【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる

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兄の嘆き

「おまえがそこまで愚かだとは・・・父上も母上も私だって思ってもいなかった。
学業がそこそこ出来てもダメな者はいるんだな」
「いくら兄上でも失礼じゃないかっ!」
「・・・なあ。自分に弟がいたことを覚えているか?」
「弟?なに言って」
「全く覚えてないのか」

メイガーの真剣な眼差しに、冗談を言っているわけではないとジュルガーも気づく。

「・・・・・死んだ?」

メイガーの瞳に一瞬侮蔑が浮かび、すぐ消える。しかし発せられた声は僅かに震えていた。

「いや生きている。三歳で養子に行ったんだ」
「覚えてないな。でも今その話は関係ないだろ?余所に養子に行ったなら、うちとは無関係だ」
「父上たちも私もそう思っていた、ずっとな。だが、おまえが引き起こした難局を救ってくれたのはソンドールだ」
「ソンドール?」
「そうだ。パートルムとシューリンヒはお祖母様方のくだらん悲願により、今世で必ず子どもたちを娶せ、親戚となって手を携えていくという約束を交わして共同事業をいくつも起こしてきた。
そんな関係をおまえがぶち壊し、一時うちはすべての事業から手を引かされるところだったんだ。うちが事業から離れることで発生する賠償金とリーリルハ嬢への慰謝料も負担してだぞ!
おまけに王家に謝罪までする羽目になった。これだってただ頭を下げたわけじゃない。

おまえがやったのはそういうことだ」

いつもは穏やかなメイガーの声が、低く冷たく響いている。

「最悪の事態から救ってくれたのがソンドールなんだよ」

何か言おうとしたジュルガーだが、兄の圧力に負けて口を閉ざし、おとなしく聞くことにする。

「パートルムとシューリンヒの婚約関係は何が何でも守らねばならなかった。
父上はお祖母様の指示でソンドールの養子先に、そしてシューリンヒ侯爵に頭を下げ、リーリルハ嬢とソンドールの婚約を受けてもらった。
つまりシューリンヒに婿養子に行くのはソンドールということだ」


「なっ!なんで?じゃあ私はどうなる」
「だからおまえが行くところなどないと、何度も言っていただろうがっ!」
「・・・そ、そんな」

漸く事態を正確に理解して俯いたジュルガーに、フンっと漏れた声も冷たかった。

「ソンドールがシューリンヒ家に婿に入ることで、両家の関係は辛うじて守られることになり、有り難いことに事業のすべてが維持された。拠って事業における賠償金は発生せずとシューリンヒ侯爵からの言質も頂いた。
またパートルム公爵子との婚姻が約束されている以上、婚約者の入替えに過ぎないと破棄による慰謝料も不要と言ってくれてな。
ソンドールの存在がすべてを丸く収めてくれたんだ」
「何を言ってるんだ兄上!そいつは私が得るべきだったものを横取りしただけじゃないか!」

落ち着いて話そうと努力してきたメイガーだが、逆ギレしたジュルガーの言葉に堪忍袋の緖が切れた。

「横取りされるような事態にしたのはおまえだろうがっ!」

思わず手が出そうになるほどの強い怒りがメイガーの体内を駆け巡る。
普段穏やかな人間が腹の底からの怒りを発すると、より恐ろしく感じさせるものだ。

殴られると勘違いしたジュルガーは頭を抱えてしゃがみ込む。

「まったく情けない奴だな。
罪を問われこそしなかったが、不敬罪の片棒を担いだおまえは、もう国内では生きようがない。父上はせめてもの情けとアルムナイのルガン男爵におまえを預けるつもりだった。だが、ことが起きて謹慎の身となっても、おまえは反省することもなく、シューリンヒに入り込むつもりでいた。
そんな愚かで恐ろしい考えを持つ者を他家に預けるなど許されぬ、また市井に放って万一、リーリルハ嬢やソンドールを逆恨みし、害をなすようなことがあっては大変だ」

そんなことはしないと言いかけたが、兄の言うとおり、リーリルハと記憶にない弟ソンドールへの怒りが心中に滾っていると気づいたジュルガーは、いずれ膨らむだろう自身の念を見透かされ、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

「父上、そして次期公爵の私が決定する。既に貴族籍を抜かれた一平民ジュルガーは、パートルム領ドメルガに置いて生涯幽閉とす」
「そんなっ!」

ドメルガは縦に長いパートルム領最北の、寒さの厳しい僻地である。

そんな所に一生幽閉されるなんて!

立ち上がろうとしたジュルガーは衛兵たちに押さえ込まれ、今度は明らかな意図を持って室内に監禁されることになった。

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