4 / 75
4
しおりを挟む
パルティアは、オートリアスを深く愛していたわけではなかった。
ただ長く婚約しており、それなりに情もあったので、このように急に切り捨てられたことが深い傷となって涙が止まらなくなったのだ。
「もう三日も泣き続けておりますわ」
「食事も摂っていないのであろう?」
「ええ、このままでは衰弱してしまいます」
スーラが悲しげに眉を寄せる。
「ここにいるとどうしてもオートリアスのことを思い出してしまうのではないだろうか?一度静養に出してみようか」
カーライルは知る人もなく、またパルティアに何の思い出もない観光地エリシドを選び、貸コテージを準備させると屈強な護衛騎士八人と侍女ニーナたち六人、副料理長と料理人三人を馬車五台に乗せて送り出したのだった。
「パルティア様、あちらに着きましたらごゆっくりなさいませね」
馬車でもニーナがつきっきりで看病するが、うんともすんとも言わず。心が弾けてどこかへ行ってしまったようなパルティアに、侍女たちは皆涙に暮れていた。
丸2日の旅を終え、湖畔にある閑静な町エリシドについて馬車を下ろされたパルティアがようやく一言だけ。
「きれいなところね」
そう呟くと、侍女だけでなく護衛騎士たちまでが
「パルティア様がお話しになられた!」
と泣き出した。
それを見たパルティアは深く反省する。
「皆さん、本当に心配かけてごめんなさい。まだ心から笑ったりはできないのだけど、今までのように黙りこくることはしないように気をつけるわ」
使用人たちひとりひとりの手を握り、謝った。
その夜、とても久しぶりに食事を摂ったパルティアは、料理人たちに美味しかったと礼を言って、また皆を泣かせていた。
あまりたくさんは食べられなかったが、料理人たちの心遣いを感じて一口でも多く食べようと努力して。
翌朝は護衛騎士とニーナと湖畔の散歩から始めた。
早朝にも関わらず、たくさんの人々が歩いている。
半分以上は地元の領民で、ちらほらと貴族らしき者が交じっている。今は避暑の季節ではないので、療養に来ているかリタイヤして住み着いているかのどちらかであろう。
ふと、その中にとても悲しそうな表情の美しい青年を見つけた。今にも崩れ落ちそうに、今にも泣き出しそうに湖畔に佇む青年は、まるで昨日までの自分のように思えて、パルティアは目が離せなくなった。
青年は小石を一つ、湖に投げ込むとふらりふらりと林の中へと消えていく。
その背中を心配気に見守ったパルティアは、自分を支える使用人たちの気持ちを痛感し、別荘に戻るともう一度改めて皆に謝罪と感謝の気持ちを伝えたのだった。
ただ長く婚約しており、それなりに情もあったので、このように急に切り捨てられたことが深い傷となって涙が止まらなくなったのだ。
「もう三日も泣き続けておりますわ」
「食事も摂っていないのであろう?」
「ええ、このままでは衰弱してしまいます」
スーラが悲しげに眉を寄せる。
「ここにいるとどうしてもオートリアスのことを思い出してしまうのではないだろうか?一度静養に出してみようか」
カーライルは知る人もなく、またパルティアに何の思い出もない観光地エリシドを選び、貸コテージを準備させると屈強な護衛騎士八人と侍女ニーナたち六人、副料理長と料理人三人を馬車五台に乗せて送り出したのだった。
「パルティア様、あちらに着きましたらごゆっくりなさいませね」
馬車でもニーナがつきっきりで看病するが、うんともすんとも言わず。心が弾けてどこかへ行ってしまったようなパルティアに、侍女たちは皆涙に暮れていた。
丸2日の旅を終え、湖畔にある閑静な町エリシドについて馬車を下ろされたパルティアがようやく一言だけ。
「きれいなところね」
そう呟くと、侍女だけでなく護衛騎士たちまでが
「パルティア様がお話しになられた!」
と泣き出した。
それを見たパルティアは深く反省する。
「皆さん、本当に心配かけてごめんなさい。まだ心から笑ったりはできないのだけど、今までのように黙りこくることはしないように気をつけるわ」
使用人たちひとりひとりの手を握り、謝った。
その夜、とても久しぶりに食事を摂ったパルティアは、料理人たちに美味しかったと礼を言って、また皆を泣かせていた。
あまりたくさんは食べられなかったが、料理人たちの心遣いを感じて一口でも多く食べようと努力して。
翌朝は護衛騎士とニーナと湖畔の散歩から始めた。
早朝にも関わらず、たくさんの人々が歩いている。
半分以上は地元の領民で、ちらほらと貴族らしき者が交じっている。今は避暑の季節ではないので、療養に来ているかリタイヤして住み着いているかのどちらかであろう。
ふと、その中にとても悲しそうな表情の美しい青年を見つけた。今にも崩れ落ちそうに、今にも泣き出しそうに湖畔に佇む青年は、まるで昨日までの自分のように思えて、パルティアは目が離せなくなった。
青年は小石を一つ、湖に投げ込むとふらりふらりと林の中へと消えていく。
その背中を心配気に見守ったパルティアは、自分を支える使用人たちの気持ちを痛感し、別荘に戻るともう一度改めて皆に謝罪と感謝の気持ちを伝えたのだった。
232
あなたにおすすめの小説
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる