不死の魔法使いは鍵をにぎる

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半面との対話

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それからの数日間、私は毎日バウムの元に来て、あの半面の者を待った。
バウムと話し、魔具の研究をし、収集した情報に抜けや矛盾点はないかを確認して時間を潰す。

情報を書き記しているノートは、備忘録だけではなくシュワーゼとの情報共有にも使う。
情報の伝え漏れはできうる限りなくしたい。





そうこうして4日。





「ゲルハルト。戻って、くるぞ」



魔具を作る際に生じる欠片を何かに使えないか試していたら、バウムが言った。

あの半面が戻ってくる。

視力を強化して周りを探してみると、行きに比べて荷物の増えた姿を確認できた。
まっすぐバウムの方へ向かってくる。



「バウム様、無事に戻ってこられました。周辺に問題はないでしょうか」

「ああ。村は、無事。周辺にも、問題はない。1つ、いいか」

「何でしょう?」


不思議そうに半面は目を見開く。




「話がしたい、そうだ」



そう言って、目線で私を示すバウム。
バウムにしか向いていなかった半面の目が私の方へと動く。



「話ですか。…何でしょう」

「呪いについて調べているんだが、何か知らないか?」



私の言葉に、半面の眉が少し寄った気がした。



「呪い、ですか。あなたは何を知っているのですか。当たり障りのないことしか知りませんよ」

「私が知っているのは、対象者の体に魔力を入れることで呪う、それを取り除けば解呪できる、ということだ」

「それだけ知っていれば十分でしょう」

「それ以外の解呪方法はないのか?」

「…ありませんね」







本当は隠された“外”の村に入りたいところだが、いきなりそれを要求しては断絶されること必至だ。
まだ差しさわりが無いだろう呪いに関する話題で、怪しまれないように交流を図りたい考え。



「…あなた、我々とは“違う”者ですね?」



だったのだが、早々に不信感を持たれたようだ。


半面の表情が険しくなっている。
私から距離を取るように後ろに数歩下がり、バウムに問いかける。



「バウム様、この者は何ですか」

「すまない。君たちに、害はなさない、はずだ。私と、同様の者だ」

「外見上、そうは見えませんが」



バウムは半面にどこまで話しているのだろうか。

半面にどの部分まで話していいかを測りかねている私。
バウムの知人らしき私を信用していいのか疑う半面。

お互いに踏み込むことができず、空気が膠着する。









「全てで、なくてもいい、秘密を、明けてみれば、いい。分かり、合える部分が、あるはずだ」



睨み合う私と半面に、バウムの言葉。



人間どもは、魔王を倒した私を危険だとみなし忌避した。
変わらぬ見た目を気味悪がり、異物であると排除した。

奴らとは分かり合える余地などない。
呪いに関することを話そうとは一切思わなかった。


半面も、隠れた村の者も、私と同様に何かを隠している。
居住地には他者が入れないようにし、顔も面やフードで覆う。

分かり合える部分があるのだろうか。
呪いについて話して、白眼視されることはないだろうか。











バウムに視線をやってから、目の前の鋭い目つきに向き合う。



「…呪われているんだ。解き方を探している」



顎を上げて、居丈高に腕を組む半面。


「解呪方法は自分で言っていたでしょう。解けばいいではないですか」

「それでは解けなかった。違う解呪方法があれば知りたい」

「…面を外しなさい」



面を外して顔を見せると、さらに半面の顔つきが険しくなる。



「どこが呪われているというのですか」

「見た目が変わらないんだ」



半面は眉間に深く皺を刻んだまま、バウムへ顔を向ける。



「バウム様、本当なのですか?」

「ああ、本当だ。ゲルハルトは、ズィレンデ・ズィリンダが、子供のときから、この顔のままだ」

「あのお二方が子供のときから…」


あの双子も、今ではもういい老人である。



「…そうですか。バウム様が言うのです。信じましょう」

「お前は、お前たちはなぜ面をしている?なぜ村を隠しているのかを聞いてもいいか」

「攻撃されるからです。我々はただ、平和に暮らしたいだけです。何者とも対立は望んでいません」

「私は攻撃しない。お前たちの平和は保とう。お前も面を外してくれないか」



半面の訝しむような視線。

信用できないのはわかる。
私が半面の立場ならば、恐らく面を外さない。

信頼している者と親し気だからといって、その者まで信頼できるとは限らない。
変化を望まず、ただ平穏に暮らしたいというのなら、話に乗る必要はない。

やはり駄目か。



「…誓いを立ててもらいます」
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