男が怖い

桃青

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 ・・・大変。大変よ!
 私の妄想が大変なの!

 本田君から優しくも親切な申し入れを受けた日の事。
 私は1人住まいの自宅へ帰ってきて、大好きなコーヒーを淹れてから、ゆったりとした気持ちで、自由気儘なコーヒータイムを始めたの。
 そうしたら・・・。
 いつしか私の頭の中で、妄想が走り始めてしまったわ!

 本田君・・・。彼ってなかなか素敵な男子よね。

 そんな彼との関係はやがて、友達から親友へと変わっていき、ある日唐突に私達は、お互いがそれ以上の存在であることを悟るの!

 そして、愛の告白。さらにあんなものの大活躍(キャーーー)により、私達はより一層愛を深め・・・。
 気がつくと妊娠。そして私達は無事、ゴールイン!

 それから新しい家庭を持った私の人生は、第2章の幕が開くのだ・・・。

 私は何度もその妄想を頭の中で繰り返しては、ぐるぐると思考を回転させていた。そしていつしかその幸せな妄想に酔い、すっかりハッピーな気持ちになっていた時、ふとこんな、現実的な考えが頭を掠めた。

 ・・・彼は別に、私の事が特に好きなのではないのかもしれない。
 彼に生来備わっている優しさで、悲劇(いや、それとも喜劇?)的だった私を見ていられなくて、それであんなことを言ってくれただけで・・・。

 はぁ~。でも仮にそうだったとしても、本田君が素敵な事に、変わりはない。

 でも、もしよ?
 彼のお蔭で本当に男の人が怖くなくなったら、どんなにいいだろう。恐れる事なく、異性とのあらゆる意味での触れ合いを、心から楽しめたらどんなにいいだろう!
 だが悲しい事に、私にはそれができない。
 今の私は、男の人にまつわる苦しみ、苦悩、戸惑いで、溢れ返っているの。

 男の人の強さ(それが今の私には怖い)、男の人の弱さ(それが今の私はよく分かっていない)、・・・そう、詰まる所男の人の本質を掴みとり、恐れる事なく、心からの笑顔で男性を受け止める事ができるように、私はなりたい。
「よし。」
 私は小さな声で呟いた。こうなったら本田君に、私の未来を託してみよう。今の私にはそれしかできない。
 そして私は私に出来る事を・・・。
 とりあえず精一杯やっていこう。私はひっそりと、そう決意を固めたのだった。
 ☆☆☆
 私の大学での日々は、それは平凡に流れていた。・・・自分でも特に問題が無いように思えたわ、ただしそれはあくまでも、“男性恐怖症”を除いて、という事だったけれど。

 そんなある日の事。大学の講義を終えて、廊下を歩きながら私は、携帯のメールをチェックしていた。すると。
 目新しい一通のメールが届いていたのだ。
 なんと宛先は、本田君からだった。
(ぎゃーーーーーーーーーー。)
 私は心の中で、男性恐怖の雄叫びを一声上げてから、とりあえずそのメールを開いてみる事にしたの。

『井上さん、元気ですか?
 良かったら今日一緒に飲みに行きませんか?待ち合わせは♪♪駅の東口の改札で、午後の7時に。
 OKなら返信して。』

 その簡潔なメールを、恐れの感情と共に、携帯に穴が開くのではないかと思うほど夢中で、じりじりと見つめ、私は何度も何度も呆れるほどしつこく読み返した。
(男の人と・・・、飲みに行く。私は一体、どんなことになるのだろう・・・?)
 私はそう思いながらも、これはイケメン(かどうかは全然関係ないけれど)本田君が考え出した、“男性恐怖症更生プログラム”の一環に違いないと、すぐさま悟ったわ。
(普通の人だったら、好意を抱く異性からお誘いを受ければ、素直に喜ぶでしょうけれど・・・。
 正直私は、それどころじゃない!)
 心の中で私はそう絶叫した。

 それから私の頭の中では、色々な妄想がウゴウゴと動き始め、次第に何もかもが恐ろしくなっていった。

 でも。でもね?

 ここで怖れていてどうするの?
 それではいけないわ。立ち止まっていたって、何も始まらない。だから私は未来へ向かい、一歩足を踏み出さなくては・・・。

 私は心を固め、決意をした。そして瞑目して、しばしの間自分の考えを纏めてから、カッと目を開き、携帯を見つめ、それから迷いを振り切って、本田君に返信した。

『了解しました。♪♪駅の東口の改札へ、時間通りに行きます。待っていてください。』

 そしてメールを送信すると、私は理由の分からぬ不安と興奮に包まれ、しばしの間、その溢れ出てくる感情に、身を委ねていたのだった。
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