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桃青

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46.愚者

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(私は世界のハーモニーを読んで、それを整えることができるのだけども)
(ならば、自分自身を調和させることだってできるはずだ)
(でも、今は私を変化させたくない。なぜなら、白井と対決する必要があるから)
(でも己の調和について、そろそろちゃんと知っておく必要がある気がする)
 その時雄大君の声が、私の思索を邪魔した。
「午前中だけサロン・インディゴを休みにしてまでやりたいことって、何なんですか? 」
「とりあえず、目的地まで行って」
「〇〇森林公園ですよね。水希さんのお父さんが働いているっていう」
「初めて雄大君に言うけれど、私、父とは血が繋がっていないの。その上育ての母は、私が小さい時に亡くなったから、薄っすらとしか記憶になくて」
「ふーん。でもお父さんに会いに行くってことは、仲は悪くないんでしょう」
「うん。『困った時は父さんに相談』が、私の中の指針の一つでもある」
「血の繋がりとか、そういうの、気にしなくてもいいと思うんですよ、俺は。だって血が繋がっていても、どうしようもなく仲の悪い親子って、山のようにいますよね。仲間でいてくれるなら、その人が誰であれ、家族みたいなもんです。俺はそう思います」
「……。雄大君がいつもポジティブでいられる理由って、何なのかな」
「それは……。俺とか、水希さんとか、『普通』ではないじゃないですか」
「そうね」
「社会的に考えるなら、否定されるべき存在なんですよ。つまりネガティブな才能を持つ俺は、『超ポジティブ』になんなきゃ、生きていけないじゃないですか」
「超ポジティブって、何」
「ネガティブだからこそ見えるものもあるっていう、ネガだから分かることを、褒め称える感じです」
「ポジティブ、OK。じゃなくて、ネガティブだからこそ凄いんだよねと考える、ある意味反骨精神」
「―そうやって世界を見たら、変な自分だけじゃなく、全てのものがOKになります。全許容のマインドの完成です」
「雄大君、私、とてもいいことを聞いた気がする」
「そうですか? 森林公園ももうすぐですよ」
 私と雄大君を乗せた車はすでに、林や畑の多い地域を走っていた。そんな自然の景色を眺めながら、もしかしたら雄大君は、とてつもない努力をした人なのかもしれないと、そんなことをぼんやり考えていた。
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