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第57話 閑話 スミール伯爵領

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 ドレド・スミール伯爵は次期伯爵になる次男ビュワードから届いた書簡に、顔を曇らせている。

「ありがたいと言えばそうなのだが」

 スミール家と領民に対し、いくつかの支援の申し出が何故かスミール籍の息子から送られてきたのだ。
 勿論、やらせたのはアクシミリオその人に違いないが。

 ドレドは複雑な胸中を隠すこともしない。

「スミールでありながら、既にミリタス目線なのだな・・・」

 ビュワード、いやミリタスが申し出た支援は、ドレドが今まで気づかなかったことが多かった。

「私やトリードには見えず、ビュワードには見えている・・・か」

 自分たちを嘲るように呟く。
家を出された長男トリードは漸く見習い文官を卒業し、初級文官に肩を並べたところだ。
見聞を深めるためにスミール領を隈なく歩かされたはずだが。

「学院を中退したとはいえ卒業までは残すところ僅かだった。何故こんなにもトリードと差が・・・」

 学院で受けた授業よりも、より実践的な学びを積む環境のトリードと違い、ビュワードは侯爵配として、次期伯爵として、上を目指さねばならない立場だ。そのプレッシャーはトリードの比ではない。卒業して半年の間のビュワードの努力が垣間見えるのに比べ、今ひとつ必死さに欠け、弟に置いていかれるばかりのトリードの顔を思い浮かべてため息を吐く。

「贔屓目に見ても、これではダメだな」

 ミリタス一族からは、トリードに厳しい目を向けられている。
 引き立てるのは難しい環境だが、ドレドは腐らずに文官を勤め上げたら、数年後には何かよい道に乗せてやりたいと考えていた。
 しかしトリードは結局のところ己の環境に不貞腐れて、普通なら半年程度で終える見習いで二年を過ごし、役所の中では「使えない奴」と囁かれている。
 先輩の文官たちと領内を視察にまわり、その名がトリード・スミールと知られると「バカ息子は廃嫡されてよかった」と領民に嗤われるほど態度がだらしないとも。

「一度トリードと面談したい、予定をあけるよう連絡してくれ」

 どうせ暇だろう。
しかし文官として働く以上、多少なりとも予定があるだろうと考えてトレドはそう伝令を出したのだが。






「父上!漸く呼び戻してくださいましたね」

 面談したいと連絡しただけなのに、ドレドの都合も確認せず、トリードは屋敷に駆けつけた。

「おまえ、何しに来た?仕事はどうしたんだ!」

 先触れもなく、突然現れたトリードを見たドレドは、不快感のこもった声で長男を叱咤する。

「え?いや、だって呼び戻してくださったから少しでも早くと思って、全部放り出してきましたよ」
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