婚約破棄と、それにまつわるあれこれ。

たまご

文字の大きさ
1 / 8

婚約破棄。

しおりを挟む
「アリシア、君との婚約を破棄する!」

 第二王子に告げられた瞬間、悪役令嬢であるアリシアは日本人であった前世を思い出した。

 いや、彼女だけではない。

 ヒロインであるユミィもまた、日本人であった前世を思い出した。

 ユミィを慕う騎士団長の息子であるリカルドも、アリシアの親友である侯爵令嬢マーガレットも、また日本人であった前世を思い出した。

 ユミィに嫌がらせをしていた伯爵令嬢も、もはや単なるモブである子爵令息も日本人であった前世を思い出した。

 いや、それどころではない。

 パーティーのために働いていた侍女達をはじめ、お城の衛兵、はては下働きのもの達さえ、日本人であった前世を思い出したのだ。

 ただ一人、転生者ではない第二王子をのぞいて。

 そして、全員が思った。

(あ、これ、アカンやつだ)

 空気の読めない第二王子は、得意気に婚約破棄の続きを告げようとしている。

 皆の動きは素早かった。

 悪役令嬢であるアリシアは魔法で風を起こし、パーティー会場をめちゃくちゃにした。
 ヒロインであるユミィは光魔法で目眩ましをする。
 騎士団長の息子であるリカルドは、衛兵達に合図した。

 貴族達はそれぞれ使える魔法でパーティー会場をめちゃくちゃにし、侍女達は高価な備品が台無しになる前に鮮やかな手際で片付けた。
 御者達は馬車の用意をし、衛兵達は第二王子を素早く連れ去った。

 意味も分からず連れ去られた第二王子はなにやらわめいていたが、それを気にするものは誰もいなかった。

 別れの挨拶もそこそこに、悪役令嬢アリシアはドレスの裾を翻し、その場をあとにした。
 もちろん、ほかの貴族達もそれにならった。

 婚約破棄の現場にいた全員が、それ、いわゆる婚約破棄を全力でなかったことにしたのだ。

 後日、やはり転生者であった王と王妃により、パーティーそのものがなかったことにされた。

 第二王子と悪役令嬢アリシアの婚約がどうなったかは、また別の話である。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪役令嬢は伝説だったようです

バイオベース
恋愛
「彼女こそが聖女様の生まれ変わり」 王太子ヴァレールはそう高らかに宣言し、侯爵令嬢ティアーヌに婚約破棄を言い渡した。 聖女の生まれ変わりという、伝説の治癒魔術を使う平民の少女を抱きながら。 しかしそれを見るティアーヌの目は冷ややかだった。 (それ、私なんですけど……) 200年前に国を救い、伝説となった『聖女さま』。 ティアーヌこそがその転生者だったのだが。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...