不死の魔法使いは鍵をにぎる

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腕の魔方陣

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リグンドじいちゃんは足が悪い。
左足を引きずるように歩く。

けれど歩く早さは決して遅くなく、背の低い俺が小走りして釣り合う速さ。




「リグンドじいちゃんは足が悪いのになんでそんな歩くの早いんだ?」

「身体強化して一歩の距離を稼いでんだ」

「ずるい!俺も身体強化やりたい!」

「基礎魔法も完璧に制御できねんじゃまだできねえよ。まずぁ基礎魔法だ。何事も基礎が大事ってな」




その言葉に何も言い返せなくなる。








リグンドじいちゃんに教わるようになってから、だいぶ制御ができるようになった。
威力も格段に上がった。

けれど"だいぶ"であって"完璧"とは程遠い。


生傷は絶えないし、じいちゃんに守ってもらわなかったら腕や足が無くなっていただろう暴発も時たま起こる。
完璧に扱えるようになる日がいつか来るのだろうか。


しゅんとする俺に、リグンドじいちゃんはいたずらを持ちかける悪がきのようににやりと笑う。







「魔法制御が格段によくなる裏技があんだけんど、おめさん、興味あるかえ」







なんだそれ!
ぱっと顔を上げてじいちゃんを見る。



「あるある!興味ある!」

「確実によくなる。けんど痛えし、1年くれえ時間がかかる」



痛い、1年、という言葉にちょっと怯む。



「まあ急ぐこたあるめえ。もうちっと地道に魔法制御を訓練してから…」

「や、やる!教えてくれ!」







痛い思いなら十分してきてる。
焼けたり凍ったり切れたり打撲したり。
同じ痛い思いをするなら、確実に腕があがるほうがいい。



「えんか。わしゃ途中で止めたりしねえぞ」

「いい。頼む。俺もリグンドじいちゃんくらい魔法が使えるようになりたい」

「ほうか。わかった。そんじゃあ、わしゃも気合入れて準備せないけんなあ」



満足そうに、高揚感のある声。
じいちゃんは本当に嬉々として"裏技"を行使した。










「~~~っ!!痛い!!痛え!!」

「おめさんがやると言ったんだ。泣き言いうもんじゃねえ」

「いっでえええええええ!!」



俺の叫びなど気にも留めず、じいちゃんは軽やかに楽しげにそう言う。
裏技とは、人体に魔法陣を彫ることだった。



焼かれたような熱い痛み。
刺されたような鋭い痛み。
神経に直接刺激を与えられているかのような激しい痛み。

魔法の暴発で腕や足が吹っ飛ぶくらい、屁でもないことのないように感じる痛さだった。



「ぐぅ~~~~っ!!」



必死に噛み締めて声を抑える。
涙がぼろぼろと流れて、痛みから逃れようと体が暴れたがった。



「我慢せえよ。なるべく動きなさんな。陣が乱れて効果が薄まるかもしれん」



そんなん無理だ。
そう思いつつも、こぶしを握り締め歯を噛み締め、必死に耐えようとする。






痛い。痛い。痛い!






ものすごく長い時間痛みに耐えた気がしたが、実際には数時間の出来事だった。
俺の腕を押えていたリグンドじいちゃんの手が離れて、充足感に満ちたため息を落とす。



「今日はしまいだな。ご苦労さん。ゲルト、よう耐えた」



涙やらなんやらで顔がぐちゃぐちゃだ。
ぼうっと軽く霞がかかったような頭で右手の甲を見る。

赤黒く引かれた線。
内出血したかのように、皮膚の下が色づいている。



「飯にしようじゃねえか。だんだん熱が上がってくっだろうからな。だるくなる前に食っとけな」









言葉の通りに、食べている間にどんどん熱が高くなった。
食欲がないわけではないが、酷く体がだるくて動くのが億劫だ。

じいちゃんの作ってくれた昼をなんとか胃に納め、いつもの寝床で体を休める。
熱が引くまでには数日かかった。




体調が戻ったらまた陣を彫り、数日寝込んでまた陣を彫り、という繰返し。

少しずつ手の甲から腕を上っていく陣。
だんだんと細かくなっていく模様。
遅々とした進みに嫌気が差してくる。







もういやだ。
もう痛い思いはしたくない。



「もうやだ!止める!痛えのはやだ!!」

「おめさんがやるって言ったんだ。最後まで我慢せえ」



リグンドじいちゃんは聞く耳を持たない。
俺が暴れるのを気にもとめず、鼻歌交じりに陣を彫り進めていく。



「くそ!離せよ!やめろくそじじい!」

「いま止めたら害しかねえぞ。ほりゃ踏ん張れ。ゲルトならできる」







結局、1年かかると言っていた魔法陣は、完成するまでに3年近くを要した。
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