不死の魔法使いは鍵をにぎる

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続 ヘフテの話

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ヘフテは村で一番の年下だった。
そして、年齢よりも2回りは背の低い小柄な体をしていた。



村の者はみな優しく、よく遊んでくれるが、体格が違いすぎる。



加減がされている雰囲気。
全力を出しても敵わない差。

村の兄姉のことは好きだが、どこか物足りなさも感じていた。



ダモンと遊ぶときには差を感じない。

同じ背丈。
同じ興味関心。
腕力には差があるようだが、かけっこでは良い勝負だった。








兄姉との遊びに加わらず、たびたび姿を暗ますヘフテ。


怪しい行動はすぐに見咎められ、ある日森へ足を踏み入れる前に連れ戻された。
両親や村の大人たち、兄姉たちに酷く叱られた。


森へ行ってはいけないと教えていただろう。
1人で遊びに行くのも駄目だ。
あの村の者に会ったら殺されるぞ。



ヘフテのことを思って叱ってくれているのはわかる。
大人たちが心配してくれているのはわかる。

けれど、たびたび挟まれる森向こうの村を貶す言葉。


あいつらは人の心を持っていない。
何をしてくるかわからない。





ヘフテの心にちくちくと刺さる。



ダモンは違う。
村については知らないけど、ダモンは絶対に違う。



…そんなことなかったもん。



つい小さい声で言い返すと、一層叱る勢いが増した。





数日の間ヘフテは家に閉じ込められることになった。

必ず家に誰かが居て、ヘフテを監視する。
毎日毎日、なぜ森向こうの村と敵対しているのかを説明される。


なんとなく理解はしても、それでもダモンと仲良くしてはいけない理由はわからなかった。



謹慎が解け、懲りずに1人で森へ行き、寂しそうなダモンの姿を見て反省なんて一瞬で吹き飛んだ。

地面に生えている草花を摘み、虫を捕まえ、木に登ろうとするダモン。
寂しげに1人遊ぶダモンが、近づいてくるヘフテに気づいて表情を明るくする。




ダモンと仲良くできないなんて嫌だ。
もっと遊びたい。
一緒にいたい。






村に居るとダモンと一緒に居られないなら、村から出ればいい。






考える前に口から出ていた。


一緒に旅に出よう。
もっといっぱい遊べる場所、仲良くできる場所、村を探そう。
そこに行こう。







ダモンはどこまで理解していたのか。
ただ森以外の場所に遊びに行こうと捉えていたのか。

あっさりと頷いた。


そのまま、魔物を避けられる魔具だけを持って2人で旅をした。







ヘフテもダモンも、自分たちの村から遠く出歩いたことはなかった。
人間とは茶色い肌をしているものだし、時には動物のように毛が生えていたり、鋭い牙や爪が生えていたりする。
そういうものだと思っていた。


白や黄色の肌の人ばかりを見る。
村から離れれば離れるほど、茶色い肌の人は見なくなっていった。

毛深い人や、鋭い牙や爪を持つ人なんていない。
面を被る人も、体を衣服で隠す人もいない。




なんとなく理解をする。

村の兄姉の中に居た、尻尾が生えている人や蹄がある人。
厳しく面や衣服で隠すようよく言われていたが、村の外には同じような人たちがいないからなのだ。



理解するとともに、だんだんと不安になる。

ダモンと仲良く暮らせる村はあるのだろうか。
出会うのは面や衣服で隠す必要のない人たちばかりだ。







一度、どこだったかの村でダモンの面を外された。

ダモンは犬のような口をしている。
長い舌に黒い口。

面を外した子はそれを見て、「気持ち悪い!」と言った。
すぐに面を取り返してその子から離れたけれど、ダモンは傷ついた顔をしていた。




二度とあんな顔はさせたくない。
ダモンには笑っていてほしい。

ダモンと一緒に、楽しく、仲良く遊ぶために村を飛び出してきたのだ。
面を外されて悲しむようなことはダメだ。




不安と、責任感と、少し芽生えた警戒心。




ダモンが悲しむようなことが起こらず、赤や黄色の肌の人と仲良くできる場所は見つかるだろうか。
でも、自分が連れだしたのだから、自分がダモンを引っ張っていかないといけない。
面を外されたら酷いことを言われるかもしれないから、面だけは外されないようにしないと。




どこへ向かえばいいのか、あてもなく歩く。

森を彷徨い、村で泊まらせてもらい、時には危ないから自分の家に留まるよう言ってくれる人もいた。
けれどそれを断り、また彷徨う。



赤か黄色の人しかいないところは、たぶん、ダメだ。



絶えず魔具に少量の魔力を流しながら、ダモンと一緒に歩いた。
魔具によって友達意識を持ってもらえると、魔物が手助けしてくれることがある。

果実が生っている場所。
雨風をしのげる洞窟や茂み。

そこまで魔物が案内してくれるのだ。


魔具が効かない動物から、魔物が守ってくれることもある。
だから食べ物の心配も寝床の心配もあまりしていなかった。

それよりも、目的地を見つけられるかどうかの方が不安だった。




そんなときに、マーツェとゲルハルトに会った。
肉が焼ける香ばしい匂いに導かれて、見つけたのだ。

赤い肌のマーツェと、面を被ったゲルハルト。



一緒だ。
自分たちと同じだ。
この人たちに付いて行けば大丈夫。
この人たちの村に行けば、自分たちも楽しく、仲良く、暮らせるはずだ。



そう、思ったのだ。


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