてチャコールグレーのロンTを合わせた。そこに紫と明るいグレーでアーガイル柄が作られた、カーディガンを合わせる。性格は固いが、ラフな雰囲気もある、個性的かつ素敵なメンズコーデの完成だ。
 店から出てきて、刷新された彼の姿を眺めてから一言、私は言った。
「グッドルッキング」
「そう? 」
「あと髪型がラフになったら、なおグッド」
「それはまあ、考えとく。……。あのさ」
「何」
「ありがとう」
「何が? 」
「君の鈍感さは病気レベルだよ。言わないと分からないのか。少し、楽しかったんだ」
「そんなの、お礼を言うようなことじゃないよ」
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