【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

文字の大きさ
7 / 75

7

しおりを挟む
「わかった、わかったからそんなにあの、口に放り込むのを止めてくれないだろうか」

 飲み込むとすぐ次、すぐ次と、どんどんと飲ませようとするパルティアに音を上げた。

「そんなに続けざまに飲ませられたらスープで溺れてしまう」
「まあ、よろしいではありませんか!溺れたかったのでしょう?ささっ、どうぞどうぞ」

 そう言って笑いながら、またスープを飲ませようと待ち受けるのだ。

「ああ、もう貴女ってひとは」

 とうとう青年まで笑い始める。

「はっ、ははは。・・・・ああ、久しぶりに笑ったな」

 満面幸せそうににっこにこのパルティアを見て、自分の笑い声が彼女を笑ませたと気づいた青年は、もう一度照れくさそうに少しだけ笑って見せた。

「申し遅れました、私エンダライン侯爵家の長女パルティアと申します」

 青年は驚いたような顔をした。そして言いにくそうにこう名乗った。

「私は・・・ランバルディ・セリアズ公爵の次男アレクシオスと申します」
「え?セリアズ公爵のご令息?それってまさか?」
「ああ、たぶんそのまさか・・・かと」

 オートリアスの駆け落ち相手、ライラ・シリドイラ侯爵令嬢の婚約者・・・。

「私、よくあの湖畔で貴方をお見かけしていたのです。辛そうな悲しそうな姿はまさにここに来た頃の私だと思いましたの。だから助けなくてはと思ったのですけど、どうやら本当に私は私自身を助けたようですわね」

 ちょっとだけ肩を竦めて、困ったように笑って見せた。

「セリアズ公爵ご令息様」
「私は貴女にお助け頂いた身、アレクシオスで結構です」
「では、私のこともパルティアとお呼びになりますわね」
「え」
「どうぞ。パルティアとお呼びになってみて」
「え、いや、あの、え、エンダライン侯爵ご令嬢・・・」
「では私もセリアズ公爵ご令息様とお呼びしますわ」

 ふっ、ふふっとどちらともなく笑い出す。

「ああ、貴女と話していると自然と笑ってしまうな」
「ええ、私もですわ」

 ふともの思いに耽ったパルティアが、はっきりとアレクシオスに視線を合わせた。

「しばらく社交界は私たちを気の毒がるでしょうけれど、セリアズ公爵ご令息様はもうひとりではありませんわ。これからは私という同志がおりますから、それをお忘れなく」
「あ、ああ、ありがとう。私のこともそう思ってくれたらうれしい。あの・・・やはり、その呼び方はちょっとあれだと思いませんか?アレクシオスと。私もパルティア様とお呼びしますから」

 たった今、アレクシオスは自ら一歩踏み出した。

「ええ、そうですわね!私もそれがよろしいと思いますわ、アレクシオス様」

 期せずして同じ傷を負った二人。
それぞれを心配した親の偶然の思いつきで、エリシドで巡り逢うことになったのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

処理中です...