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桃青

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52.不可侵な異常

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「あっ、サロン・インディゴの方達ですか? 」
「そうですけれど。依頼主の桂さん? 」
 雄大君の言葉に大きく頷いて、相手は言った。
「そうです。すみません、わざわざ来ていただいて。どうぞ、こちらへ」
「はい。水希さん、行きましょう」
「そうね」
 私達が導かれた部屋に入ると、組み立て式の机とパイプ椅子が、乱雑に何脚か広げられていた。勧められるままにその内の一つに座ると、桂さんも着座して、私と雄大君を驚いたような目で眺めてから言った。
「お二人ともお若いですね。びっくりしました。もっと年上の方かと……」
「仕事はちゃんとやらせて頂きますので、ご安心を。では、具体的に悩みについて、話して頂けますか」
 私の言葉に桂さんは答えた。
「ええ。私は今年、町内会の監事になったのですが、色々なことが起きていまして。特にここ一か月は、子供の不登校が増えています。親御さんに話を聞くと、どこが悪いわけでもないのに、学校に通うことができないそうです。それでよく考えてみると、その、今年に入って起きた問題というのが、全て子供に関係しているという共通性に気付きまして。これは何かが変だな、と」
 雄大君は言った。
「心を病む人が増えていると伺っていましたが、それは」
「ええ。まずお子さんがおかしくなって、その後親御さんもおかしくなるというパターンなんです。それで町全体が病んでいるという感じ。正直この現状が怖いです」
「おかしなこと、異常なことを、できる限り話して頂けませんか? 」
 私が言うと、桂さんが頷いて言う。
「体的に問題が起きている人が増えているわけではありません。皆心がおかしいんです。私達の町内は、何というか、比較的仲が良かったのですが、その関係性がボロボロと壊れていっています。うまく伝わるか分かりませんが、交際が見えない力で疎遠になっている感じで。
 その影響を一番受けているのが、子供達です。大人の付き合いが減り、子供も自由を奪われ……。目に見えないことなので、表現するのが難しいですね。つまり、おかしな状態を最も感受性の強い存在である子供が、受けている感じです。そう、ここは確かに何かがおかしいんだ」
 どこか影のある表情の桂さんを見つめてから、私は話した。
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