【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

文字の大きさ
16 / 75

16

しおりを挟む
 馬車の旅を無事に終え、エンダライン侯爵家へ帰還したパルティアを、両親たちは待ち侘びていた。

「只今戻りました!長い旅に出してくださり御礼申し上げます、お父さまお母さま」

 すっかり顔色もよくなり、旅の疲れすら見せない晴れやかな笑顔をしている。
 スーラは涙を浮かべてパルティアを抱き寄せ、美しい金色の髪をやさしく撫でると、二人をまるごとカーライルが抱きしめる。

 パルティアは両親が自分をどれほどの愛で包んでいてくれたかを痛感し、抱きしめられたままもう一度、その気持ちを言葉に表した。

わたくし、お父さまとお母さまのこどもで本当にしあわせです。生んで育ててくださって感謝しております」

 それはスーラの涙腺を刺激し、カーライルは嗚咽が止まらなくなった。

 ─セリアズ公爵様もアレクシオス様を抱きしめて目を赤くされていらしたわ。きっと今のお父さまやお母さまと同じ気持ちでいらしたのね─

 両親のあたたかさとアレクシオス、田舎町の平民の少女たちとの出逢いが、確実にパルティアを大きく成長させていた。

「そうだ、セリアズ公爵家のご令息の話を聞かせてくれないか?」
「まあ、貴方ったら!今戻ったばかりなのに休ませもしないとおっしゃるの?」

 スーラに叱られて素直に謝り頭を掻くカーライルが、なぜか可愛く見えたパルティアが吹き出してしまう。愛おしい両親に腕を伸ばしてもう一度、ぎゅうっと抱きしめた。




 湯浴みをして一休みするともう夕餉の時間である。

「久しぶりの我が家の味だわ」

と言っても料理長の我が家の味なのだが。

「そうだ!料理長にだれか紹介してもらおうかしら」

 蛇の道は蛇。
その道を歩く者に尋ねる方がよい人材に早く出会えるのではないかと思いつき、すぐ実行する。

「パルティア様、そろそろダイニングに参りませんとお時間ですわ」
「ちょっと厨房に寄りたいの」
「お食事のあと、お礼がてらまわられたらよろしいのではございませんか?」

 ニーナの言うこともごもっともである。
忘れないように何度か口の中で呟いてから、両親の待つダイニングへと足を向けた。

「ゆっくり休めたか?」

 カーライルは今度は失敗しない。
ちょっとどやっていたが、スーラもやさしく笑って見せた。

 夕餉が始まると、待ちきれなかったようにカーライルがアレクシオスのことを聞きたがる。

「アレクシオス様は私にとって得難い仲間でございますわ!同じ経験をしたことで、誰より深くわかりあえる、分かち合える同志なのですっ!」

 鼻からフンと息を吐きそうな勢いで、パルティアが言い放ったのを見て、スーラは楽しそうにころころと笑って。
カーライルは呆気にとられていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

処理中です...