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199 メイベルのチージュ工房
半年後、ビネはロンドリンとサイルズ双方で工房を建てることになった。
採れるアプルの種類が違うため味も香りも、また酸味も強かったりまろやかだったりとそれぞれに特徴があったからである。
ロンドリン領の領主ダルスラはミルケラ率いる合同ギルドに工房を任せて、土地や建物、アプルの入手ルートだけを用意して利ざやを稼ぐことにしたが、メイベルはミルケラと相談しながらサイルズ工房を自ら指揮し、合同ギルドには時折様子を見に来てもらうくらいで領民とともにビネ作りに励んでいた。
その熱の入れように、マーリアルがメイベルを支援する。
「ねえトロイラ、サイルズに牧場を作るのはどうかしら」
「マーリアル様の牧場でございますか?」
「いえ、私の牧場を管理している者を差し向けて、サイルズ家に牧場経営というかね、それを根付かせてはどうかしら。
メイベルがとても一生懸命に取り組んでいると聞いているの。牛乳があればほら、ビネだけでなくチージュもサイルズで作れるわよ。どうかしら?」
トロイラが実家男爵家に使いに出され、たいそう嬉しそうに戻ってきた。
「マーリアル様、これを」
サイルズ男爵からの書状で、マーリアルからの提案に対し、是非牧場を作りたいと言う答えと丁寧な礼が書かれていた。
土地もすぐに準備したという。
「そう!では早速牛の手配と、ミルケラをやりましょう」
「メイベル嬢!」
ミルケラはついうっかり、屋敷にいたときのように嬢呼びをしてしまった。
「まあ、ミルケラさんってば私もう夫がおりますからメイベル嬢はないのではありませんか!」
カラカラと笑うメイベルは、以前のふわりとした様子が消え、地に足をつけた女男爵という体である。
「これは失礼いたしました、メイベル様」
恭しくぺこりと頭を下げたミルケラだったが、顔を上げてメイベルと目が合うと我慢できずに二人で笑い出した。
「ミルケラさんってば!今さらそんな畏まって気持ち悪いですわ」
というわけでありえないとは思ったが、お互いメイベルさん、ミルケラさんと呼び合うことにした。
「では牧場予定地に連れて行ってくれますか?」
「ええ、すぐに行きましょう!」
メイベルたちは屋敷の裏手に続く小高い丘上に、広く拓けた平らな土地を用意していた。
大きな林があるのでそれを風除け代わりに背にして牛舎を建て、平らなところに牧草地を作って牛を放そうと考えている。
「うん、いいね。ここは林がなければ風当たりが強そうだから、陽当たりも考えるとこの辺に牛舎を建てようか」
そう言いながら、土地の形状を確認する。
「こちら側にも少し木を植えるといいかも知れないね。こっちでやってもいいかな?」
図面をさらさらと描き上げながら、既にある林の反対側に植林を勧める。
「ええ、お願いできるならぜひ」
ミルケラたちが牧場を作りあげると、マーリアルから牛がニ十頭とその子牛数頭が寄贈された。
公爵家の牧場には七頭から始めて今ニ十五頭の母牛と十四頭の子牛がいるが、それに近い数の牝牛を送ったというのを聞けば、マーリアルがどれほどメイベルやサイルズ領に目をかけているかがわかるだろう。
「こんなに牛を下さるなんて!」
牛だけではない。ニ年という期限つきでマーリアルの牧場から飼育係も一人貸し出されたので、慣れない飼育でも安心して取り組める。
「マールってこどもの頃から面倒見がよかったけど、少しも変わっていないわね。サイルズ領でチージュを作らせるために牧場を勧めてきたのだから、チージュが出来たらそれを持っていけばすごく喜ぶと思うわ。それで十分よ」
ラトリー・サイルズ男爵が、どう礼をしたものかとメイベルの母でマーリアルの従姉妹でもあるイベラ夫人に相談すると、食いしん坊のマーリアルをよく理解した従姉妹ならではの答えが返ってきた。
イベラの勧めによりメイベルとルジーはボンディからチージュ作りを習い、牛乳の準備が出来てすぐに初めてのサイルズ産チージュを作り出した。
ボンディのようにはできなかったが、丸くしようと頑張ったことだけはわかる歪な四角いチージュを、公爵家に出仕したルジーが届けたところイベラの予想どおり凄まじく喜んだマーリアルは、馬で通うルジーが帰る際、野菜や牧草とあまりの人気でなかなか手に入れにくい泡の水などを馬車一台に目一杯詰め込んで一緒に持ち帰らせた。
「何よこれ!お礼のお礼がこれじゃ、今度は何をお返ししたらいいの?」
困惑したメイベルに、イベラだけが余裕で笑う。
「マールはそんなこと求めていないと思うわ。これで我がサイルズが成功を収めることこそが最大のお礼なのよ、メイベル」
母の言葉に、まずは礼の手紙を認めて。
そしてマーリアルがくれたものをすべて余すことなく使い、最大の成果をあげてみせようと、チージュやビネの質を上げられる方法はないものかと試行錯誤をし始めたこの頃だ。
チージュ工房を建ててからしばらくして、ルジーの帰宅とともに客が訪れた。
「メイベル!」
「ド、ドレイファス様!どうなさったのです?まさか家出?」
「違うってば!チージュ工房の話を聞いて、一度来てみたかったから。ルジーに頼みこんでついてきちゃった。突然来てごめんなさい」
「まあ!謝らないでくださいな、大っ歓迎ですもの!」
じきに12歳になろうとするドレイファスは、だいぶ背が伸びて、見る度に美しさが増し増ししていく。
─眼福眼福─
くふっと笑うメイベルの心の声が、ルジーにはしっかりと聞こえていた。
とてとてとした足音とともに、さらさらの黒髪をおかっぱにした紫の瞳の小さな双子が歩いて来る。それを見つけたドレイファスが、ぱっと駆け寄ってひとりを抱き上げた。
「うわ、ちっちゃくてかわいい!こども部屋にいなくて大丈夫?」
「大丈夫じゃありませんわ!もう、お部屋にいなくてはダメでしょ!」
「待って!連れて行く前にふたりとも抱っこさせて!」
いつも弟妹を抱っこしているドレイファスのかわいいおねだりに、メイベルは自分が抱いていたこどももドレイファスに手渡すと、両手にひとりづつ抱きしめて頬ずりをした。
「んふふ、ほっぺやわらかーい」
光り輝くようなドレイファスと娘ふたりの姿に、鼻血を噴き出しそうなメイベルである。
「お名前は?」
「チェル」
「ユーチィ」
ん?という顔でメイベルを見たドレイファスに、ルジーがこどもを受け取りながら答えた。
「チェルリルアとユーティリアだ」
「かわいい!けど噛むね」
くすっと笑ったドレイファスにルジーがちらりと奥を見ると、奥に姿を見せた双子の祖父サイルズ男爵のラトリーがすっと顔を反らした。
チェルリルアは呼びづらいと皆に言われながら、どうしてもこれがいいと名付けた張本人である。
「ふたりともルジーにそっくりだね!」
メイベルの満足ポイントはまさにそれであった。
メイベルは自分の容姿はごく普通、黒髪に紫の瞳のルジーは美しいと思いこんでいて、こども二人がルジーに似たことを殊のほか喜んでいたのだ。
そのメイベルをこどもを生んでもとってもかわいいままだと愛しむルジーは、どうせ双子ならひとりはメイベルに似てほしかったと思っていた。
「お茶でも飲んで一息ついてから、チージュ工房に参りましょう!」
サイルズのチージュ工房は、ドレイファスが予想していたよりずっと大きく、牧場の隣りに併設されていた。
「鍵魔法をかけさせるので、お待ち下さいね」
騎士の姿がちらちらと見えて警備も厳重にされていることがわかる。ドレイファスの視線に気づいたルジーが、警備について説明した。
「騎士というにはちと甘いんだが、カッコだけでもそれなりにして数を揃えれば、わざわざ忍び込むバカはいないからな。鍵魔法かけてあるチージュ工房は心配していないが、牛泥棒を防ぐ効果が高いんだ」
「牛泥棒?ここに牛を盗みに来るの?」
「ああ、まだ盗られてはいないが、盗られそうになったことはある」
「あんな大きいのをどうやって盗むの?」
「馬車で来た奴らが子牛を引き出して乗せようとしたんだが、母牛たちが騒いで気づくことができた。マーリアル様から頂いた大切な牛だからな、それからは警備を厳重にしているんだ」
公爵家の牧場は離れの敷地の中にあるので、そんな心配をしたことはなかった。
「牧場まるごと全部囲って鍵魔法をかけたらいいんじゃない?」
思いついたことを口にしたが、ルジーはふるりと首を振る。
「できたらそうしたいが、広くてそこまでは手が回らないんだよな」
サイルズ家も牧場の土地は広く準備したのだが、すべてを盗難防止柵で囲うとなると、相当な費用がかかるためそこは断念していた。
─帰ったら母上に話してみよう─
チージュ工房を見学して出来立てのチージュを土産にもらい、また双子に会いに来るとメイベルとルジーと約束を交わすと、ドレイファスは公爵家へと戻って行った。
「ドレイファス様、また来てくださるって!ドレイファス様のことだから絶対約束守って下さるに違いないわ。お小さい頃からそういう方でしたものね!」
歌うように上機嫌にそう言いながら、くるりくるりと踊るように回っているメイベル。
─相当嬉しかったんだな─
ドレイファスにちょっぴり妬けたルジーだったが、次の日にやって来た公爵家からの使いに夫婦で驚かされることになる。
「ミルケラじゃないか!どうした?」
使いは、なんとミルケラ・グゥザヴィ一行である。
「マーリアル様から、ここの牧場とチージュ工房の敷地をすべて盗難防止柵で囲って、全体に結界と鍵魔法をかけるように指示された」
「え!」
「そんな、大変な費用がかかる」
「ドレイファス様から柵を贈りたいとお申し出があったので、マーリアル様が決められたんだよ。つまらん心配はしないで受け取っておけ。ちなみに主たる贈り主はマーリアル様だが、ドレイファス様もご自分の小遣いから金貨をお出しになったらしいぞ」
次期男爵の若夫婦は顔を見合わせて、困ったような幸せそうな笑みを浮かべた。
「これはお返しが大変だわ!」
「いや、よいチージュをばんばん作ってお持ちすれば、それで十分だと思われているだろうよ」
ルジーの言葉にメイベルとミルケラは頷いた。
=====================================
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
採れるアプルの種類が違うため味も香りも、また酸味も強かったりまろやかだったりとそれぞれに特徴があったからである。
ロンドリン領の領主ダルスラはミルケラ率いる合同ギルドに工房を任せて、土地や建物、アプルの入手ルートだけを用意して利ざやを稼ぐことにしたが、メイベルはミルケラと相談しながらサイルズ工房を自ら指揮し、合同ギルドには時折様子を見に来てもらうくらいで領民とともにビネ作りに励んでいた。
その熱の入れように、マーリアルがメイベルを支援する。
「ねえトロイラ、サイルズに牧場を作るのはどうかしら」
「マーリアル様の牧場でございますか?」
「いえ、私の牧場を管理している者を差し向けて、サイルズ家に牧場経営というかね、それを根付かせてはどうかしら。
メイベルがとても一生懸命に取り組んでいると聞いているの。牛乳があればほら、ビネだけでなくチージュもサイルズで作れるわよ。どうかしら?」
トロイラが実家男爵家に使いに出され、たいそう嬉しそうに戻ってきた。
「マーリアル様、これを」
サイルズ男爵からの書状で、マーリアルからの提案に対し、是非牧場を作りたいと言う答えと丁寧な礼が書かれていた。
土地もすぐに準備したという。
「そう!では早速牛の手配と、ミルケラをやりましょう」
「メイベル嬢!」
ミルケラはついうっかり、屋敷にいたときのように嬢呼びをしてしまった。
「まあ、ミルケラさんってば私もう夫がおりますからメイベル嬢はないのではありませんか!」
カラカラと笑うメイベルは、以前のふわりとした様子が消え、地に足をつけた女男爵という体である。
「これは失礼いたしました、メイベル様」
恭しくぺこりと頭を下げたミルケラだったが、顔を上げてメイベルと目が合うと我慢できずに二人で笑い出した。
「ミルケラさんってば!今さらそんな畏まって気持ち悪いですわ」
というわけでありえないとは思ったが、お互いメイベルさん、ミルケラさんと呼び合うことにした。
「では牧場予定地に連れて行ってくれますか?」
「ええ、すぐに行きましょう!」
