千年の扉

桃青

文字の大きさ
上 下
6 / 74

6.

しおりを挟む
「ただいまー。」
 遥は玄関に入って、部屋の奥に向かいそう声を掛けたが、返事はなかった。
(梅おばさんはどうしたのだろう?)
 と思いながらまずリビングに行ってみると、そこにはお茶を片手に、椅子に座って1人考え込んでいる梅の姿があった。そしておもむろに顔を上げると、
「・・・帰ってきたね、遥。―で、どうだったい?」
 と遥に問い質すのだった。遥は梅の真向かいの椅子に腰を下ろすと、
「うん、それがね・・・、」
 と今日大江から聞いた話を隅から隅まで、梅に話して聞かせた。梅は瞬きするのさえ忘れたかのように、ばっちりと目を見開いて遥の話を聞いていたが、話を一通り聞き終えると、
「そうか、そういうことか。・・・なるほどね。うん。」
 と1人でぶつぶつと呟いていた。遥は梅が初めて大江から、千年の扉の話を聞いた時の様子を思い出しながら、梅にそっと質問した。
「もしかしておばさんはこの話を、・・・もう知っていたの?」
 梅は何処か遠くの方をじっと見つめ、
「私はね、この時が来ることを、生涯ずっと恐れていたんだよ。」
 と言って、はぁ~とそれはそれは深い溜め息を吐いた。それから決意したように言った。
「遥、もちろん私はその話を知っていた。そしてこの柴神社にはね、焦人が書いたとされる秘密の巻物が確かにある。でも今はその巻物のありかや内容について、お前に教えるわけにはいかないんだ。
 ―何故ならその中身を知ることで、お前はますます心理的に追い詰められ、人から追われることになるだろうからね。
 ・・・そう、だから今はまだ知らない方がいい。」
 遥は何やら複雑な思いで、梅の語りをじっと聞いていた。そして彼女の中で芽生えた、秘密について知りたいと思う好奇心と、それを知ることによって背負うことになる重荷について考え、まるで自分で自分が分からなくなりそうになっていたのである。
 そこで遥は決心した。
「梅おばさん、私決めた。
 これから私はファンタジーの一員になるわ。そしてダイレクトに千年の扉の情報を得て、まるでスパイみたいにその動向を探ってみようと思うの。この案はどうかしら?」
「・・・そうかい。
 ―遥、そうしてくれるかい?そうしたらこの梅おばさんの心配事も、多少は減るというものだよ。
 じゃあ遥、お前にこの行く先を、・・・託してみようかね?」
 遥はニッと笑って、力を込めて言ったのだった。
「分かったわ、梅おばさん。ここは私に任せて。」
しおりを挟む

処理中です...