8 / 63
第8話
しおりを挟む
「ねえスミール様、聞いていらっしゃるかしら?今私の父がスミール様のお父様との商談で領地から来ておりますのよ」
いつものようにともにランチをとりながらゴールディアはカマをかけた。
「そ、そうなんですね、知りませんでした」
小さな、風に流されて消えそうな声だ。
「そう、スミール家の皆さまを晩餐にご招待したと聞いているのだけど、それもご存知ないのかしら」
チラッと視線を寄越し、また目を伏せる。
膝にこぼれたパン屑を小鳥に投げながらも、落ち着かない仕草にビュワードの心が表れていた。
「スミール様も必ずいらしてね。お待ちしておりますわ」
念を押すと困ったような顔で、頷くような首を振るような曖昧な返事をした。
行きたくてもきっと行けないと言いたかった。どうせ自分の願いが叶うことはないと思うと、ビュワードは虚しくてそれを言葉にすることすらできなかった。
「ゴールディア、彼の様子はどうだ?」
「今日、招待のことを伝えたのだけど、聞いていないそうですわ」
「そうか・・・。万一明日その令息が来なければ、私に考えがある」
アクシミリオは、真顔でゴールディアに考えていたことを打ち明ける。
「しかし、流石にそんなことはしないだろうがな」
翌日。ゴールディアはいつもと同じようにビュワードとランチのサンドイッチを頬張った。昼休みが終わり、それぞれのクラスに分かれていく時に、手を振りながらゴールディアはもう一度念を押す。
「今夜ですわね、きっといらしてね」
予想通り、反応しないビュワードだが。ゴールディアはどちらに転んでもビュワードの力になろうと心を決めていた。
「おお、ゴールディアすごく綺麗だよ!」
晩餐に向けて来客を迎える準備を終えたゴールディアが、父の待つ応接室に姿を見せると、すたたたと小走りに駆け寄ったアクシミリオは頭の天辺から足の爪先まで順を追って褒め倒していく。
こうして育てられたゴールディアは、自分が最高の存在だと信じて疑ったことがない。
─スミール様は褒められたことあるかしら、さすがにあるわよね・・─
いつもおどおどとびくついているビュワードを見ていると、顎を掴んで顔を上げさせてやりたくなる。もちろんやらないが。
顔を上げ、背筋を伸ばして歩くだけでも別人のようになるだろう。しかしそれは人としてごく当たり前のことだ。
当たり前に顔を上げることも、背筋を伸ばすこともできなくなるほどにビュワードを痛めつけた家族に対し、ゴールディアの怒りは大きくなる一方だった。
いつものようにともにランチをとりながらゴールディアはカマをかけた。
「そ、そうなんですね、知りませんでした」
小さな、風に流されて消えそうな声だ。
「そう、スミール家の皆さまを晩餐にご招待したと聞いているのだけど、それもご存知ないのかしら」
チラッと視線を寄越し、また目を伏せる。
膝にこぼれたパン屑を小鳥に投げながらも、落ち着かない仕草にビュワードの心が表れていた。
「スミール様も必ずいらしてね。お待ちしておりますわ」
念を押すと困ったような顔で、頷くような首を振るような曖昧な返事をした。
行きたくてもきっと行けないと言いたかった。どうせ自分の願いが叶うことはないと思うと、ビュワードは虚しくてそれを言葉にすることすらできなかった。
「ゴールディア、彼の様子はどうだ?」
「今日、招待のことを伝えたのだけど、聞いていないそうですわ」
「そうか・・・。万一明日その令息が来なければ、私に考えがある」
アクシミリオは、真顔でゴールディアに考えていたことを打ち明ける。
「しかし、流石にそんなことはしないだろうがな」
翌日。ゴールディアはいつもと同じようにビュワードとランチのサンドイッチを頬張った。昼休みが終わり、それぞれのクラスに分かれていく時に、手を振りながらゴールディアはもう一度念を押す。
「今夜ですわね、きっといらしてね」
予想通り、反応しないビュワードだが。ゴールディアはどちらに転んでもビュワードの力になろうと心を決めていた。
「おお、ゴールディアすごく綺麗だよ!」
晩餐に向けて来客を迎える準備を終えたゴールディアが、父の待つ応接室に姿を見せると、すたたたと小走りに駆け寄ったアクシミリオは頭の天辺から足の爪先まで順を追って褒め倒していく。
こうして育てられたゴールディアは、自分が最高の存在だと信じて疑ったことがない。
─スミール様は褒められたことあるかしら、さすがにあるわよね・・─
いつもおどおどとびくついているビュワードを見ていると、顎を掴んで顔を上げさせてやりたくなる。もちろんやらないが。
顔を上げ、背筋を伸ばして歩くだけでも別人のようになるだろう。しかしそれは人としてごく当たり前のことだ。
当たり前に顔を上げることも、背筋を伸ばすこともできなくなるほどにビュワードを痛めつけた家族に対し、ゴールディアの怒りは大きくなる一方だった。
70
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる