神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

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228 ちいさな癒し

 イナゴール対策に皆が目の色を変え、なんとか被害を少なくしようと汗だくで駆け回る姿に、ボンディは氷を削ってペリルの汁をかけたデザートを作り、振る舞っている。
 シエルドが簡易の氷削り機を作ったあと、偶然厨房でそれを見たメルクルが、あっさり改良型の氷削り機を作ったのだ。

「見ただけなのに、作れちゃうわけですか?」

 そのうちに自分がやるつもりだったのに、メルクルにお株を奪われたシエルドは憮然としていたが、「グゥザヴィ家の男ならこのくらいやれて当然だが、さすがメル兄だ!」と自慢げにミルケラに言われて、突っ込みようもなくなった。

 そんなわけで氷削りが量産できるようになったボンディは、汗を浮かべているものを見つけると、サッと冷たいデザートで喉を潤し、一休みさせて、また戦場へと送り出してやっていた。

「一日に何度も魔力切れ寸前まで魔法を使って、魔力ポーションを飲むともう体が一気に火照ってしんどいんだけど、その時にボンディさんにもらうあの削り氷がスーっと滲みて最高なんですよ~」

 濁りガラス小屋の補強を続ける土木師たちの賛辞に気を良くしたボンディは、ペリルの汁以外にもいくつかの果実で試し、超貴重品のミロンの汁で出したときは、あのモリエールが狡いと地団駄を踏んだほど。
 そしてその噂を聞きつけたマーリアルは、もちろんパティスリーブランデイルにそれを出したいと考え始めているが、さすがにこの局面で言い出すほどお花畑ではない。

 イナゴールの件が無事片付いたら・・・

片付くかか問題ではあるが。



 皆が走り回る中、ドレイファスは魔猫たちを肩に乗せてカルルドとトロンビーたちと、はぐれイナゴール捕獲をしている。
 錬金術師師弟の殺虫ポーションの効き目を見るために、実験台は必要だからだ。
 最初の頃、魔猫たちはイナゴールを見つけると飛びかかって遊んでしまったが、ドレイファスが神殿で安くはない金額を小遣いから払い、テイムスキルを身に着けて二匹をテイムしてからは、捕獲の手伝いができるようになっていた。


「ヴァイス!その葉陰にいるぞ」

 ドレイファスがヴァイスと呼んだのは、黒とシルバーのツートンカラーのヌコだ。瞳が陽の光を受けて、小さな太陽のような眩しさを放つ。

 ヴァイスが叢に飛び込むと、数匹のイナゴールが飛び出してきた。

 それを見てカルルドがトロンビーにイナゴールを捕まえさせる。蜂にがっしりと抱きかかえられたイナゴールを、カルルドが受け取って籠に入れると、バタバタと羽音が聞こえて、中で暴れているのがわかった。

 ドレイファスを目掛けて、真っ黒い影が飛びついてくる。

「ミーッディス!どこに行ってたんだ?」

 もう一匹のヌコも勿論ドレイファスがテイム済、名はミッディスと付けられた。

 ミッディスは口に何か咥えている。
そっと下ろして口を開けると、残念ながら息絶えたイナゴールがポトリと落ちた。

「うん、ミッディスも採ってきてくれたんだね、ありがとう!」

 ─死んじゃってるけど─

 ニカニカと笑いながらドレイファスがミッディスの頭を撫でると、満足そうなミッディスにヤキモチを焼いたヴァイスが体をぶつけて、ドレイファスの掌にニ色の頭を滑り込ませる。

「ふうん、なんかいいねそういうの」

 主を奪い合う魔猫二匹を見たカルルドは、自分の可愛いトロンビーたちを見やる。
絶対的に服従してくれるトロンビーたちは勿論何より大切で可愛い存在だが、ヌコのように抱きしめたりはできない。
蜂だから。
公爵邸にいるスローバードも・・・、撫でるくらいはできるが、抱きしめたりするような大きさではない。

 魔猫か子狼を見つけたら、次は自分もテイムしようと、密かに決めたカルルドだった。

 それはさておき。
 トロンビーはイナゴールより大きいため、叢の周囲で気配を探すことはできても、こんもりした中に入り込むと機動力が落ちてしまう。
そのため、ヌコたちに叢でイナゴールを追ってもらい、飛び出してきたイナゴールをトロンビーがキャッチするという狩りを、ドレイファスがテイマーとなりヌコをテイムしたことを知ったカルルドが考えだした。
 これは捕獲できる確率が高い。
トロンビーはホバリングしながら六本の足でイナゴールを掴みながらカルルドに渡すのだ。

「実験用のイナゴール、だいぶ採れたね」

 大きめの金網籠を揺らして、バサバサと羽が当たる音を確認する。
 以前ミースにもらったカルルドの金網籠は通常のものよりだいぶ大きいが、細かい目のため、中があまり良く見えない作りになっていた。

「ドル、巾着出して」

 ローザリオが持たせてくれたのは毛長牛の長い毛で編まれた大きな巾着。柔らかくなめらかな編地なので、普段は傷みやすい薬草の採取に使っている物だが、これならイナゴールにも食われまいと渡してくれた。
 口を開いてカルルドに渡すと、金網籠の蓋に隙間なく巾着袋をセットし、籠の蓋を指先で開けてゆさゆさと振る。
イナゴールが袋に移っていくのが、巾着がモゾモゾ動き出したことでわかる。

「これ、持って帰ってシエルに」
「勿論!」
「あ!ねえ、ちょっとでいいからヌコ見せて?」

 言いながら腕を伸ばし、ミッディスの頭を指先でぐりぐりと撫でたカルルドは、兄エーメから蜂蜜の利権を狙われて精神操作されたりしないようにと、もとより護符を持たされているので、自然に放たれる魅了の影響を受けることはない。

「うう~ん!いいなこのもふもふの感じが」

 くふくふと笑うカルルドは、なかなか珍しい。

「可愛いっていうだけで十分に存在する価値があるよ!」

 テイマーとなったドレイファスは、それまでよりずっとよくわかりあえるようになっている。

「ヴァイスとミッディスか、ドルがつけたの?」
「そうだよ、すごく考えた!宿題よりね」

 ふふっと笑って。
一緒に笑ったカルルドは、ドレイファスの名付けた中で過去最高だと思っていた。

 名を呼ばれたと思ったヌコたちが顔を上げると、のそりと主の側により、シュッと飛び上がってドレイファスの双肩それぞれに納まる。

「おっも!毎日大きくなるね」

 ドレイファスが二匹に頬を擦り寄せるのを、羨ましいと思いながら見つめるカルルドは、一度はやってみたい、自分は一匹だけでいいなどと考えていた。





 カルルドと別れて屋敷に戻ると、護衛騎士と交代したレイドを連れ、離れに向かう。
 勿論手にはバサバサ羽音を立てるイナゴールが入った袋を持ち、両肩にヌコたちを乗せたまま。

「ヌコの足はドレイファス様の肩に縫いついているんですかね?」

 ドレイファスが速く歩こうが遅く歩こうが、まったく動じることなく座り続けるヌコたちを見て、レイドがそんなことを呟いたほど、現れてからまだ十日も経たないというのにヌコの居場所は確立されていた。



 ヌコが来た翌日、ドリアンの許可を貰ったドレイファスは、すぐに神殿にスキル購入希望を出してもらった。
 代金は、なんとドレイファスの小遣いニ年分くらい。
実はカルルドのお陰でテイムも人気が出て、買い取り希望が数名いるとのこと。一番高く出せるなら順番を飛ばしましょうと、ちょっと狡い神殿からの申し出にドレイファスは飛びついた。

 数年分貯め込んでいた小遣いから惜しげもなくポンと払ったドレイファスは、久しぶりに神殿に行き、スキル購入と祝福と呼ばれるスキルの確認を受けたのだ。

 ここ数年の神殿長は、どうやら神殿に伝手があるらしい執事マドゥーンの裏工作により、フォンブランデイル公爵家の息のかかった者が就いており、今回のスキル購入時の祝福も、ボラれはしたが他の神官が立ち会うことがないようドリアンがというか、マドゥーンが手配済みである。



 祭壇までで待つ神殿長が、ドレイファスに左手を出すよう促し、言われるまま左手をあげると、ルーハート現神殿長はその手を取って大きな丸いレインボークオーツに手のひらを乗せる。

 ルーハート神殿長は自分の左の親指をドレイファスの額にあて、
「聖なるマンドロイド神より与えられし力により、その秘められたる祝福をあらわし給えーぇ」
と祝詞を奉じながら魔力を流し始めると、クオーツが眩い光を発し始めた。クオーツの光はその下に置かれた銅板へドレイファスのスキルや祝福を写し始める。

 何年ぶりか。

 護衛についているメルクルは、ドレイファスの魔力を捉えてレインボークオーツが発する様々な色の光が礼拝殿の天井や壁をキラキラと照らす様に見惚れていた。

 ─すごいな、こんなのは初めて見たぞ─

 数分ののちクオーツの光は徐々に弱まり、消えていく。

 ─公爵夫人が一緒に来たがったと耳にしたが、ドレイファス様はもう母と出掛ける年じゃないと断ったと聞いたな─

 夫人が何を見たかったのかがわかり、メルクルは自分だけが見てしまって、申し訳ないとほんの少しだけ思った。


 ルーハート神殿長がクオーツの下から銅板を取り外し、チラッと横目に見て目を瞠る。
急に無表情に戻ると、祭壇を下りてドレイファスに手渡した。


魔法属性
─火魔法─
─水魔法─
─風魔法─
─土魔法─
─氷魔法─

加護
─創造の神ランリディアの加護─
─全知の神ミルケライトの加護─

スキル
─テイム─
─自由創造─
─カミノメ─


「確かにテイムも追加されております」
「ありがとうございます」

 視力が優れたメルクルにも、その羅列は見えた。

 ─な、なんだあれは!─

 魔法属性がなくとも、ある程度の魔法は使えるようになるが、極めるには属性が必須と考えられている。
鍛錬し、気づくと属性が増えていることは無きにしもあらず。しかし・・・

 ─豊富な魔力に魔法属性が五つもだと!王国魔術師にだってそうはいないぞ!ドレイファス様は全然使いこなして・・ないな、なんと勿体ない─

 カミノメの問題があり、目立たぬようにしているとはいえ。
メルクルの残念そうな視線に見守られているとは、気づかぬドレイファスであった。



 ドレイファスが帰宅して、両親に銅板を見せたところ、満足そうに微笑まれたが。

「やはりアシルライト様の加護は祝福には現れないものなのだな」

 ドリアンの呟きは誰の耳にも届かなかった。
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