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婚約者は見知らぬ人
第11話
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カーラがローリスで初めて迎える朝は、強い風が埃を巻き上げるくもり空だった。
「うっぷっ、埃がすごいっ!」
外に出て最初の言葉は勿論文句である。
せっかくトイルが整えてくれた髪もフードに隠し、とっとと馬車に乗り込む。
「行きましょう」
ローリス辺境伯家は巨大な要塞のような屋敷だった。
シーズン公爵家も広く荘厳であるが、比べ物にならないほどの広さに、馬車の窓から見上げたカーラも啞然として固まってしまうほど。
「すごいですね、なんですかこれ」
「これ、そのまま砦として敵を防げるんじゃない?・・・お父様が宿泊先を宿にしたのは正解だったわ」
「そうかもしれませんね、この中に囲い込まれたら、救出もままならないでしょう」
緊張と警戒が皆を包む。
「まあでも、囲い込まれるのは今じゃない。そんなバカじゃないわよ、わたくしは」
自分に言い聞かせるように、カーラが呟いた。
門番が高さのある門扉をゆっくりと開くと、ボビンが馬を歩かせる。
エントランスの前がまるで大広場のように広がっていて、ボビンでさえどこに馬車を停めたものかと見回したほど。
手招きする者に気づき滑り込むと、車輪止めを噛ませてくれ、踏み台も扉の下に用意してくれた。
「いらっしゃいませ、シーズン公爵家ご令嬢様」
現れた執事は恭しく頭を下げたが、他の迎えはない。見回したカーラの仕草で、その意図を汲んだように付け加えた。
「申し訳ございません、国境近くで土砂崩れがあり、当主マトウ様もノーラン様も現場に向かっており不在でございます」
「ではここにいても、誰にも会えないと?」
「はい、復旧にはかなりの時間がかかりそうだと聞いております。御令嬢がお望みなら、客間にお泊り頂くよう申しつかっております。こちらでお待ちになりますか?」
「婚約者様が戻られるまでここで?ここに閉じ込められて、何をしていればいいの?」
「・・・はあ、図書室ならございますが」
こんな所でぼんやりしていても仕方がない。
「結構ですわ。婚約者様がお戻りになられて、お時間を頂けるようになったら、私どもは金の鴨亭におりますから遣いをくださるようお伝えして」
「畏まりました」
もう一度馬車に乗ろうとして、ふっと思いついた。
「そう言えばノーラン様はずぅぅっと隣国にいらしたのでしょう?いつ頃こちらにお帰りになられたの?」
「ノーラン様が隣国?さ、さあ?何のことでしょうか」
カマをかけたが、引っかからない。
しかし多少慌てた様子を見せたのでカーラはそれ以上は押さず、埃を避けるためにひらひらと扇を仰ぎながら降りたばかりの馬車へ戻っていった。
「うっぷっ、埃がすごいっ!」
外に出て最初の言葉は勿論文句である。
せっかくトイルが整えてくれた髪もフードに隠し、とっとと馬車に乗り込む。
「行きましょう」
ローリス辺境伯家は巨大な要塞のような屋敷だった。
シーズン公爵家も広く荘厳であるが、比べ物にならないほどの広さに、馬車の窓から見上げたカーラも啞然として固まってしまうほど。
「すごいですね、なんですかこれ」
「これ、そのまま砦として敵を防げるんじゃない?・・・お父様が宿泊先を宿にしたのは正解だったわ」
「そうかもしれませんね、この中に囲い込まれたら、救出もままならないでしょう」
緊張と警戒が皆を包む。
「まあでも、囲い込まれるのは今じゃない。そんなバカじゃないわよ、わたくしは」
自分に言い聞かせるように、カーラが呟いた。
門番が高さのある門扉をゆっくりと開くと、ボビンが馬を歩かせる。
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手招きする者に気づき滑り込むと、車輪止めを噛ませてくれ、踏み台も扉の下に用意してくれた。
「いらっしゃいませ、シーズン公爵家ご令嬢様」
現れた執事は恭しく頭を下げたが、他の迎えはない。見回したカーラの仕草で、その意図を汲んだように付け加えた。
「申し訳ございません、国境近くで土砂崩れがあり、当主マトウ様もノーラン様も現場に向かっており不在でございます」
「ではここにいても、誰にも会えないと?」
「はい、復旧にはかなりの時間がかかりそうだと聞いております。御令嬢がお望みなら、客間にお泊り頂くよう申しつかっております。こちらでお待ちになりますか?」
「婚約者様が戻られるまでここで?ここに閉じ込められて、何をしていればいいの?」
「・・・はあ、図書室ならございますが」
こんな所でぼんやりしていても仕方がない。
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「畏まりました」
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「ノーラン様が隣国?さ、さあ?何のことでしょうか」
カマをかけたが、引っかからない。
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