不死の魔法使いは鍵をにぎる

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師匠と制御の陣とゲルハルト

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「むごいだろ。自分の体が爆発物みたいになるんだぜ」


嫌だよなーっと顔をしかめて話す男の前で私は、酷く安心していた。








殺人容疑がかけられたときの師匠の状況はおそらく、今の話と同様だ。




過去この村で亡くなった子には、目撃者が多数いた。

その子の親。
一緒に魔法練習していた子供。



しかし師匠にはいなかったのだろう。
残るむごたらしい死体の傍に立つ血だらけの男。

その現場だけを見られたのなら、容疑をかけられても当然だろう。






よかった。
よかった。
師匠は人を殺してなんかいない。
その場に居合わせただけだったんだ。









思いがけない場所で、師匠について知ることができた。
今の話から、なぜ師匠が制御の陣を作るに至ったのかも推測できる。



研究にのめり込むようになったのは殺人容疑がかかった後からだという記述が結界張の資料にあった。
魔力制御がうまくいかずに死んでしまった子、友人を見て、救う手立ては無かったのかと研究を始めたのだろう。


始めから制御の魔法陣を作り出そうとしていたのかはわからない。
しかし魔法研究を進めるうちにそれを生み出すに至った。

そしてその魔法陣があったおかげで私は死を回避し、この村でも子供が死ぬことは避けられた。


私に使う前に制御の陣を使ったという話は師匠から聞いたことがない。
おそらく私が魔王討伐に出ている間に師匠も様々な場所へ行っていたのだろう。







しかし、人体に直接刻まずに制御の陣を使う方法があるのなら、私にもそうしてほしかったと少し思う。
私は3年もの間痛みと熱に苦しんだというのに。



直接人体に陣を刻む手法と、素材に描いて腕輪などにした陣を身に着ける手法。
効力に違いはあるのだろうか。

制御の陣が腕に彫られて以降、私の魔法は飛躍的に精度が上がり、練習すればするほどに高度な術を使えるようになった。

もともと制御に悩まされるほどの膨大な魔力持ちだ。
大量の魔力を要する魔法だって、魔力をうまく操れれば比較的簡単に習得できた。

だからこそ転移魔法が扱えるようになったし、魔王討伐だって為せた。


制御の魔法陣を付した腕輪の場合はどうなのだろう。










師匠への疑惑が解けたことで、私は気分よくその村を後にした。
根城に戻ってから腕輪を試作してみたら、確かに魔力制御はしやすくなるが、私の腕の陣よりは効力が劣る。
人体に直接魔法陣を刻むことに比べると、少なく見積もっても効力が半減はするだろうか。

苦しみに耐えた3年間は無駄ではなかったらしい。




素材に魔法陣を描くよりも、人体に刻む方が多量の魔力を必要とする。
異なる魔力が反発するからだ。

その分魔力操作の技術も高度なものを要する。
並みの魔法使いでは扱えなくなるわけだ。


子供を救うのが目的ならば、再現性が高くなければ都合が悪い。
より普及しやすくするために素材に魔法陣を描くという手法を取ったのかもしれない。






魔王討伐に私が旅に出ていた数年間、師匠もまた、旅をしていた。
私を救い、育て、鍛えたその手法で、同じような子供を救うために。

けれど討伐を果たし師匠との家に戻ったときには、師匠は満面の笑みで出迎えてくれた。





よくやった。
偉大なことを為したんだ。
おまえはすごい。

と、幼子を褒めるようにぐしゃぐしゃに頭を撫でられた。




長く帰っていなかった家でも、私を待ってくれている人がいる。
私が行ったことを自分のことのように喜び褒めてくれる人がいる。

その事実に、褒美も名声も霞むほどに嬉しい思いがした。







あれはきっと、私に合わせて師匠が帰宅して待っていてくれたのだ。







王城へ魔王討伐の報告をするとすぐさま、祝砲である黄金の小鳩が国中に飛ばされる。
そして褒美や宴の準備がなされ、勇者は王城にてもてなされる。

師匠は祝砲を目にして家に戻ったのだろう。


私が道半ばで息絶えているとは考えず。
他の者が魔王を討伐したとは考えず。

黄金の小鳩を見ただけで“私”のことだと考えてくれた。




ああ、師匠に会いたい。
呪われてさえいなければ、とっくの昔に師匠と同じところへ行けていたのに。
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