千年の扉

桃青

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37.

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 一方こちらはファンタジーの事務所の様子だが・・・。
 メンバーは全員旅の準備に追われながらも、強引に残っている仕事を押し進めている所だった。
 どうやらファンタジーの面々の中でも、特に異世界に行く事に浮足立っている様子の太田は、メンバーに思いつくがまま、様々な指示を飛ばしていた。
「おい稔、さっき頼んだスクラップについてのまとめの原稿、ちゃんと書き終えただろうな?」
「今、やっている所ですよ。・・・それもかなりのスピードでやっています。」
 太田の畳み掛けるような質問に、稔はやれやれと言った様子で答えた。
「・・・それだけは、絶対に終わらせておけよ。そうじゃないとおまえを置き去りにして、この事務所の留守番役に回すからな。
 なぁ、ところでマーク、あんたは本当に、“千年の扉”に行かなくていいの?」
 太田はマークにそう問い掛けると、彼は今この事務所にいる誰よりも、落ち着いた様子で答えた。
「はい。私も異世界に行ってみたいという思いは、確かにあります。何しろそういう事に興味があるから、このファンタジーで働いているようなものですからね。
 ・・・でもリーダーから、誰か地球に連絡係が残る必要があるという事で、留守番を頼まれたので、仕方がないです。
もし、異世界との行き来が自由になったなら、その時こそ僕も足を運んでみようと思っていますよ。」
「そうか。」
 太田は相槌を打った。そんな中雑用係の友は、忙しく事務所の中をばたばたとあちこちに移動しては、何かを整理したり、書類のコピーを取ったりしており、敬一も大江に確認を取りながら、慌ただしく何かの文書を熱心にパソコンに打ち込んでいた。
 その時。
「・・・あっ。」
 マークがパソコンの画面を見ながら、小さく叫び声を上げた。大江はそんな彼の様子に機敏に反応をして、問いかけた。
「どうした、マーク?」
「たった今、ニューカマーのフェイスブックに新しい書き込みが・・・。そこに、
『我々はついに希望を手に入れた。新天地は僕らのものだ。』
 と、書かれています。」
「それはどういう意味だ・・・?もしかするとニューカマーは、何か千年の扉に関する新しい情報を・・・、手に入れたって事か?」
 太田が考え込んだ様子で皆にそう問いかけると、大江はハッとした様子で呟いた。
「もしかすると、・・・遥じゃないか?」
 その時ファンタジーの事務所は、一瞬しんとして、静けさに包まれた。大江は考えながら、言葉を続けた。
「遥ならもしかすると、あの秘密の書の内容を知っている可能性がある。何故なら、梅さんがその事について知っているのだから、遥が彼女からその内容について、伝え聞いているかもしれない。
 そして遥は、今となってはニューカマーの側について、イアンにその情報を流した・・・。」
「―有り得ますね。」
 マークは冷静に答えた。
「おいおい、これはちょっとまずい事態じゃないの?秘密の書の内容は、俺達しか知らないと思っていたけれど、そうじゃないとすると・・・。
 もしニューカマーのやつらに先を越されたりしたら、その時俺達は、一体どうなるんだ?」
 太田は多少慌てた様子でそう言うと、それから大江をじっと見つめて、彼の判断を仰いだ。すると大江は両手を目の前で合わせて、皆に向かって話し掛けた。
「どうやら我々も、ことを急いだ方が良さそうだな。それじゃあ皆、旅の準備は出来ているか?」
 するとメンバーはそれぞれ手を上げたり、頷いたりして、同意を示してみせた。それを見届けた大江は、リーダーとして決断を下した。
「それでは僕達は青島に向けて、直ちに旅に出る事にする。
 出発は3日後だ。それまでに各自、準備を整えておくように!」

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