メイベルたちは屋敷の裏手に続く小高い丘上に、広く拓けた平らな土地を用意していた。
大きな林があるのでそれを風除け代わりに背にして牛舎を建て、平らなところに牧草地を作って牛を放そうと考えている。
「うん、いいね。ここは林がなければ風当たりが強そうだから、陽当たりも考えるとこの辺に牛舎を建てようか」
そう言いながら、土地の形状を確認する。
「こちら側にも少し木を植えるといいかも知れないね。こっちでやってもいいかな?」
図面をさらさらと描き上げながら、既にある林の反対側に植林を勧める。
「ええ、お願いできるならぜひ」
ミルケラたちが牧場を作りあげると、マーリアルから牛がニ十頭とその子牛数頭が寄贈された。
公爵家の牧場には七頭から始めて今ニ十五頭の母牛と十四頭の子牛がいるが、それに近い数の牝牛を送ったというのを聞けば、マーリアルがどれほどメイベルやサイルズ領に目をかけているかがわかるだろう。
「こんなに牛を下さるなんて!」
牛だけではない。ニ年という期限つきでマーリアルの牧場から飼育係も一人貸し出されたので、慣れない飼育でも安心して取り組める。
「マールってこどもの頃から面倒見がよかったけど、少しも変わっていないわね。サイルズ領でチージュを作らせるために牧場を勧めてきたのだから、チージュが出来たらそれを持っていけばすごく喜ぶと思うわ。それで十分よ」
ラトリー・サイルズ男爵が、どう礼をしたものかとメイベルの母でマーリアルの従姉妹でもあるイベラ夫人に相談すると、食いしん坊のマーリアルをよく理解した従姉妹ならではの答えが返ってきた。
イベラの勧めによりメイベルとルジーはボンディからチージュ作りを習い、牛乳の準備が出来てすぐに初めてのサイルズ産チージュを作り出した。
ボンディのようにはできなかったが、丸くしようと頑張ったことだけはわかる歪な四角いチージュを、公爵家に出仕したルジーが届けたところイベラの予想どおり凄まじく喜んだマーリアルは、馬で通うルジーが帰る際、野菜や牧草とあまりの人気でなかなか手に入れにくい泡の水などを馬車一台に目一杯詰め込んで一緒に持ち帰らせた。
「何よこれ!お礼のお礼がこれじゃ、今度は何をお返ししたらいいの?」
困惑したメイベルに、イベラだけが余裕で笑う。
「マールはそんなこと求めていないと思うわ。これで我がサイルズが成功を収めることこそが最大のお礼なのよ、メイベル」
母の言葉に、まずは礼の手紙を認めて。
そしてマーリアルがくれたものをすべて余すことなく使い、最大の成果をあげてみせようと、チージュやビネの質を上げられる方法はないものかと試行錯誤をし始めたこの頃だ。
チージュ工房を建ててからしばらくして、ルジーの帰宅とともに客が訪れた。
「メイベル!」
「ド、ドレイファス様!どうなさったのです?まさか家出?」
「違うってば!チージュ工房の話を聞いて、一度来てみたかったから。ルジーに頼みこんでついてきちゃった。突然来てごめんなさい」
「まあ!謝らないでくださいな、大っ歓迎ですもの!」
じきに12歳になろうとするドレイファスは、だいぶ背が伸びて、見る度に美しさが増し増ししていく。
─眼福眼福─
くふっと笑うメイベルの心の声が、ルジーにはしっかりと聞こえていた。
とてとてとした足音とともに、さらさらの黒髪をおかっぱにした紫の瞳の小さな双子が歩いて来る。それを見つけたドレイファスが、ぱっと駆け寄ってひとりを抱き上げた。
「うわ、ちっちゃくてかわいい!こども部屋にいなくて大丈夫?」
「大丈夫じゃありませんわ!もう、お部屋にいなくてはダメでしょ!」
「待って!連れて行く前にふたりとも抱っこさせて!」
いつも弟妹を抱っこしているドレイファスのかわいいおねだりに、メイベルは自分が抱いていたこどももドレイファスに手渡すと、両手にひとりづつ抱きしめて頬ずりをした。
「んふふ、ほっぺやわらかーい」
光り輝くようなドレイファスと娘ふたりの姿に、鼻血を噴き出しそうなメイベルである。
「お名前は?」
「チェル」
「ユーチィ」
ん?という顔でメイベルを見たドレイファスに、ルジーがこどもを受け取りながら答えた。
