40 / 75
40
しおりを挟む
パルティアは、ゾロアにデリスと同じ匂いを感じていた。
─不動産を扱う地場の商会なら数字に強い上、メンシアに人脈があり、しかも貴族─
「ドロアド男爵」
そう呼ぶと、ゾロアは恐縮して頭を下げた。
「ゾロアで結構でございます」
「そう、ではゾロア様、私のこともパルティアとお呼びくださいな」
「め、滅相もない」
「これから貴方の力をたくさん借りようと思っておりますのよ、私。毎回エンダライン侯爵令嬢パルティア様とか呼ばれたらまだるっこしくてたまりませんわ。はい、パルティアと呼んでみて」
ゾロアが困ってニーナを見ると、こくこく首を振っている。
しかたなさそうに恐る恐るという体で。
「ぱ、パルティア様」
呼んだゾロアに「よろしくてよ」と気持ちよさそうに笑ってみせた。
「一度エルシドの施設をゾロア様に見てもらいたいわ」
「あのパルティア様、様はお止め頂けないでしょうか?ムズムズします」
「そうですわ、パルティア様。ゾロアに様など不要でございます」
自分で言うのはまだわからないでもないが、ニーナにまでばっさりやられて肩を竦めたゾロアに、パルティアは吹き出して笑い続けている
「パルティア様、笑いすぎですわよ」
「ご、ごめ・・なさ」
ニーナのお陰で早くも打ち解けたゾロアに、今考えていることを伝えていく。
「すると、山の中に拓かれた静かな広い土地と、そこに行くための整備された山道、貴族相手でも十分に対応できる地元の使用人・・・は平民でもよろしいのでしょうか?」
「エルシドは支配人と護衛以外は、メイド長以外すべて地元平民を雇っていますの。でもメイド長や支配人たちがしっかり教育しているから、まったく遜色なく仕事をこなしていますわ。それも貴方に一度見てもらいたいと思っております」
ゾロアも土地を扱う商人なので、エルシドの静養施設について話を聞いたことはあった。静養に来る貴族が増え、町が活性化されて大変な利益を産んでいると。
しかしその利益は経営する貴族の懐に入っているものだと思っていたのだが、パルティアの話を聞くとどうも違うようだと気づいた。
「ん?そうね、もちろん私や共同経営者にも利益が入るわ。でも元は、良い仕事に就く機会が少ない地元の平民たちに教育を施して、永続して安心して働いてもらうために作ったのよ。だからメンシアに施設を作るとしたら、地元の平民を雇わなくては意味がないの」
こともなさげに言うパルティアの、平民に対する愛情に驚く。
「しかし、エンダライン侯爵の領地でもないのになぜそこまで?」
「私、いろいろあってエルシドで静養しているとき、平民の少女たちと親しくなりましたの。彼女たちから教えられた話は、傷ついた私の辛さなどとは全然違う。私たち貴族は安定した生活の上で傷ついたり笑ったり喜んだりしているけれど、平民には安定した生活すらないものがたくさんいると知ったのですわ」
ふうっと息を吐く。
「私がしていることは、ごく一部の者に手を差し伸べているだけだということはわかっておりますの。でも、ほんの一握りの人にでも良い仕事に就く機会が作れたら、それでも十分だと・・いえ、そう思おうとしているだけかもしれませんわね」
珍しくパルティアがそんなことを言ったので、ニーナが前に歩み出た。
「パルティア様、メニアたちだけではございませんわ!あの施設ができてから、その周囲のどれほどの平民に仕事が増えたことか。パルティア様が作ったのは一つの施設ですが、それをきっかけにみんなが頑張れるようになったのですわ」
─不動産を扱う地場の商会なら数字に強い上、メンシアに人脈があり、しかも貴族─
「ドロアド男爵」
そう呼ぶと、ゾロアは恐縮して頭を下げた。
「ゾロアで結構でございます」
「そう、ではゾロア様、私のこともパルティアとお呼びくださいな」
「め、滅相もない」
「これから貴方の力をたくさん借りようと思っておりますのよ、私。毎回エンダライン侯爵令嬢パルティア様とか呼ばれたらまだるっこしくてたまりませんわ。はい、パルティアと呼んでみて」
ゾロアが困ってニーナを見ると、こくこく首を振っている。
しかたなさそうに恐る恐るという体で。
「ぱ、パルティア様」
呼んだゾロアに「よろしくてよ」と気持ちよさそうに笑ってみせた。
「一度エルシドの施設をゾロア様に見てもらいたいわ」
「あのパルティア様、様はお止め頂けないでしょうか?ムズムズします」
「そうですわ、パルティア様。ゾロアに様など不要でございます」
自分で言うのはまだわからないでもないが、ニーナにまでばっさりやられて肩を竦めたゾロアに、パルティアは吹き出して笑い続けている
「パルティア様、笑いすぎですわよ」
「ご、ごめ・・なさ」
ニーナのお陰で早くも打ち解けたゾロアに、今考えていることを伝えていく。
「すると、山の中に拓かれた静かな広い土地と、そこに行くための整備された山道、貴族相手でも十分に対応できる地元の使用人・・・は平民でもよろしいのでしょうか?」
「エルシドは支配人と護衛以外は、メイド長以外すべて地元平民を雇っていますの。でもメイド長や支配人たちがしっかり教育しているから、まったく遜色なく仕事をこなしていますわ。それも貴方に一度見てもらいたいと思っております」
ゾロアも土地を扱う商人なので、エルシドの静養施設について話を聞いたことはあった。静養に来る貴族が増え、町が活性化されて大変な利益を産んでいると。
しかしその利益は経営する貴族の懐に入っているものだと思っていたのだが、パルティアの話を聞くとどうも違うようだと気づいた。
「ん?そうね、もちろん私や共同経営者にも利益が入るわ。でも元は、良い仕事に就く機会が少ない地元の平民たちに教育を施して、永続して安心して働いてもらうために作ったのよ。だからメンシアに施設を作るとしたら、地元の平民を雇わなくては意味がないの」
こともなさげに言うパルティアの、平民に対する愛情に驚く。
「しかし、エンダライン侯爵の領地でもないのになぜそこまで?」
「私、いろいろあってエルシドで静養しているとき、平民の少女たちと親しくなりましたの。彼女たちから教えられた話は、傷ついた私の辛さなどとは全然違う。私たち貴族は安定した生活の上で傷ついたり笑ったり喜んだりしているけれど、平民には安定した生活すらないものがたくさんいると知ったのですわ」
ふうっと息を吐く。
「私がしていることは、ごく一部の者に手を差し伸べているだけだということはわかっておりますの。でも、ほんの一握りの人にでも良い仕事に就く機会が作れたら、それでも十分だと・・いえ、そう思おうとしているだけかもしれませんわね」
珍しくパルティアがそんなことを言ったので、ニーナが前に歩み出た。
「パルティア様、メニアたちだけではございませんわ!あの施設ができてから、その周囲のどれほどの平民に仕事が増えたことか。パルティア様が作ったのは一つの施設ですが、それをきっかけにみんなが頑張れるようになったのですわ」
198
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる