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呪われたエザリア

前日

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「にゃにゃっ?」

(明日?明日って言ったの?ねえ!)

 頭をぐりぐりされながら、エザリアはジョルを見上げた。

 じわっと涙が浮かんでくる。

 ジョルは猫の大きな水色の瞳が潤んだのを見てハッと手を止めた。

「だ、大丈夫か?」
「にゃあん」

 頭をジョルに擦り付けながら、その瞳からぽたりぽたりと水滴が溢れる。

 猫にされてからエザリアは初めて泣いていた。
不安でたまらなかったが、シュマーたちへの怒りと生き抜かねばという気持ちに支えられ、泣く余裕はなかったのだ。
 サリバー男爵家に戻った頃には、父が何とかしてくれると安心して待つことができた。
猫になった我が身を嘆くことなど思い出しもしなかったのだが。

「ぐすっ」

 白猫は人の子のように泣いていた。


 肩を震わせる白猫を、ジョルは思わず抱きしめる。
がっしりした騎士の広い胸に顔を埋め、にゃんにゃんと小さな声を漏らしながらエザリアは気が済むまで泣いたのだった。





「落ち着いたか?」
「にゃん」
「うん。よかったな。明日また来るんだが、その時はご令嬢に戻ってるんだなあ。もうこんな抱っこもできんなハハ」

 よく考えたら貴族のご令嬢を膝に乗せているのだと今更気がついて、ジョルが笑う。

「あとでセインにも教えに行くから、きっと来ると思うぞ」
「にゃっ」

 人間に戻れるのは勿論だが、セイン情報もエザリアの気持ちをぐいっと上げた。



 サリバー男爵家を出たジョルは、次にセインの店に向かう。猫のエザリアは今日が見納めだと教えるために。

「おーいセインいるか?」

 ノックもせずに小屋の扉を開けると、エプロンをしたスミルが出迎えた。

「あ、れ?」
「ジョルさん!こんにちは。今度から店番することになりましたんで、よろしくお願いします」
「商会辞めたのか?」
「いえいえ、商会から派遣されてセインの手伝いしてます」
「魔法薬作りか?」
「違いますよ、俺が店番すればセインが薬作りに専念できますからね。今ブラス様がセインの弟子を探してるところで、見つかればもっと作れるようになるかもしれないっす」

 ジョル・ドレイラの脳裏にブラス・サリバーの顔が浮かぶ。

 魔女の魅了にやられはしたが、さすが国内でも有数の商人だけあり、起き上がる時に掴んだ草、もといセインをがっちりと握って活かすつもりかと感心した。

「セインと今話せるか?」
「たぶん大丈夫、ちょっと座っててください」

 足音が小さくなったと思うと、また戻ってくる。

「やあジョル!」

 最初はドレイラ様だったが、護衛のため共に暮らすうちにジョルさんになり、今やジョル呼びをするセインを、騎士は笑顔で出迎える。

「数日来ないうちに、スミルを店番にしたそうだな」
「ああ。男爵様から言われてね。頼まれる量が前より多くなったからすごく助かってるんだ!」
「そうか、仕事も順調そうでよかったな。ところでエザリア嬢だが」

 言いかけたジョルに飛びつくようにセインが食いつく。

「う、うむ。魔女が明日処刑されることが決まったそうでな」
「え!本当に?ってことは」
「ああ。エザリア嬢は漸く元の姿に戻れるんだ」

「「やったー!」」

 セインとスミルは声を揃え、拳を振り上げた。

「よかったなあ、やっと元に戻れるんだ」

 感極まったように呟くセインはいい人オーラ全開だ。

「セイン、それでな。猫姿見納めだぞって言いに来たんだ」

 男たちはハッと顔を見合わせた。
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