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ローリスの秘密

第6話

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 シーズン領を発ったボビンは、来た時と同じいくつかの宿で馬を乗り換え、ローリスに駆け戻った。
馬車なら片道四日と半日強かかるところを僅かな仮眠で駆け通し、ほぼ二日。

「お!」

 たまたま馬の様子を見に来ていたルブが、ボロボロのヨロヨロで戻ってきたボビンを見つけ、馬から飛び降りたボビンを部屋まで連れて行った。

「ボビンっ!早かったわね大丈夫?」

 あまりに疲れた顔をしているので、まずはいすに座らせ、水を飲ませる。

「ビルス様が、至急シーズンに戻られよと」
「わかったわ。ローリス家はどうするのかしら?私がシーズンに戻ることは報せていっていいのかしら?」
「はい。ビルス様から緊急の呼び戻しがあったから帰るとだけ、ローリスに報せればいいと。
ローリス家には、陛下が召喚状を出すそうです」
「そう、城からの使者はボビンみたいに不眠不休で走ったりしないから、ローリス家が陛下からの召喚を知るまで馬車なら6日、馬なら4日は猶予があるはずよ。だから今夜はしっかり眠って、明朝出発しましょう。ナラ、ローリス家に書状を用意するから明日のに届けられるように宿の主人に頼んでおいてくれない?あと明朝出立するから会計をね」

「はい」と言いかけたナラは、ん?と首を傾げた。

「明日の昼でよろしいのですか?」
「そうよ、なんなら夕方でもいい。何か勘付かれて追い掛けられたときのためにね」

 合点がいったと、ぽふんと手を叩 いナラが

「では夕方に、いえ、夜に届けて貰うことにしましょう!」
「それでいいわ。あとシルベスのシオンやヴァーミル様にも書状を書くから、それも出してもらうことになると伝えておいてね」

 ボビンを部屋で休ませると、荷造りと馬車の支度で大騒ぎとなったが、翌朝は全員時間通りに起床し、宿が用意した弁当を積み込んで、ローリス家の誰にも知られることなく静かにシーズン領に旅立つことが出来た。




「ああ、やっぱり離れてみるとローリスって本当に埃っぽいとわかるわね」

 ローリスを離れて半日もすると、森が続く。馬車の窓を開けて風を感じるカーラが、しっとりと露を含んだ空気を堪能する。

「本当に、肌も喜んでいる気がしますわ」

 のんびりトイルとそんな話をしていると、次の宿場に到着した。いつもならここでのんびり茶を飲むところだが。

「ティーポットにお茶を淹れてもらって」

 馬を休ませる間に最低限の買い物をして、また馬車に乗り込む。
特に早く走らせているわけではないが、休息に当てられる時間が短いため、馬たちには角砂糖やりんごなどの大好物を多めにやって機嫌よく走ってもらうことにした。

「さあ、今夜は次の宿で休むわよ!ボビン、お願いね」
「はぁい、畏まりっ!」
「もう何よそれ、飲み屋じゃないのよ」
「ははは、承知した!」

 笑うボビンが鞭を一発だけ軽く馬に当てると、馬たちもわかったように走り出す。
カーラがぽつっと呟いた。

「シルベスで買ったピン、先に送っておいて本当に良かったわ」
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