「チェルリルアとユーティリアだ」
「かわいい!けど噛むね」
くすっと笑ったドレイファスにルジーがちらりと奥を見ると、奥に姿を見せた双子の祖父サイルズ男爵のラトリーがすっと顔を反らした。
チェルリルアは呼びづらいと皆に言われながら、どうしてもこれがいいと名付けた張本人である。
「ふたりともルジーにそっくりだね!」
メイベルの満足ポイントはまさにそれであった。
メイベルは自分の容姿はごく普通、黒髪に紫の瞳のルジーは美しいと思いこんでいて、こども二人がルジーに似たことを殊のほか喜んでいたのだ。
そのメイベルをこどもを生んでもとってもかわいいままだと愛しむルジーは、どうせ双子ならひとりはメイベルに似てほしかったと思っていた。
「お茶でも飲んで一息ついてから、チージュ工房に参りましょう!」
サイルズのチージュ工房は、ドレイファスが予想していたよりずっと大きく、牧場の隣りに併設されていた。
「鍵魔法をかけさせるので、お待ち下さいね」
騎士の姿がちらちらと見えて警備も厳重にされていることがわかる。ドレイファスの視線に気づいたルジーが、警備について説明した。
「騎士というにはちと甘いんだが、カッコだけでもそれなりにして数を揃えれば、わざわざ忍び込むバカはいないからな。鍵魔法かけてあるチージュ工房は心配していないが、牛泥棒を防ぐ効果が高いんだ」
「牛泥棒?ここに牛を盗みに来るの?」
「ああ、まだ盗られてはいないが、盗られそうになったことはある」
「あんな大きいのをどうやって盗むの?」
「馬車で来た奴らが子牛を引き出して乗せようとしたんだが、母牛たちが騒いで気づくことができた。マーリアル様から頂いた大切な牛だからな、それからは警備を厳重にしているんだ」
公爵家の牧場は離れの敷地の中にあるので、そんな心配をしたことはなかった。
「牧場まるごと全部囲って鍵魔法をかけたらいいんじゃない?」
思いついたことを口にしたが、ルジーはふるりと首を振る。
「できたらそうしたいが、広くてそこまでは手が回らないんだよな」
サイルズ家も牧場の土地は広く準備したのだが、すべてを盗難防止柵で囲うとなると、相当な費用がかかるためそこは断念していた。
─帰ったら母上に話してみよう─
チージュ工房を見学して出来立てのチージュを土産にもらい、また双子に会いに来るとメイベルとルジーと約束を交わすと、ドレイファスは公爵家へと戻って行った。
「ドレイファス様、また来てくださるって!ドレイファス様のことだから絶対約束守って下さるに違いないわ。お小さい頃からそういう方でしたものね!」
歌うように上機嫌にそう言いながら、くるりくるりと踊るように回っているメイベル。
─相当嬉しかったんだな─
ドレイファスにちょっぴり妬けたルジーだったが、次の日にやって来た公爵家からの使いに夫婦で驚かされることになる。
「ミルケラじゃないか!どうした?」
使いは、なんとミルケラ・グゥザヴィ一行である。
「マーリアル様から、ここの牧場とチージュ工房の敷地をすべて盗難防止柵で囲って、全体に結界と鍵魔法をかけるように指示された」
「え!」
「そんな、大変な費用がかかる」
「ドレイファス様から柵を贈りたいとお申し出があったので、マーリアル様が決められたんだよ。つまらん心配はしないで受け取っておけ。ちなみに主たる贈り主はマーリアル様だが、ドレイファス様もご自分の小遣いから金貨をお出しになったらしいぞ」
次期男爵の若夫婦は顔を見合わせて、困ったような幸せそうな笑みを浮かべた。
「これはお返しが大変だわ!」
「いや、よいチージュをばんばん作ってお持ちすれば、それで十分だと思われているだろうよ」
ルジーの言葉にメイベルとミルケラは頷いた。
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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
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※小説家になろう様にも投稿しています