【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる

文字の大きさ
26 / 44

26話

しおりを挟む
 メーリア伯爵家の車寄せには続々と貴族たちが集まっていた。

 今日の招待客は、普段から付き合いがある家とメーリア領に復興支援をしてくれた家のみ。それでもかなりの人数が来ているが、気心のしれた家がほとんどなので社交がひさしぶりのメーリアの人々にとってはちょうどよいリハビリのようなものでもある。

 食事やドリンク、サラが用意したデザートがテーブルに並び、ダンスを楽しんだ合間に好きなタイミングで食事なども自由にできる。
 ただ夜会で目一杯食事をする者はそう多くはなく、大抵は軽食とドリンク、女性がデザートを楽しむくらい。
 立食しやすいように、サラはデザートすべてを通常のものよりさらに小さく、デコレーションしたクリームが口を汚さないくらいのサイズに切り揃えて食べやすくしていた。
 気兼ねなく楽しみ、味わってもらえるようにと。




「サラ!招待客が集まったそうだ。始めるからお前も来なさい」

 父デードに呼ばれて、家族たちが入場する一番後ろを目立たぬように少し離れてついていく。

「まあ、貴女!サラさんでは?」

 誰かに呼ばれて振り返ると。

「あ!」

 ザニ・タイリユ子爵とエラ夫人、ザイアがいた。

「こんにちは!いつもありがとうございます」

呆然と立ち尽くすザイアの背中を軽く叩いて、エラが挨拶を促した。

「今日の貴方はとても美しいです!」

 ザイアは目を見張り、挨拶より先に彼らしくない褒め言葉を口から漏らしたが、サラは顔を赤らめてほわりと笑んだ。

「大きなパーティーのスイーツを請け負われたとおっしゃられていたので、もしかしたらこちらかなかなと思っておりましたが。私はスイーツが楽しみでなんとか来られましたよ」

 小さな声でザイアが言って笑う。
その言葉でサラはザイアが気が進まぬ中を来たのだと勘づいた。
申し訳なく思いながら、家族の後を追うためにカーテシーをする。
 それを見たザイアも、さすがにサラが貴族だと納得した。
 サラがついてきていないことに気づいたデードが戻ってきて、サラと言葉を交わすタイリユ家に声をかける。

「おや!これはご無沙汰しておりましたな、タイリユ子爵!エラ夫人とザイア殿もよくいらしてくださった。サラは皆様と面識があったのか?」

「えっ!」

サラも、エラもザイアも、その時初めてお互いの名を知った。

「サラさ・・・まは、メーリア伯爵様のご令嬢・・でございましたか」

 エラとザイアはサラの出自を知り、貴族令嬢がスイーツショップで店員をせざるを得なかった理由に思い当たる。

 ソイラのせいだ・・・

 エラは絶望した。
 いくらザイアが彼女を好ましく思ったとしても、メーリア家からタイリユ家には来てもらえないだろうと。
 せっかくよい相手が見つかったかと思ったのに、よりによって相手がメーリア伯爵令嬢で、しかもソイラが婚約解消の原因となったサラだったとは。

 ザイアも。
 美しい伯爵令嬢が手をあかぎれだらけにして働かねばならなかったのは、ソイラがしでかしたせいだと思うと、胸が捩れそうな痛みに苛まれた。

「タイリユ子爵家の皆様でこざいましたのね。存じ上げず今まで失礼をいたしました。改めましてサラ・メーリアと申します」

 きょとんとした父に説明する。

「スイーツのお客様でいらっしゃるの。いままでお名前を伺う機会がなかったものですから」
「そうだったのか!それはありがとうございます。これはどうも貴族らしからぬところがありまして、常々自立したいのだとものすごく頑張っておりましてな。これからもどうぞよろしくお願いいたします」

 デードは、ふとザイアに気づいて訊ねた。

「今日奥方はご一緒ではないのかね」

 ザイアが恥ずかしそうに中途半端な笑いを浮かべて言い訳をする。

「いえ、実はまだ未婚故、一人で参りました」
「未婚?婚約者がいたと記憶しているがどうされた?」
「お恥ずかしながらあのときに破棄されまして」

 エラ夫人が口を挟む。

「そうだったのですか!それは災難でしたな。新たな婚約者もまだ?そうでしたか。
結局タイリユ子爵家とあの娘とはまったく縁もなかったと聞きましたが、まあそんな薄情な婚約者はこちらから願い下げですな。
お互い被害者同士、これからもよろしくお願いいたします」

 デードはサラを連れて行こうとして、ふと足を止めた。

「そうだ!実は今日は娘のエスコートを私がしているのですが、妻もおって手が足りないのです。お一人でいらしたなら、よかったらザイア殿にエスコートをお願いできませんかな」

 ダメ元で軽い気持ちで言っただけ。
 以前のザイアの印象がよかったので、彼が加害者家族だったことを惜しいと思っていた。
 騙された子爵本人はともかく、夫人やこどもたちは完全な被害者にも関わらず、婚約を破棄されて未だにひとりでいると言うのだ。しかも既にあの娘は子爵家の者ではなかったと判明している。
 何というか、これはもしかしてかなりいい出会いではないか?とデードの頭の中で閃いていた。


「そんなお父さま!タイリユ子爵家の皆様にもご都合がおありでしょう。まして普段店員として働く私をご存知の方に失礼ですわ」

 サラはデードの言葉を打ち消そうとでもするかのように、手を振って空気をかき混ぜている。

「いえ、それは我が家としても願ってもないことですわ。ねえザイア!ねっ?」

 絶望の淵から、デードがおろしてくれた希望の光にエラ夫人が飛びつき、そのチャンスをザイアに掴ませようとした。

「私たちメーリア一族は、タイリユ子爵家の皆様とあの娘は完全に切り離して考えております故、ご安心ください」

 それを聞いたエラ夫人が、ほぅっと息を吐いて深く頭を下げた。

「ありがとうございます、心より感謝いたします」

 存在感が消え去ったザニには話の展開が見えないが、エラがいつになくいきいきとメーリア伯爵と渡り合っているのでおとなしく成り行きを見守っている。

「では我が娘サラをお願いしても?」

 デードはザイアの目を見て、返事を促す。

「そのお役目、喜んで承ります」

 満足げに笑ったデードはサラを残し、招待客への挨拶へと向かって行った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】20あなたが思っている通りにはいきませんわ。

華蓮
恋愛
ユリアスとオリンピアは、もうすぐ結婚式を挙げる。 幸せな生活が続くはずだったのに、隣国から要請により、人質になることになった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い

希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。 一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。 ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。 その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。 彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。 しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

処理中です...