千年の扉

桃青

文字の大きさ
上 下
47 / 74

43.

しおりを挟む
 神主は心配そうな風情で、ずっと井戸の底を見つめて、彼らの様子を窺っていたのだが、その時。
 突然目を開けていられないほどの閃光が、井戸の底から解き放たれた。
「わっ!」
 彼は慌てて目を覆い、あまりの眩しさのために、しばらく井戸の側にじっとしゃがみこんでいたのだが、やがてそっと目を開けてみると・・・。さっきの輝きはまるで幻のように、辺りはすっかりいつも通りの暗闇と静けさを、取り戻していたのだ。
「やれやれ、今のは何だったんだ。」
 神主はぶつぶつぼやきながら、イアン達の安全を確認するために、再び井戸の中を覗き込んで、声の限り叫んでみた。
「みなさんーーー!無・事・ですかーーー?」
 ―しかし今度は、さっきのように返事はなかった。
 それから彼はロープをくいくいと引っ張って、手答えを確かめてみたり、何も見えるはずはないと分かっているのだが、それでも懐中電灯で井戸の中を照らしてみたり、何度も繰り返して、井戸の底に向かって叫んでみたりしたのだが・・・。
 ―もはや手答えは、全くなかったのだった。
 彼は1人でぼそぼそと呟いた。
「ふむ。どうやら彼らは本当に消えてしまったらしいぞ。ということは・・・。
 もしかすると?
 彼らは望み通りに・・・。」
 そしてひとつ溜め息を吐いた彼は、井戸の遺跡を後にして、自分の住処へ引き返すことに決めたのだった。
しおりを挟む

処理中です...