【完結】呪われ令嬢、猫になる

やまぐちこはる

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恋は迷路の中

再会

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セインを追いかけ回していたエザリアがブラスに接近禁止を言い渡されたとき、勿論エザリアは不服を述べた。
しかし味方だと思っていたスミルからも、しつこくされるほどセインが受け入れられなくなるのだから、少し引いてやったほうがいいと諌められ、渋々我慢することにした。

それが。

「え?よろしいの?セインに会っても?」

長らく第二支店に行かされていたエザリアは、帰宅した父に呼ばれ、週に一回づつセインに仕事で接する機会を持ってもいいと言われて、うれしそうに頬を染めた。

陰から見つめるだけになって、より一層想いを深めていた。

「今度こそ、猫のわたくしよりかわいいと言わせてみせるわ」




ゾクっ!

背筋に冷たいものを感じ、振り向いたセイン。
しかしそこにはきれいに並べられた薬瓶だけ。

「なんだ今の」
「どうした?」

セインの独り言にスミルが反応した。

「なんか寒気がして」
「風邪でも引いたんじゃないのか?このところ忙しいし、あんまり無理するなよ」

森の家でのスミルとの二人暮らしもあと少しで一年になろうとしている。
気楽な男同士、ドカッと焼いた肉を大盛りにして夜っぴき語り明かしてしまったりもして、実に楽しい毎日だ。時折ジョルやロンメルンたちもやって来て、セインの暮らしは親しい者に囲まれた賑やかで幸せなものになっていた。

ただあたたかくてふわふわした猫だけがいなかった。



「それは考えないようにしよう」

またポツリと独り言。

「ん?」
「なんでもない。今日はもう休むことにするよ」



手を振り、自室に戻るとベッドに転がる。

(ここにいたんだよな・・・)

もうとっくに消えてしまった、布団にできた丸いくぼみを思い出す。
枕元で、スヤスヤと眠っていた白猫が懐かしく恋しい。
でもあの猫はエザリア・サリバーに戻り、どこを探したとしても、二度と会うことはできないのだ。

「エザリア」

名を呼び、白猫のあたたかさややわらかさを思い出そうとすると、美しい令嬢の顔が浮かぶ。

白猫の記憶が令嬢エザリアに上書きされ、消えつつあることが悲しく、寂しさが胸を満たしていった。






翌日サリバー商会にセインが行くと、エザリアがいるのが見えた。
半年ぶりくらいだろうか?

「おはようセイン!お久しぶりね」

キラキラと輝くエザリアがやってくる。

以前だったら緊張を隠せずに目を逸らしてしまっていたが、今朝のセインは不思議と気負わずに目を合わせることができた。

(なぜだろう)と思いながら答えている。

「久しぶり」
「元気そうね」

そう。以前のエザリアは瞳をギラつかせ、躙り寄る肉食獣のような迫力があったが。久しぶりに会ったエザリアからはそのギラつきを抑え、穏やかな笑みを浮かべている。




セインを諦めない!というエザリアの強い気持ちは、ブラスに無理矢理時間と距離を置かされたことで、抑制がきくようになり、寧ろ熱く頑強な想いに練り上げられていた。

しかし、顔には出さない。

穏やかで心優しいセインが何を苦手と感じるかを分析したエザリアは、ブラスに解禁されたらどう攻めるか、いろいろと考えてきたのだ。



セインと視線を合わせながら挨拶ができたことで、エザリアはほくそ笑む。
最初の一手が大切、前はあまりにも正攻法過ぎたのだ。しかも力強く積極的過ぎた。

森に籠もっていたときより自信と仕事への責任が育ち、傍から見てもしっかりとしてきたセイン。

エザリアやブラスの意向を知る女性の使用人たちが、セインに色目を使うことはないが、客の中に若き魔法医薬師のセインを食事に誘おうとする者が現れたため、ブラスが使用人をセインに付けるようになった。

大丈夫、焦らないでと自分に言い聞かせる。

あくまでも冷静な、セインなんて気にしていない顔で。
でも本当は一挙手一投足が気になってたまらないのだけど。

心のうちを上手く隠して、エザリアはセインに笑いかけた。
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