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ストベロ

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「ぷは~、やっぱストベロは美味しいですね~」

「そうだ、お隣さんもストベロ飲みます?」

いや、それ間接キスですから


「え~良いじゃないですかぁ、間接キスくらい。こんな夜中に2人きりになっちゃうくらいしん密なかんけいなんですから、今更間接キスしたってどうってことないですよ~」

「2人っきりになりたくてなった訳じゃないしなんなら密ではないけどね」

「いけずなひとですね~」

 むうっと、可愛く頬を膨らませて見せる彼女。可愛いは可愛いのだが、全くもって意図が読めない。

 俺は壁掛け時計を見遣った。時刻は22時。彼女が俺の家に押しかけてきて、2時間が経とうとしていた。

 2時間の間に何があったかだって? そんなの決まってる、彼女とひたすら問答を繰り返して容量の得ない答えにひたすらツッコミを繰り出していただけである。

 そうして、とうとう真相を知ることを諦めた僕は、疲れ果ててお酒を飲むことにしたのである。

 彼女が成人しているのかどうかは、いまいち分かってはいないが、もはやそんなことはどうでも良くなっていた。

 既婚者? 彼女が? いやわからん。

「私と彼の出会いの話、聞いちゃいます?」

「いや聞いてないです」

「えー、せっかくなんですから聞いてくださいよ~」

「折角も何も金輪際聞く必要性はないと思うんですが」

「もうっ、つれないんだから~」

「・・・酔いすぎでは?」

 どうやら彼女は本当に既婚者らしく今にも彼との馴れ初めを俺に語りたいらしい。さっきからこのやりとりを10回以上やっている。
 頬が赤くなっているのを見る限り、彼女はアルコールには強くないのであろう。度数のかなり低いお酒を2.3口飲んだあたりからこの調子である。
 まあ、僕としてはこのくらいの返答でも会話が一応成立するのでありがたい話ではあったが。

「ふあ~お隣さんと話してたら眠くなっちゃった」

「眠くなったなら帰ってーー」

「むにゃ~」

 「あ」

 僕が帰宅を促す前に、彼女は寝転がり、睡眠体制に入った。

「あの、ここで寝る気ですか?」

「お隣さん、ダメ~、そんなことしちゃ、私、夫がいるんですぅ」

 いや何もしてねえよ

 と言いつつ、このまま何もしないでいると確実にこの場で眠られてしまう。
 既婚者と一夜を共にするのは絶対に良くない。
 少しだけお酒の入った頭でそんなことを考えた僕は立ち上がった。

「ちょっと頭冷やしてきます」

 酔ってしまった彼女を見つつ、僕もそれなりに酒が回って来てしまっていることを実感した。少しだけ、視界がほわほわとしている。

 鍵はかけるし、大丈夫だろう。そう思った時だった。

「行かないで、お隣さん」

 少しだけ悲しそうな彼女の声と共に、彼女の手は僕のズボンの裾を握っていた。か弱い乙女の手が、僕の目に映る。

「あ、浅野さん?」

「私を、1人にしないで・・・」

 向こうを向いている彼女の表情は見えない。恐らく、寝言なのだろう。それにしては随分現実味のある言葉だが。

「・・・お願い」

「・・・」

 揺れる視界のまま、僕はため息をつきながら再度座りこんだ。

 別に、彼女の頼みに乗ったわけではない。

 ただ、酔いが覚めないこの瞬間に、外に出るのも億劫だなと思っただけである。

「・・・ありがとう、お隣さん」

「起きてるんですか?」
 
 僕の問いに答えることなく、静かに寝息が聞こえてきた。

 天井を見上げる。
 なんだか、不思議な感覚だった。

 すやすやと眠る女性と、一つ屋根の下。しかも既婚者。

 全くもって、僕の人生は前途多難である。

 すやすやと眠る彼女を見つつ、冬のこの寒い時期で風邪をひかれるわけには行かないので、毛布をかけた。別に僕の肌に直接触れているものではないので、セクハラにはならないだろう。

 その日、僕は彼女と共に床に転がって寝た。

 ベットで1人寝るのは、なんだか申し訳ない気がしたからだった。
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