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その場に取り残された遥とケイトは、何となく手持ち無沙汰な様子でスタンドマイクの方を見ていたが、まだまだ当分イアンの演説は始まりそうになかった。遥はここに集まった聴衆は一体、どんな人達なのだろうと思い、そっとさり気なく周囲を観察してみた。
すると、大方はもちろん日本人だったのだが、その中にちらほら色んな国籍と思われる外国人の姿があり、ニューカマーを支持する人々の幅の広さを、目の当たりにした思いになったのだった。
「・・・この間は、失礼な事をしてすみませんでした。」
突然ケイトが話し掛けてきたので、遥は驚いてから我に返り、気を取り直して答えた。
「本当に・・・、あのホテルの一件では、腹立たしい思いをしました。」
するとケイトは困った笑みを浮かべて言った。
「本当にごめんなさい。でもあの時はああするしかなかったのです。」
「気にしないで、ケイトさん。私は心の中で、もうあの出来事は許すことにしましたから。
ところであの、大変ぶしつけな質問を突然しますけれど、
・・・ケイトさんはイアンの恋人なの?」
遥は目を見開いて、ケイトにそう問い質すと、ケイトは再び不思議な微笑を浮かべた。それから軽く遥の肩に手を置いて、
「遥さん、イアンの話が始まります。ぜひ聞いてみて下さい。」
と遥を促した。遥がスタンドマイクの方を見てみると、そこにはイアンがすっと立ち、皆に向かって手を上げてみせると、彼の話を聞きに集まっていた人達からは、温かい拍手が沸き起こった。
そしてイアンの話が始まった。
話の内容は、以前遥とイアンの間で交わされた話と中身がオーバーラップしていたが、彼は物事を説明するときにリアルな実例を取り入れて、より話を生々しいものにしていた。それが一層、聴衆が求めている真実に対する飢餓感を煽り、人々はイアンの導きを求めていた。
そうそこには、今の遥が求めているものが、確かにあったのである。遥は思った。
(イアンは純粋に、本当に世界の未来について考えているわ・・・、ファンタジーの人達とは違って。そう、その姿勢は焦人の考え方と重なって、私には見える。
さらにその思想は今、世界中に少しずつ広まりつつあって、多くの人々に感銘を与え続けているのね。もちろんそれは、日本人にだって・・・!
見てみて、ここに集まった人達の、この真剣な表情を。)
そして遥は熱い思いが溢れ出るかのような、聞き手たちの熱心な様子をじっと観察していたが、ふと自分の隣に立っているケイトの存在に目がいった。すると彼女は潤んだ瞳で、遥の存在などまるですっかり忘れたかのようにイアンを見つめ、その話に聞き入っているのだった。
(ああ、この人はもしかして・・・。)
遥がふとそう思った時、人々の間から熱い拍手が沸き起こって、遥は夢想から覚めた。マイクの前ではイアンが話を終えて、人々に向かって手を振って別れの挨拶をし、日本式にお辞儀をしてみせていた。
「それでは遥さん、行きましょう。」
突然ケイトは、遥に話し掛けた。するとさっきまでの恋する乙女のような有様は、すっかり影を潜めて、今ではクールすぎるいつもの彼女へと戻っていたのだった。
「行くって、・・・どこにですか?」
遥がそう問うと、ケイトは淡々と答えた。
「イアンの所にです。私についてきて下さい。」
そう言って彼女は人混みの中を、先へ歩き始めた。遥は彼女を見失わないように、必死に後に続いていった。
すると、大方はもちろん日本人だったのだが、その中にちらほら色んな国籍と思われる外国人の姿があり、ニューカマーを支持する人々の幅の広さを、目の当たりにした思いになったのだった。
「・・・この間は、失礼な事をしてすみませんでした。」
突然ケイトが話し掛けてきたので、遥は驚いてから我に返り、気を取り直して答えた。
「本当に・・・、あのホテルの一件では、腹立たしい思いをしました。」
するとケイトは困った笑みを浮かべて言った。
「本当にごめんなさい。でもあの時はああするしかなかったのです。」
「気にしないで、ケイトさん。私は心の中で、もうあの出来事は許すことにしましたから。
ところであの、大変ぶしつけな質問を突然しますけれど、
・・・ケイトさんはイアンの恋人なの?」
遥は目を見開いて、ケイトにそう問い質すと、ケイトは再び不思議な微笑を浮かべた。それから軽く遥の肩に手を置いて、
「遥さん、イアンの話が始まります。ぜひ聞いてみて下さい。」
と遥を促した。遥がスタンドマイクの方を見てみると、そこにはイアンがすっと立ち、皆に向かって手を上げてみせると、彼の話を聞きに集まっていた人達からは、温かい拍手が沸き起こった。
そしてイアンの話が始まった。
話の内容は、以前遥とイアンの間で交わされた話と中身がオーバーラップしていたが、彼は物事を説明するときにリアルな実例を取り入れて、より話を生々しいものにしていた。それが一層、聴衆が求めている真実に対する飢餓感を煽り、人々はイアンの導きを求めていた。
そうそこには、今の遥が求めているものが、確かにあったのである。遥は思った。
(イアンは純粋に、本当に世界の未来について考えているわ・・・、ファンタジーの人達とは違って。そう、その姿勢は焦人の考え方と重なって、私には見える。
さらにその思想は今、世界中に少しずつ広まりつつあって、多くの人々に感銘を与え続けているのね。もちろんそれは、日本人にだって・・・!
見てみて、ここに集まった人達の、この真剣な表情を。)
そして遥は熱い思いが溢れ出るかのような、聞き手たちの熱心な様子をじっと観察していたが、ふと自分の隣に立っているケイトの存在に目がいった。すると彼女は潤んだ瞳で、遥の存在などまるですっかり忘れたかのようにイアンを見つめ、その話に聞き入っているのだった。
(ああ、この人はもしかして・・・。)
遥がふとそう思った時、人々の間から熱い拍手が沸き起こって、遥は夢想から覚めた。マイクの前ではイアンが話を終えて、人々に向かって手を振って別れの挨拶をし、日本式にお辞儀をしてみせていた。
「それでは遥さん、行きましょう。」
突然ケイトは、遥に話し掛けた。するとさっきまでの恋する乙女のような有様は、すっかり影を潜めて、今ではクールすぎるいつもの彼女へと戻っていたのだった。
「行くって、・・・どこにですか?」
遥がそう問うと、ケイトは淡々と答えた。
「イアンの所にです。私についてきて下さい。」
そう言って彼女は人混みの中を、先へ歩き始めた。遥は彼女を見失わないように、必死に後に続いていった。
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